「解放新聞」(2022.04.25-3024)
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国連は3月8日を「国際女性デー」と定めており、世界各地で記念行事などさまざまなとりくみがおこなわれた。日本でも、女性団体や企業などによる記念行事やイベントが開催され、性被害の実態を訴えるとともに、重罰化に向けた「刑法」改正を求める「フラワーデモ」が全国各地でおこなわれた。また、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも、国際社会の共通目標として人権やジェンダー平等などが取り上げられ、国内外で女性差別撤廃のとりくみがすすんでいる。
「世界経済フォーラム」が、2021年3月に発表した「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」のランキングで、日本は156か国中120位である。とくに、「政治」分野では、過去最低の147位となっている。ジェンダーギャップ指数が上位の北欧諸国では、それぞれの国が積極的に男女格差を解消するための施策を推進しており、日本のように、扶養控除の制限などの税制や社会保険制度などによって労働をひかえたりする必要がない。また、性的少数者(LGBTQ)にたいしても平等を推進するとりくみがおこなわれている。
日本では、「女性活躍推進法」制定と同時に目標として掲げた「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%」は達成できず、10年間も先送りとなった。昨年11月に発足した第2次岸田内閣でも、入閣した女性は3人だけである。「指導的地位に占める割合30%」は実現できるのだろうか。
近年、結婚後も子育てと両立させながら働く女性が増えるとともに、子どもができても継続して働きたいと望む女性も増えている。男女がともに働き続け、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の両立が可能となるような社会の実現をめざすためには、女性が出産や育児・介護でも、仕事を辞めずに働き続けることができる環境整備や、男性にも取得しやすい育児・介護休業をはじめ各種休業制度の充実と待機児童の解消などが重要な課題だ。また、労働者が性別によって差別されることがなく、労働時間の短縮や、「同一労働、同一賃金」を実現していくためには、それぞれの職場で意欲と能力を充分に発揮できるように、それを実現させる社会意識の変革と制度やしくみが必要だ。
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2019年6月21日、スイス・ジュネーブでの第108回ILO(国際労働機関)総会で「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約」(暴力・ハラスメント条約)が採択され、条約を補足する勧告も採択された。2021年、6月25日にこの条約が発効し、アルゼンチン、ナミビアをはじめ11か国が批准している。条約には暴力やハラスメントの定義、保護される対象となる人の雇用の契約形態にとらわれず幅広くふくまれる内容になっている。
しかし、日本政府を代表してILO総会に参加した厚生労働省国際労働交渉官は、条約の採択を歓迎したものの、日本が批准をするかはさらに検討が必要だとのべている。
世界各国で、すべての人にたいする暴力やハラスメントをなくそうという動きが強まっている。しかし、日本では、官僚のセクハラ発言や大臣によるセクハラ擁護発言、国会議員によるLGBTQ当事者にたいする差別発言など、人権意識の低さが明らかになっている。社会全体で暴力が人権侵害であり犯罪であるとの認識を共有するためには、地域・家庭・学校・職場だけでなく、あらゆる場での人権教育・研修を充実させなければならない。また、被害を受けているのは女性だけではなく、被害男性もいる。現在、専門の相談窓口を置く動きも拡がっているが、暴力に苦しむすべての人にたいする支援体制の確立に向けて「暴力・ハラスメント条約」の早期批准をかちとることが重要だ。
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2020年12月に「第5次男女共同参画基本計画」が閣議決定され、第6分野の「基本認識」「施策の基本的方向」「具体的な取組」のなかで「部落差別」が明記されたことは大きな前進である。しかし、国連女性差別撤廃委員会が指摘しているマイノリティ女性の意思決定の場への参画などについて記述がない。私たちはこれまで同様、男女共同参画審議会委員の一般公募があれば積極的に応募し、委員会のなかで部落女性をはじめ、マイノリティ女性の声を反映させていこう。
さらに、この間、アイヌ女性や在日コリアン女性、部落女性の三者で、国連女性差別撤廃委員会から日本政府に出された勧告をふまえた関係省庁との交渉をおこなってきた。今後も、マイノリティ女性にたいする施策の充実と政府による実態調査を協働で要求するなど、粘り強く働きかけをしていかなければならない。
また、「旧優生保護法」によって強制された不妊手術の問題では、今年2月、大阪高等裁判所は、この法律が憲法に違反すると判断し、国に賠償を命じる初めての判決を言い渡した。全国で起こされている一連の裁判で、国の賠償責任を認めた判決は初めてだ。3月には、東京高裁でも同様の判決が出されているが、今後も、国家賠償訴訟を支援し、国の責任の明確化と謝罪を求めていかなければならない。さらに、ハンセン病家族訴訟でも、2019年6月に熊本地裁が国への損害賠償を命じたが、ひき続き、国の差別政策の誤りを明確にしていくために支援を強めていこう。部落差別撤廃の闘いとともに、女性差別、障害者差別、性的少数者差別や、複合差別にもしっかりと視点を置いた協働のとりくみをすすめよう。
今日、新型コロナウイルス感染症が長期化し、誤った情報や偏見により医療従事者や家族、感染者にたいする差別が拡大し、人権状況がいっそう後退している。差別扇動や偏見による暴力事件を許すことなく、あらゆる差別の撤廃に向けて積極的にとりくむ必要がある。沖縄・辺野古の米軍基地問題も、日本社会の差別構造の問題であることをしっかりと捉え、女性部としても反戦・平和の共闘運動を積極的にすすめていこう。
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2019年12月に新型コロナウイルス感染症が国内で確認され、20年1月から急速に拡大し、私たちの生活は激変した。多くの制約、制限を強いられてきたなか、全国女性集会の開催について中央女性運動部で議論を重ねてきた結果、2年間開催を延期してきた。
今回、集会規模を縮小して、5月14、15日の2日間、熊本市内で開催する。すでに、熊本県連女性部を中心に実行委員会が結成され、集会成功に向けたとりくみがすすめられている。分科会は、部落解放・人権政策の確立に向けたとりくみ、とくに「部落差別解消推進法」を具体化する闘いや、狭山再審闘争をはじめ、識字活動の課題、教育・保育運動の課題、複合差別の視点を含めた男女平等社会の実現、自立自闘に向けた闘い、人材育成と女性部組織の拡大、「人権と福祉のまちづくり」運動の推進などのテーマに分かれて運営する。分科会によっては、学習講演形式の形ですすめる分科会もある。各分科会で、全国の部落女性のとりくみや実践交流と論議を深め、活発な意見を出し合おう。
女性をとりまく情況は大きく変化している。第65回全国女性集会での実践交流や討議の成果を活かし、部落解放運動だけではなく、さまざまな差別と闘う国内外の女性たちと反差別・反貧困のネットワークをつくることが求められている。
今年は全国水平社創立100周年という大きな節目の年である。女性部が先頭に立って、憲法改悪に断固反対し、差別と戦争に反対する闘いを強化しよう。また、人権と平和、民主主義や環境の確立をめざして、7月の参議院選挙でも推薦候補の必勝へ全力でとりくもう。さらに、女性差別を許さず、ジェンダーによって役割を強制されたり、生き方を制限されたりすることのない男女平等社会の実現に向けて、部落女性の力を総結集し、第65回全国女性集会を成功させよう。
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