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差別と戦争を許さず、改憲阻止の闘いをすすめよう

「解放新聞」(2021.11.05-3007)

 9月3日、菅義偉・首相は、9月下旬に実施される自民党総裁選挙不出馬を表明した。マスコミの取材には、「総裁選よりもコロナ対策に専念する」とのべ、質問にはいっさい答えず、首相の座を放り出した。

 4度目の「緊急事態宣言」下での爆発的な感染拡大のなか、菅政権は新型コロナウイルス感染者の入院を制限し、中等症などの患者は原則自宅療養とする方針に転換した。「安心・安全」という言葉をくり返すだけで、有効な政策を打ち出せなかった政権によって、深刻な政治不信がもたらされた。政府や行政からの感染症対策のための行動抑制のメッセージは人びとに届かなくなり、感染拡大が止まないという悪循環が生じた。私たちには人命を守る政治が必要だ。政権浮揚の目的でオリンピックやパラリンピック開催に突きすすみ、コロナ対策の議論もおこなわない自公政権にノーを突きつけなければならない。

 この間、森友・加計学園や「桜を見る会」をめぐる問題では、公文書の改ざんや破棄、行政の私物化がおこなわれた。そして、歴代内閣が継承した「集団的自衛権の行使は違憲」としてきた憲法解釈の変更や日本学術会議の会員任命拒否など、説明責任をないがしろにした独善ぶりが国民の政治不信を増幅させてきたことを忘れてはならない。世論調査では「安倍・菅政治」の路線を「転換すべきだ」との回答が約7割を占めた。9年近い「安倍・菅政治」は、国民の代表で構成される国会の軽視と説明しない政治だった。民主主義をとり戻す闘いを強化して、「安倍・菅政治」に終止符を打たねばならない。

 菅前首相が政権を放り投げ、岸田文雄・新政権が誕生した。岸田首相は、コロナ対策に最優先でとりくみ、数十兆円規模の経済対策を年内にまとめ、コロナ禍で苦しむ女性や非正規労働者、学生に個別に現金給付をおこなう考えを表明した。新しい資本主義を確立し、成長と分配の好循環で格差を解消する考えを示した。しかし、具体性や実効性は疑わしく衆議院議員選挙を意識したばらまき政策の感は否めない。

 岸田首相は、アベノミクスを批判し、「新自由主義からの転換」を表明している。しかし、岸田内閣や自民党幹部の主要なメンバーは、安倍元首相の盟友・麻生太郎が副総裁として自民党を牛耳り、幹事長には安倍元首相に近い甘利明(麻生派)、政調会長には安倍元首相が全面支援した高市早苗(無派閥)、官房長官は安倍元首相の出身派閥・細田派の松野博一が起用され、アベノミクスや新自由主義を推進してきた人物で占められている。そのうえ、岸田首相は森友問題の再調査に否定的で、桜を見る会をめぐる安倍元首相の責任問題も追及しないと明言。これでは、岸田首相が掲げた「新しい自民党の姿」とはほど遠く、「安倍傀儡政権」との批判は免れない。

 今年5月、朝日新聞社が全国世論調査をおこなった。

 大災害時などに内閣が法律に代わる緊急政令を出し、国民の権利を一時的に制限するなどの「緊急事態条項」の創設について3択で問うた。結果は、「いまの憲法を変えずに対応すればよい」54%、「憲法を改正して対応するべきだ」33%、「そもそも必要ない」6%だった。

 しかし、菅前首相は、記者会見で「緊急事態への国民の関心が高まっている」との見方を示し、私権制限に言及した。これにたいして、立憲民主党の枝野幸男・代表は、護憲集会で「必要な対策を打てないのは政府の政治判断が原因だ。憲法に押し付けるのは許されない」と批判した。

 憲法でも、感染防止のために必要な私権の制限は、公共の福祉にかなうものとして認められており、憲法の制約があるために必要な対策が打てていないわけではない。事態にたいし、政府が根拠なく、楽観論にもとづき、命や暮らしを守ることを最優先にしない。その政策・政治判断が、感染症対策に不十分な結果をもたらしており、まったく関係ない憲法に責任を押し付けていること自体が、憲法の問題としても、感染症対策としても、許されない。

 また今年6月、憲法改正手続きを定める「改正国民投票法」が、多くの課題を残したまま成立した。もっとも大きな問題点は、テレビ・ラジオのスポットCMやインターネット広告がほぼ野放し状態であることだ。投票日の14日前から投票運動のためのCMは禁止されるが、それ以外の意見広告やネット広告には制限がない。2007年の法制定当時は広告費全体の1割足らずだったネット広告は、2019年にはじめてテレビ広告を上回った。無規制のままでは資金力で投票結果が左右される。さらに、最低投票率の規定もなく、国民全体の意思が反映されない可能性がある。CM規制、最低投票率ともに、制定時の付帯決議で、施行までに必要な検討を加えるとされていたが、議論はいっこうにすすんでこなかった。

 こうしたなか、自公政権は、「自衛隊の明記」「緊急事態条項の導入」「教育の充実」「合区の解消」などの自民党の改憲4項目の議論に入ることを目論んでいる。自民党の改憲4項目が、一括して国民投票に付される可能性がある。

 実施されれば、国民は個別に賛否を表明できなくなり、棄権などの不本意な投票を強いられる。

 法付則で「施行から3年を目途」に必要な改正をおこなうことが明記されているが、明らかな欠陥をもつ法律だ。自民党などが主張する「憲法改正の是非を問う国民投票の実施に向けた環境が整った」わけではない。これ以上の憲法破壊を許さず、「改正国民投票法」を改正させなければならない。

 10月30・31日、「大震災から10年!防衛より防災!共に生きる確実な明日へ 憲法理念の実現をめざす第58回大会(宮城大会)」(第58回護憲大会)が開催され、ユーチューブ(YouTube)で配信されている。

 各問題提起や報告からは、自公政権による政策によって、貧困・格差拡大の問題が深刻化し、偏見・差別が広がる社会がつくり出され、一人ひとりの生命が序列化され選別される社会が生まれてきていること。アベノミクスや働き方改革のなかで人間と労働を国家と経済の道具として、あるいは、国家と経済に貢献させるものとするなど、人間の安全保障が置き去りにされ、国家の安全保障が優先される社会づくりがおこなわれてきたことなどが訴えられた。

 いまこそ、「平和主義」(憲法9条)「基本的人権の尊重」(憲法11条)「個人の尊厳」(憲法13条)「平等権」(第14条)「生存権」(憲法25条)が守られ、平和と人権、民主主義と共生など憲法理念の実現に向けたとりくみが各地で求められている。

 私たちには、「戦争法」をはじめとする憲法違反の法律を廃止し、平和といのちと人権が守られる社会をとり戻し、未来にひき継ぐ責任がある。そして、戦争する国づくりをすすめ、新自由主義路線にもとづき貧困と格差を拡大する自公政権と対決し、立憲主義と平和憲法を守り、人権・平和・民主主義の確立をめざし、すべての市民と連帯して闘い抜こう。

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