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東京高裁に鑑定人尋問、再審開始を求める声を大きくしよう

「解放新聞」(2021.10.15-3005)

 弁護団は、昨年末に、スコップに関して、平岡意見書を提出するとともに、証拠開示勧告申立書を東京高裁に提出した。当時の埼玉県警鑑識課員による鑑定では、スコップ付着の土と比較する対照資料として、死体発見現場そのものではなく、死体発見現場付近に穴を掘って土を採取しており、弁護団は、鑑定の経過などを明らかにする必要があるとして、土を採取したさいの捜査報告書類、採取記録(穴などの写真、ネガ、スケッチ等)や採取現場を指示した書類などを証拠開示するよう検察官に求めた。

 しかし、検察官は、5月18日付けで、「弁護人が開示を求める証拠であって、未開示のものは見当たらない」と回答する意見書を提出してきた。

 スコップ付着土壌についての埼玉県警鑑識課の星野鑑定は、狭山事件の有罪判決を支える証拠の一つであり、これに信用性がないことは再審の理由となる重要な争点の一つである。また、警察はこのスコップを部落出身のIさんの養豚場のものであると決めつけ、見込み捜査をおこなっており、スコップは差別捜査を明らかにする争点でもある。「見当たらない」というだけの回答はあまりに不誠実だ。

 弁護団は、7月14日付けで、さらに開示を求める意見書を提出、7月19日の三者協議をふまえて8月10日にも意見書を提出し、関連する書類が一切存在しないことは考えられず、狭山警察署やさいたま地検もふくめて、再度、精査することを検察官に求めた。東京高検の検察官に証拠開示に応じるよう強く求めたい。証拠開示を実現する闘いは続いている。再審における証拠開示を検察官に義務づける法改正を求めていこう。

 弁護団は、7月1日に、検察官が昨年末に提出した死体運搬についての意見書の誤りを明らかにする流王意見書(土地家屋調査士による意見書)を補充書とともに提出した。提出された新証拠は242点になった。

 弁護団は、2018年12月に、流王・土地家屋調査士の報告書を新証拠として提出した。流王報告書は、証拠開示された事件当時の航空写真を分析し、死体を殺害現場(雑木林)から芋穴まで運んだという経路上に、45センチほどしかない狭い区間があり、そのなかにさらに狭い地点があり、死体を前にかかえて運んだとは考えられないことを指摘し、自白が虚偽であることを明らかにした新証拠だ。

 これにたいしても、検察官は昨年末に反論の意見書を提出してきた。検察官の意見書は、死体運搬経路中に狭い区間があることを否定できず、「横向きにカニ歩きすれば死体を前にかかえた状態でも運べる」などと、自白にも出てこない方法を主張して、自白の不自然さをごまかそうというものである。弁護団はこの検察意見書にたいする反論として、今回、流王意見書と補充書を提出したのである。流王意見書は、開示された事件当時の航空写真からコンピュータを使って客観的に運搬経路の幅を計測していることを報告している。

 そもそも死体を前にかかえて、わざわざ雑木林のなかから畑の方へ運ぶという自白じたいが不自然である。殺害現場の自白については、隣接する畑で当日農作業をしていた男性が悲鳴を聞いていないという証言もある。穴に逆さづりにして一時的に隠したという自白も不自然であるし、死体の足首には逆さづりの痕跡がないことも自白の虚偽を示している。また、証拠開示された取調べ録音テープから、こうした自白が警察官の誘導によってつくられていったことも明らかになっている。裁判所は、殺害現場、死体運搬、逆さづりという一連の自白を総合的に検討し、虚偽自白であることを認め、再審を開始すべきである。

 検察官は、昨年12月に、殺害方法や死体運搬などについて、新証拠にたいする反論の意見書と法医学者の意見書を提出、今年3月には、筆跡について弁護団が提出した新証拠についての意見書を提出した。さらに、6月30日には、万年筆関係の新証拠、とりわけ下山第2鑑定に反論する意見書を提出した。

 弁護団は、これらの検察官意見書にたいして、その誤りを明らかにし、徹底して再反論する書面の準備をすすめているところである。そして、今後、これら検察官意見書の誤りを明らかにする新証拠(筆跡、万年筆、殺害方法関係)と意見書、自白が虚偽であることを明らかにした新証拠等を今後提出したうえで、来年には鑑定人尋問を請求する。大きなヤマ場である。

 狭山事件では、石川さんと弁護団が新証拠を提出し、再審を求めて44年以上が経過するが、一度も鑑定人尋問がおこなわれていない。この第3次再審請求では、裁判所の勧告で証拠開示がなされ、それをもとに専門家の科学的な鑑定が数多く新証拠として提出されており、鑑定人尋問は不可欠である。東京高裁第4刑事部(大野勝則・裁判長)は、鑑定人尋問をおこない、再審を開始すべきである。

 私たちは、検察官への反論、新証拠提出など弁護団の活動を全面的に支援するとともに、東京高裁が鑑定人尋問をおこない狭山事件の再審を開始するよう求める声を大きくしていきたい。

 布川事件で再審無罪判決をかちとった桜井昌司さんが、えん罪の原因と責任を問う国家賠償請求訴訟の控訴審で、さる8月27日に判決が出され、桜井さんの完全勝訴となった。国、県は最高裁に上告せず、この勝訴判決が確定した。東京高裁(村上正敏・裁判長)は、桜井さん、杉山さんの自白が虚偽自白であるとしたうえで、警察官だけでなく、検察官の取り調べも虚偽自白を強要したもので違法とし、それがなければ逮捕も起訴もその後の拘禁、有罪判決と受刑生活もなかったとして損害賠償を認めた画期的な判決である。東京高裁判決は、警察官が取り調べで「ポリグラフ(ウソ発見器)で、おまえの言っていることがウソだとわかった」「母親が早く認めろと言っている」などと事実ではないことを伝えて自白を強要したことをあげて取り調べの違法を認定しているが、狭山事件において石川一雄さんも同じような取り調べを受けている。高裁判決が、えん罪に共通する警察、検察の違法な取り調べを厳しく指摘したことは狭山再審の闘いにとっても大きな意義がある。こうした自白の虚偽やそれを引き起こした違法な取り調べ・捜査の実態は、検察、警察が隠していた証拠の開示によって明らかになったことである。えん罪をつくり出す違法な取り調べの問題とともに、証拠開示の重要性があらためて示されたといえよう。

 こうした布川国賠勝訴判決の意義を狭山の闘いに結びつけて訴えていこう。東住吉えん罪事件で再審無罪をかちとった青木惠子さんや湖東病院事件で再審無罪をかちとった西山美香さんも国賠裁判を闘っている。こうしたえん罪犠牲者の闘いと連帯し、「再審法」改正の必要性を訴えよう。

 きたる10月31日は、狭山事件で東京高裁(寺尾正二・裁判長)が石川さんに無期懲役判決をおこなって47年を迎える日である。10月29日には、東京・日比谷野音で狭山事件の再審を求める市民集会が2年ぶりにひらかれる。感染防止をふまえての参加をよびかけたい。石川一雄さん、早智子さんは、感染予防と体調管理に気をつけて、元気で生きる闘いを続けている。

 各地においても、ひき続き感染防止を徹底しつつ、集会や学習会、街頭宣伝をおこない、58年におよぶえん罪の真相と石川さんの無実を訴えよう。狭山再審の世論を拡大し、東京高裁に再審開始を求める署名や高裁、高検にたいする要請ハガキにとりくもう。

 ちかく衆議院選挙が公示される。再審における証拠開示の法制化、事実調べの実施のルール、再審開始決定にたいする検察官の抗告を禁止することなどを盛り込んだ再審法の改正、誤判救済のための司法改革を国会に求めていこう。

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