「解放新聞」(2022.04.15-3023)
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新型コロナウイルスの感染が、10代以下の子どもたちの間にも拡がり、子どもの陽性者数が高止まりで推移するなか、新年度が本格的にスタートし、人の往来や接触の機会が増えることで、学校や家庭を通じて、ふたたび感染が拡大する恐れがあるとの懸念もある。
多くの子どもたちにとって、新たな場所で新たな出会いを迎える新学期は、不安と緊張、期待と希望などさまざまな感情が交錯するなかではじまっていく。ひとつひとつの出会いを積み重ね、つながり、ともに学び育つ仲間づくりに向けて、新学期をどのように迎えるのか。学校現場の教師にとっては、ともに学び育つ集団づくりに向けた大事なスタートであり、人生の入り口に立つ子どもたち、とりわけ新入生にとっては、将来を左右することもある大きな節目である。
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一昨年来のコロナ禍による経済状況や就労環境の悪化が、女性や非正規労働者など、もともと厳しい状況に置かれていた社会的弱者を直撃している。
その結果、経済的な困窮、虐待など、生活課題やさまざまな事情をかかえる子どもたちにとって、空腹を満たす給食が提供され、家族以外の大人に見守られながら一日の多くの時間を過ごす学校を、安心・安全な居場所にしようと努力が重ねられている。
感染症の収束の見通しがたたず、これまでの生活様式を大きく変えざるを得ない状況に追い込まれたなかで、子どもたちの学びを止めないために、安心・安全な学校づくりのために、手探りの状況で日日尽力されている教職員をはじめ学校関係者の方がたにたいして、心から敬意を表するとともに、ひき続きの奮闘をお願いするものである。
部落解放同盟も、各地の学校、地域、家庭と連携し、子どもたちの学びと育ちの実情を把握しながら、必要に応じて、国や自治体にたいして人的措置や財政支援を求めるなど教育条件整備のとりくみをすすめていくものである。
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これまでの生活様式や行動様式など、日常生活のあらゆる場面でさまざまな制約や制限が課されるなか、子どもたちをとり巻く状況も大きく変わろうとしている。
ひとつは、子ども政策を総合的に推進していくため新組織「子ども家庭庁」の創設である。当初は、子ども庁としての発足することが計画されていたが、2月25日、政府が閣議決定した設置法案をふくめた関連法案では、親もふくめた家庭への一体的な支援が必要との自民党内部の意見に配慮し、「子ども家庭庁」へと変更された経緯がある。
しかし、この変更理由は建前であって、家族の絆や子育てで家庭が果たす役割を強調する、自民党内の伝統的家族観を重視する保守派に配慮した後ろ向きの結果であるとの報道もある。
また、「子どもの権利が強調されすぎる」など反対意見に押されて、子どもの権利擁護を推進する第三者機関「子どもコミッショナー」の設置も見送られた。
弱い立場にある子どもたちは、権利侵害や不利益を受けても改善を訴えることが困難であり、行政から独立した組織が、子どもの権利保障の実態を監視し、子どもの権利擁護と進捗のために必要な法制度の改善の提案や勧告をおこなう仕組みが不可欠である。
日本政府は、国連子どもの権利委員会での政府報告書の審査のたびに、独立した監視機関の設置について勧告を受けている。
保護者からの虐待により、命を失う子どもたちがあとをたたない。政府、与野党ともに、子どもたちの悲痛な叫びに真摯に耳を傾け、悲惨な現実を直視し、子どもの命と権利を守る、実効性のある行政機関の設置に向けて建設的な論議を求めるものである。
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つぎに、この4月1日から、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる「改正民法」が施行された。2018年の改正法の成立から、3年の準備期間が設けられていたが、社会全体の認識はもとより、当事者である子どもたちへの周知や自覚を促すとりくみは十分とはいえない状況である。
商取引において、親の同意がなくとも高額の取引ができるようになる反面、「未成年者取消権」が使えなくなり消費者トラブルに巻き込まれることなど、判断力、知識、経験の不足につけ込んだ悪質な事件に巻き込まれる懸念が払拭されていない。また、高校の教室内に、未成年と成人が混在するという教育、生徒指導上の課題も整理が尽くされたといえる状況にはない。
1994年の「子どもの権利条約」の批准から28年が経過し、ようやくにして子どもの権利保障の法的枠組みの整備や行政機関の設置が緒に就いたばかりである。子どもから大人になるまでの準備期間のなかで、みずからがもつ権利について学ぶ機会を保障し、自立を促す施策を充実することが求められている。
今回の「子ども家庭庁」の法案審議を契機に、あらためて「子どもの権利条約」の普及と具体化にとりくむとともに、人権教育の豊かな実践をとおして子どもたち自身の権利学習や権利保障に向けた具体的なとりくみをすすめていこう。
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