pagetop

NEWS & 主張

主張

 

全国水平社創立100年の闘いを受け継ぎ、
部落解放運動の前進に向けた思想の再構築を

「解放新聞」(2022.02.25-3018)

 本年は、全国水平社創立100年という大きな節目の年である。全国水平社は、それまでの同情融和的な施策を拒絶し、部落民自身の自主的な組織的闘いをすすめることによって、部落差別からの解放をめざすことを宣言し、全国の部落民にその闘いへの結集をよびかけたのである。

 こうした部落民自身の闘いをよびかけることは、それまでの行政的施策が、部落差別の撤廃にどのような成果も生み出さず、かえって差別と貧困を深めていくものにしかならなかったことと真剣に向き合った部落の若者たちの血の叫びでもあった。部落民であることを隠し、部落から逃げ去ることでは、自分たちを辱める部落差別から解放されないことを訴え、部落民自身が団結し、部落民自身による差別と屈辱からの解放を実現するための組織と行動が必要であるとして、全国水平社の創立に向かったのである。

 全国水平社創立には、その前年の1921年に出版された雑誌『解放』に掲載された佐野学の「特殊部落民解放論」が大きな影響を与えた。この「特殊部落民解放論」のなかの「解放の原則」では、「特殊部落民がまず不当なる社会的地位の廃止を要求することよりはじめなければならない」とされていた。奈良で燕会という親睦団体で活動していた西光万吉と坂本清一郎、駒井喜作や米田富も加えて、「よき日の為に―水平社創立趣意書」という小冊子が発行されたのである。

 この小冊子「よき日の為に」によって、「部落以外の人々によってなされた過去の運動が常に不徹底であったから、部落の解放は部落民自身によって真剣に展開されねばならない」との訴えが拡がった。また、それは部落差別を日本社会のなかに根深く存在する構造的な問題としてえぐりだし、「部落問題は部落民自らの覚醒と努力によって差別解決すべきもの」(南梅吉の創立大会開会の辞)として、全国水平社の創立の意義を明らかにしたものであった。

 全国水平社の創立は、部落民自身の闘いをよびかけるものとして、以後、全国各地に水平社が結成された。各地の水平社の闘いの中心は、創立大会でも決議されたように、部落民にたいする差別言動への徹底糾弾であった。この徹底糾弾の闘いは、当初は侮蔑的な差別言動への抗議と個人の謝罪を求めるものであったが、その限界も明らかになり、闘いは、部落差別を生み出す社会的政治的な制度や意識構造に向かうことになるのは必然であった。

 一方、そうした闘いの方向は、これまでの融和的運動からの決別を明確にして、当時の政府から警戒され、警察からの弾圧も強まった。また、全国水平社本部と各地の水平社の闘いの方向が統一しない情況もあり、たびたび闘いの方向をめぐって対立が起こった。しかし、そうした多くの論争や対立を克服して、全国水平社が水平運動の統一と団結を守ってきたのは、部落民自身による部落差別からの解放をめざすという歴史的な使命を自覚し、その実現のために奮闘してきた多くの先達たちの献身的な努力があったからである。

 また、1923年に京都市で開催された全国水平社第2回大会では「水平運動の国際化に関する件」という議案が提出されている。「わが水平社は、各国の解放運動と連絡を取り、相ともに提携して水平運動の達成に努めたい」とするものであった。大会では、さまざまな議論があったものの、この議案提案は、全国水平社がいち早く、世界の被差別民衆との連帯を明確にした画期的なものであった。さらに具体的な国際連帯のとりくみとしては、1923年に朝鮮の被差別民である「白丁(ペクチョン)」を中心に組織された衡平社との連帯があり、全国水平社は、衡平社第2回大会に祝辞を送るなど組織的な連携を実現している。

 このように全国水平社の闘いは、当時の時代的な運動の制約があるとはいえ、今日の部落解放運動の基本的な方向である差別糾弾闘争の強化、住環境などの部落改善の推進、反差別共同闘争や国際連帯活動と重なるとりくみをすすめてきた。また、全国水平社創立大会での東西本願寺にたいする決議や、その後の「募財拒否」などによる宗教界への問題提起もふくめて、今日的な闘いの課題がすでに提示されていたのである。

 しかし、こうした全国水平社の先駆的な闘いは、当然、天皇制ファシズムによる侵略戦争に向かうなかで、厳しい弾圧を受けることになる。全国水平社は「言論出版集会結社等臨時取締法」にもとづく当時の内務省や軍部による解散命令や解散届の提出要請に抗して、反ファッショ統一戦線のよびかけや大和報国運動との決別など、侵略戦争に反対するとともに、全国水平社存続への努力を重ねたが、最終的には、法的に消滅した。このことは、全国水平社が部落差別撤廃に向けた画期的な闘いを組織しながら、戦争協力を余儀なくされた痛苦の歴史でもある。しかし、敗戦後、いち早く部落解放全国委員会として部落解放運動を再建できたのは、侵略戦争をすすめた天皇制ファシズムと軍部の弾圧にたいする抵抗、何としても部落差別を撤廃していくという先達の想いがその根底に息づいていたことも確認していく必要がある。

 そうであればこそ、全国水平社の戦争協力という誤りをくり返すことなく、今日の岸田政権による憲法改悪とあらゆる戦争推進政策にたいする断固反対、人権と平和、民主主義、環境を基軸にした部落解放運動の前進こそが当面の重要な課題である。とくに国際社会のなかでは、宗教や民族、人種などによる紛争や武力対立が続発している。さらに、グローバル化がすすむ一方で、「自国第一主義」を掲げる差別排外主義が台頭しており、対話と協調を基調にした課題の解決を困難にしているのが現代社会の実相でもある。

 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡がりが続くなかで、こうした国際社会の歪みがいっそう激化している。日本社会でも、長期化する感染症の影響もあり、漠然とした不安や不満を背景にして、部落出身者や在日コリアン、障害者をはじめとした社会的弱者にたいする差別や忌避が強まっている。

 さらに差別や暴力を公然と煽動するヘイトスピーチや、インターネット上での差別情報の氾濫も深刻な状況である。これまで「部落差別解消推進法」や「ヘイトスピーチ解消法」「障害者差別解消法」「アイヌ民族施策推進法」などの個別人権課題にかかわる法的措置は実現したものの、人権侵害にたいする救済の仕組みである国内人権委員会はいまだに設置されていない。

 この間、日本が加盟、批准している国連人権関係諸条約の委員会からもくり返し勧告を受けているが、政府はその政治的責任を果たそうとしていない。国内人権委員会の設置は喫緊の課題であり、さらにとりくみを全力ですすめていこう。また、部落差別によるえん罪にたいする狭山再審の闘いも、反差別共同闘争の力で断固勝利していかなければならない。

 全国水平社創立100年の闘いの歴史をふり返れば、今日の部落解放運動は、さらに大きく前進する闘いの条件を生み出してきた。当時の部落民自身の自主的解放をめざした闘いは、部落解放中央共闘会議、『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議、全国の同企連や人企連のとりくみ、反差別国際運動(IMADR)の活動など、それぞれの立場からの連帯・協働による広範な共同の営みとして、部落差別をはじめ、あらゆる差別を許さない運動へと発展している。

 全国水平社創立100年という大きな節目にあたって、その闘いと歴史を継承するわれわれは、こうした運動の大きな成果とともに、組織内外の提言、苦言を率直に受けとめ、反省や課題をしっかりと明らかにすることが求められている。「全国水平社創立宣言」に込められた先達の覚悟を引き受け、部落解放―人間解放という歴史的な使命の完遂に向けて、部落解放の闘いを大きく前進させよう。

「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)