「解放新聞」(2022.09.15-3039)
1
この間、長期化する新型コロナ感染症拡大下で全国各地の識字学級・教室や日本語教室は休講を余儀なくされ、識字生や学習者のニーズにそった日常的な識字活動がなされない期間が続いてきた。感染症拡大の状況下では「緊急事態宣言」以降、十分な補償のないままでの無責任な「自粛」や休業要請などで、格差や貧困の問題がこれまで以上に深刻化した。行政では生活や医療、福祉に関する情報について効率化を理由にインターネットなどを中心に発信したことで、高齢者や障害のある人、外国人など「情報弱者」が適切な公的サービスを知ったり、受けたりすることが困難になった。
字が書けない、読めないことは仕事や日常の生活、のなかではさまざまな困難や苦痛を生じさせる。
非識字であることを自分の責任であると考え、恥と思い孤立し、隠さなければならない現状がある。非識字の問題は、深刻な教育問題、社会問題であって当事者の責任ではない。「識字」の正しい理解を多くの人に伝えるためにも、識字のとりくみは重要である。
日本では識字率が99・8%といわれているが、1955年の調査を最後に公的な調査はおこなわれていない。国は、義務教育修了をもって識字能力ありと判断しているが、全国夜間中学校研究会によると、日本の義務教育未修了者は全国に百数十万人存在していると推定されている。部落女性の実態調査でも若年層の非識字者の存在が明らかになっている。在日韓国・朝鮮人や障害のある人、中国からの帰国者、外国から移住してきた人やその家族、不登校の人や無戸籍の人、貧困や虐待などさまざまな理由で文字を学べなかった人、文字の読み書きはできても、その内容の理解・活用ができない人など、識字を必要としている人は多く存在する。
2016年12月、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が公布・施行され、すべての都道府県および市町村にたいして、夜間中学等の設置をふくむ就学機会の提供、その他必要な措置を講ずることが義務づけられ、2019年には「子供の貧困対策に関する大綱」で夜間中学の設置を促進するとともに、充実をはかることとされた。また2021年には当時の菅内閣総理大臣が衆議院予算委員会で「今後5年間ですべての都道府県・指定都市に夜間中学校が少なくとも1つ設置されることをめざす」と答弁、今年5月に公表された2020年国勢調査の結果でも、未就学者が9万4千人、最終卒業学校が小学校の人が約80万4千人(2020年10月時点)ということが明らかになり、文部科学省は夜間中学の設置・充実に向けたとりくみのいっそうの推進をはかっている。今年4月時点で、夜間中学は15都道府県に40校、今後の開校を予定または開校に向け検討中の地域が9県となっており、よりいっそうのとりくみの強化が必要だ。
今年は全国水平社創立から100年を迎えた。水平社創立から4年後の1926年に「水平社教育方針書」を策定し、軍隊入隊前の青年たちに文字教育をおこなうなど組織的なとりくみをすすめた。まだ識字という言葉が使われていない1950年代には、部落解放運動、同和教育運動の高まりのなかで文字の読み書きを学ぶとりくみが各地で始まった。大阪では1953年に仕事に必要な運転免許をとるための文字学習会がとりくまれ、1963年には産炭地を中心に識字運動が広がった。1969年の部落解放第14回全国婦人集会(現・全国女性集会)では初めて識字をテーマにした分科会が設置され、それ以降、女性たちの運動を中心に全国的な識字運動へとつながっていった。
今日、識字学級をめぐる状況は変化し、自治体の裁量に任されて予算措置がなくなるなど活動維持が困難なところも出てきている。何よりも、非識字・者にたいする国や自治体の責任を明確化させるとともに、識字活動をさらに発展させ、それぞれの生きざまをとおして差別の実態を明らかにするという、私たちの運動の原点を再確認しながらとりくみをすすめていこう。
2
部落解放第19回全国識字経験交流集会を10月1、2日の日程で、兵庫県姫路市内で開催する。特別報告では大阪教育大学の森実・名誉教授が「『識字・水平社100年宣言』をつくろう!」をテーマに報告。分科会では特別報告を受けて「識字・水平社100年宣言」づくりに向けて識字学級生・日本語教室生や支援者の体験や思いを交流するほか、文章教室をおこなう。2日目の特別報告は、地元からひょうご夜間中学をひろげる会の桜井克典・事務局長から「兵庫県における夜間中学校の現状と課題」をテーマに報告を受ける。
交流集会では各地の識字運動の成果や課題を学びあいながら、交流を深め、識字運動の充実と発展をめざし、第19回全国識字経験交流集会を成功させよう。
「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)