「解放新聞」(2021.10.15-3005)
「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の判決を9月27日午後、東京地裁(民事第12部、成田晋司・裁判長)が言い渡した。2016年4月の提訴から5年半以上かかって、ようやく原告が求めた①「全国部落調査」復刻版(以下「復刻版」)出版差し止め②ウェブサイト掲載情報の削除③損害賠償について、100%の内容ではないものの勝訴を手にした。複雑で評価に時間を要する判決内容だったため、裁判所の外で待ち構える原告・支援者らのもとに弁護団の「勝訴」の第一報が届くにはしばらく時間がかかった。裁判終了後、日比谷図書文化館で「全国部落調査」復刻版出版事件裁判判決報告集会をひらき、100人が参加した。
2016年2月に被告鳥取ループ・示現舎らがネット通販大手アマゾンで「復刻版」の販売予約受付を開始する旨を、自身のSNSや示現舎のウェブサイト上で告知した。中央本部はアマゾンに予約販売の中止を求め、アマゾンは予約受付を中止。しかし、鳥取ループ=Mには直接の中止要求を拒否されたため同年3月22日、横浜地裁に出版禁止等の仮処分命令を申し立て、同28日、出版禁止の仮処分決定が出た。さらに4月4日、「全国部落調査」、「復刻版」の地名や「部落解放同盟関係人物一覧」の個人情報等データのウェブサイト掲載にたいし、横浜地裁相模原支部に掲載禁止の仮処分を申し立て、同18日、掲載禁止の仮処分決定が出た。翌19日、本訴による正式な出版・ウェブサイト掲載差し止めを求め、部落解放同盟と同盟員ら211人(最終的には計248人)が原告となって、東京地裁に提訴した。
本訴の内容は①「復刻版」の出版差し止め②「全国部落調査」と「復刻版」、「部落解放同盟関係人物一覧」のウェブサイト上からの情報削除③出版・ウェブサイトへの情報掲載によって受けた▽差別を受けない権利の侵害▽プライバシー権の侵害▽名誉権の侵害にたいする原告1人あたり110万円、合計で約2億5千万円の損害賠償。
これにたいし判決は①「復刻版」の25都府県の部分については出版、販売、頒布してはならない②ウェブサイト上の「全国部落調査」の画像ファイル、同PDFファイル、同テキストファイルのうち25都府県については削除せよ③ウェブサイトの25都府県については、今後ウェブサイトへの掲載、書籍の出版、出版物への掲載、放送、映像化など一切の方法による公表をしてはならない④被告は、原告219人にたいして合計約488万円の損害賠償金を支払え(1人あたり5500円〜4万4000円)⑤被告らの反訴(「復刻版」出版の差し止め、研究・表現の自由の侵害にたいする損害賠償請求)は棄却する、とした。
判決が、地名リストの公表が住所や本籍と結びつくことで容易に身元調査に使われるとし、プライバシー侵害を認めた点は評価できる。しかし、リストに掲載された地名が自身の過去または親族の住所・本籍である原告、部落出身などの個人情報を広く知られているか知られることを容認しているとされた原告については、プライバシー侵害も損害賠償も認めず、「復刻版」の出版やウェブサイトからの削除が、権利侵害を認めた原告の都府県に限られたことは最大の問題である。また、「差別されない権利」もアウティング被害も認められなかった。
糾弾闘争本部の安田茂樹・事務局次長の司会進行による報告集会では、はじめに、河村健夫、指宿昭一、山本志都、中井雅人の各弁護士が、判決の内容と評価についてのべた。中央本部を代表して西島書記長が、原告団を代表して片岡副委員長がそれぞれあいさつ。この間、原告と裁判闘争を支え続けてきた支援者・団体を代表して、当日の裁判傍聴にもかけつけた大阪市立大学教授の阿久澤麻理子さん、フリーライターの李信恵さん、部落解放埼玉県共闘会議の金子彰さんが連帯のあいさつ。最後に坂本副委員長の発声による団結がんばろうで、完全勝訴をめざしてさらに闘う意志を固めた。
(原告団・弁護団声明(要約)を6㌻に掲載。原告団・弁護団声明の全文は次号に掲載。報告集会は詳報を予定)。
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