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全国水平社の闘いの歴史をふまえ、第79回全国大会を成功させよう

「解放新聞」(2022.05.25-3028)

 第79回全国大会に提案する一般運動方針案がとりまとめられた。運動方針案は、全国水平社創立100年という大きな節目を迎えた部落解放運動の今後の闘いの課題を提起している。運動方針案の豊富化に向けて都府県連・地区協議会・支部で論議しよう。

 今日の国内外情勢は、新型コロナウイルス感染症がいまだに収束しないなかで、世界経済にも大きな影響を与えている。しかもウイルスの変異株がいくつも発見され、感染者数がなかなか減少しない状況が続いているが、新自由主義政策による「自国第一主義」のもとで、感染症対策、予防に向けた国際的連携もすすんでいない。

 さらに、北大西洋条約機構(NATO)への加盟をめぐって緊張が続いていたロシアとウクライナの対立は、2月のロシアによるウクライナ侵略で、民間人をふくめて多くの犠牲者が出ている。国連総会では、即時停戦を求める決議が採択され、世界各国もロシアにたいして経済制裁などをおこなっているが、いまだに激しい戦闘が続いている。また、ロシアのプーチン大統領は「ロシアは有力な核保有国である」として、核兵器使用を示唆する発言までしている。

 岸田政権は、ウクライナ侵略を非難しているものの、ウクライナ情勢を利用して「台湾有事」などを想定して、軍事費を増大させている。また、憲法違反の「敵基地攻撃能力」保持の検討を明言し、「戦争をする国」づくりをすすめようとしている。われわれは、「戦争は最大の人権侵害である」ことを訴え、憲法改悪と軍事大国化を阻止する広範な闘いをすすめよう。

 ロシアによるウクライナ侵略でも明らかなように、戦争では、多くの女性や子ども、障害者など社会的弱者が犠牲になる。しかし、岸田政権はアメリカに一方的に従属し、沖縄県辺野古の新基地建設を強行しようとしている。また、防衛省は安全保障や防衛戦略の目標をアメリカと共有する新たな防衛戦略文書を策定することを表明している。

 かつて全国水平社は、アジアへの侵略戦争に向かう情勢のなかで、天皇制ファシズムの厳しい弾圧により戦争協力を余儀なくされた。こうした痛苦の歴史をくり返さないためにも、われわれは差別と戦争に反対する広範な闘いの先頭に立たなければならない。

 岸田政権は、昨年の衆議院総選挙で議席を減らしたものの、日本維新の会の大幅な議席回復などによって、衆議院での改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得したことで、憲法改悪に向けた策動を強めている。また、5月11日には、経済政策を国家安全保障の中核とする「経済安全保障法」が成立した。「経済安全保障法」は、アメリカの対中国戦略に協力するためのものであり、政府による企業への監視や介入を強化し、戦前の産業報国会をめざすものである。

 7月には参議院選挙がおこなわれる。憲法改悪と「戦争をする国」づくりを許さず、人権と平和、民主主義、環境の確立をめざす政治勢力の総結集に向けて、推薦候補の必勝をかちとらなければならない。すでにこの間の中央委員会で、部落解放中央共闘会議加盟単産の要請を受け、比例代表候補の推薦を決定している。都府県連でも、選挙区候補の推薦を早急に決定するとともに、政治闘争の重要性と投票行動の徹底をよびかけるなど、選挙闘争を全力でとりくもう。

 運動方針案では、全国水平社創立100年の大きな節目を迎え、3月の記念集会で発表した「部落解放同盟―新たなる決意」のなかで提起した、人権の法制度の確立、部落差別を生み出し、支える社会意識の解明と変革への闘い、「世界の水平運動」の本格的展開、「未来志向の組織」への変革について、今後、具体的にすすめるための論議をよびかけている。全国大会での論議を出発点として、さらに課題を整理し、問題意識を共有し、具体的な実践に結びつけていこう。

 当面する闘いの課題では、「部落差別解消推進法」の具体化をすすめていかなければならない。「部落差別解消推進法」は、部落差別が今日でも厳しく存在し、部落差別は社会悪であると明記している。そのうえで、部落差別を許さない社会づくりに向けて、国や自治体による相談体制の充実、教育・啓発の推進、実態調査の実施など、今後の部落解放行政の基本的な方向を示している。

 「部落差別解消推進法」の具体化では、全国各地で条例制定のとりくみで成果をあげている。この間、愛知県、宮崎県、鹿児島県で新たに人権条例が制定された。大分県では、県条例もふくめて、県内全市町村で制定されていた人権条例の改正が実現した。今後とも、条例の制定、改正に強力にとりくんでいこう。

 また、20年6月に法務省が公表した「部落差別の実態に係る実態調査」結果報告では、いまだに結婚や日常的なつきあいのなかで、明確に差別意識が存在することが明らかになっている。インターネット上の部落差別情報についても、被差別部落の有無を自治体窓口へ問い合わせる事例が多く報告されている。

 鳥取ループ・示現舎は「部落探訪」で、復刻版出版禁止の仮処分が出された「全国部落調査」を利用して、未組織部落をふくめて、被差別部落の写真や動画をインターネット上に公開している。こうした情報をもとに問い合わせ事例が多発しているのである。鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争は、控訴審段階の闘いになっているが、彼らの差別居直りを許さず、控訴審での完全勝利に向けて全力で闘いをすすめよう。

 一方、鳥取ループ・示現舎のようにきわめて悪質で、しかも居直りを続ける差別者の場合、人権救済制度が不備なために、民事裁判で訴えるしか手段がないことも大きな問題である。この間、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「アイヌ施策推進法」など個別人権課題についての法的措置が実現した。

 こうした闘いの成果をふまえ、国内人権委員会設置を中心にした人権侵害救済制度の確立にとりくむ必要がある。人権救済制度の確立は、政府が設置した人権擁護推進審議会が01年に答申した「人権救済制度の在り方」でも要請されているものである。さらに、日本政府が批准している国連人権諸条約関係委員会からも勧告を受けているように、国内人権委員会の設置を早急に実現していくことが強く求められている。

 狭山再審の闘いでは、半世紀以上も無実を訴え続けている石川一雄さんの不屈の闘いに応え、今年こそ、再審―無罪をかちとるために全力をあげていかなければならない。蛍光X線分析でインクにふくまれる元素を調べ、石川さんの自宅から「発見」された万年筆が被害者のものではないことを明らかにした「下山第2鑑定」や、コンピュータによる筆跡のズレを測定し、脅迫状の筆跡が別人のものであるとした「福江鑑定」など、いずれも科学的な方法で、石川さんの無実を示す重要な新証拠を提出している。

 こうした新証拠の学習や情宣活動を強化し、石川さんの無実を訴え、再審実現に向けた世論を大きく拡げていこう。感染症拡大のもとで、石川さんは健康管理を徹底し、ビデオメッセージなどで訴えを発信している。こういう時期だからこそ、各都府県連・地区協議会・支部が、住民の会や共闘会議などと連携し、各地でのとりくみを積みあげ、要請ハガキなど、創意工夫した闘いをすすめ、全証拠開示とともに、鑑定人尋問、証人尋問をかちとろう。

 本年は全国水平社創立100年である。大きな節目の年をふまえての重要な1年間の運動方針案であり、男女平等社会実現のとりくみ、教育・保育運動の前進、国内外の共同闘争の発展や、組織拡大と人材育成など、重要な闘いの課題を提起している。

 全国水平社に結集した先達たちの苦闘に想いを重ね、闘いの歴史的教訓と向き合い、活発な論議で運動方針案を豊富化し、第79回全国大会を成功させよう。

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