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「全国部落調査」復刻版出版事件、控訴審闘争の勝利のために
全国的なとりくみを推進しよう

「解放新聞」(2022.09.05-3038)

 2016年2月、鳥取ループ・示現舎が、突然戦前の調査報告書「全国部落調査」を復刻して出版すると告知した。同年4月16日、部落解放同盟は、出版社と経営者を相手どり、復刻版出版差止めと地名リスト削除を求めて東京地裁に提訴した。日本社会に被差別部落出身者を忌避する差別感情が残っており、地名リストの出版やネット掲載が差別を助長し、部落大衆の「プライバシー権」「名誉権」「差別されない権利」を侵害するとして、東京地裁で裁判闘争を展開した。

 5年におよぶ裁判闘争のなか、なぜ私たちが裁判所に告訴をしてまで、復刻版出版の禁止と地名リスト削除を求めているのか。具体的に裁判長に訴えた。

 部落差別とは何か。部落差別がどのような歴史的経緯でつくられ、なぜ、なくならないで残ってきたのか。とくに、日本社会に形成された身分階層的構造にもとづく差別により、日本国民の一部集団が基本的人権を侵害されている社会問題であることを訴えた。具体的には、身分賤称による侮蔑や、偏見・嫌悪により、交際を拒み婚約を破棄する行動や、部落差別の結果、教育や就職の機会均等が実質的に保障されていない差別の実態について具体的な事例をあげて意見陳述した。

 部落地名リストの図書を販売していた「部落地名総鑑」事件は1975年に発覚した。大手企業などが、就職差別や結婚差別を目的に、被差別部落出身者の身元を調べている問題が明らかになった。購入企業だけではなく行政責任も厳しく追及し、法務省は、差別図書を回収し、焼却処分にした。部落出身者を暴くための身元調査は、「明治」の「壬申戸籍」から始まる。「エタ」「新平民」などの記載があるものもあり、閲覧して「部落かどうか」が調べられた。部落差別の身元調査の道具として使われた時代が長く続き、「壬申戸籍」そのものが部落差別であることを追及するなか、68年、法務省が「壬申戸籍」を封印した。しかし、身元調査事件はその後も続き、お寺への聞き込みや「過去帳」を使った身元調査が日常的におこなわれた。モグラたたきのように、私たちは、部落差別を根絶する闘いを展開し、「身元調査おことわり」運動の実施を宗教界に働きかける。このようなとりくみのなか、75年に「部落地名総鑑」事件が発覚した。

 問題は、身元調査をなぜおこなうのか。部落を差別したり、忌避・排除する考えは、偶然に、あるいは勝手に生まれるのではなく、社会意識のもとで形成されている。部落への偏見や差別意識がまだまだ根強く存在しており、その差別意識を利用し、金儲けの道具として、身元調査がおこなわれているのが現実だ。今回の一審被告Mらの復刻版出版事件やインターネットでの部落の地名などの流布は、意図的であり、長い間積み重ねてきた部落解放運動の成果を阻むものだ。

 21年9月27日の東京地裁判決(一審判決)は、「全国部落調査」「復刻・全国部落調査」「全国部落解放協議会5年の歩み」に記載された41都府県のうち、25都府県の部分については出版、販売、領布してはならない、と差止めたが、それ以外の県の出版や販売、領布は許されるのかという問題がある。

 また、インターネット上に掲載した「全国部落調査」および復刻版の画像ファイルなどのデータについても、25都府県については削除しろと判断し、今後25都府県については、ウェブ掲載、書籍の出版、出版物の掲載、放送、映像化など、いっさいの方法による公表をしてはならない、と判断した。

 部落問題は、25都府県にだけ存在するわけではない。部落問題を個別地方の問題としてはならないし、社会問題としての部落問題という認識に大きく欠けた判断だ。除外された県(6県)、原告のいない県(10県)については、差別行為の継続を認めるのか。控訴審では、東京地裁の判断の誤りを糾し、すべての県で、ウェブ掲載、書籍の出版、出版物の掲載、放送、映像化などいっさいの方法による公表を禁止させねばならない。

 一審判決は、「全国部落調査」の公開は、地域に属する人の「プライバシーを違法に侵害するもの」だとプライバシー侵害を認めたが、部落出身をみずから明らかにしていると判断された原告については、プライバシー侵害とはいえない、とした。みずから部落出身を明らかにしていれば、部落差別を受けないのか。そうではないことを裁判所はまったく理解していない。

 部落差別が存在するなかで、みずから部落出身者として、部落差別をなくす主体者として生きることを選択する人も多い。しかし、それは、差別の現実を知りながら、それと真っ向から闘う強い意志と信念がなければできない行為だ。

 「全国部落調査」の公表そのものが、部落出身者の身元調査につながるのであり、すべての部落出身者のプライバシーの侵害につながる行為と断定すべきだ。

 さらに、一審判決は、私たちの主張する「差別されない権利」について、その内容が不明確であり、採用できないと門前払いをした。しかし、憲法14条は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」としている。この条文の「社会的身分」は、部落差別を包含している。この条文の解釈のなかで、差別されない権利が該当するのではないかなど、「差別されない権利」についての司法の判断を控訴審でかちとらねばならない。司法が部落問題解決のためにどのような責任を持ち、差別をなくすためにどう行動するのか。法律に照らし合わせながら、正しい判断が求められる。

 弁護団は3月24日、「全国部落調査」復刻版出版事件の控訴理由書を裁判所に提出した。8月3日、東京高裁で「復刻版」裁判の第1回控訴審裁判が始まった。

 原告を代表し、片岡副委員長が意見陳述し、短い時間のなか、項目を5点に絞り、意見をのべた。①公表すること自体が差別を助長する②回収して焼却処分にされた差別図書と同様のもの③部落差別の実態から考えれば、「全国部落調査」復刻版に地名が出ているすべての都道府県で出版を差し止めるべき④カミングアウトとアウティングの違いについて⑤説示違反などの悪質性、を切々と訴えた。

 また、北陸事務所の吉田樹・事務局長(富山県連)が意見陳述し、出版の差止めやネット上などからの削除の対象から除外された16県の代表として、とくに、これまでかかわってきた富山県、石川県、福井県の差別の実態を詳しく裁判長に伝えた。

 弁護団からは、河村健夫・弁護士が理論整然と一審判決の欺瞞を明らかにした。一審判決が、差別されない権利を真正面から受け止めていないことや、原告本人の「現住所・現本籍」が復刻版に記載されている場合だけプライバシー権侵害を認めるという不合理な基準を設定しており、「過去の住所」や「出生地」や「親族の住所」が掲載されていてもプライバシー侵害は認めないと判断している誤りを糾した。さらに、身元調査がどういう方法でされているのかを、詳しく指摘し、たんなる地名一覧ではなく、「復刻版」が部落差別に活用されていることを強く訴えた。

 この裁判の勝利なくして部落の完全解放はあり得ない。控訴審の基本方針として、つぎの3点の内容を実現し、完全に勝利しよう。①「全国部落調査」復刻版出版・公表の全面差止めをかちとる②原告全員への損害賠償③「差別されない権利」の侵害認定。また、この裁判と結びつけ、「部落探訪」をはじめとするインターネット上の差別情報削除に向けたとりくみも重要だ。

 実現するには、司法への闘いだけではなく、行政にたいする闘い、さらに立法(法制定)にたいする闘いを総合的にすすめねばならない。そのための日常闘争が必要だ。できることから、部落解放運動として主体的にとりくもう。各都府県連で地域から具体的に行動し、さらに全国に広げる運動を全面的に展開しよう。

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