「解放新聞」(2022.10.15-3042)
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8月29日、狭山事件再審弁護団は、東京高裁に新証拠・再審請求理由補充書および事実取調請求書を提出した。事実取調請求は、11人の鑑定人の証人尋問をおこなうよう求めたものだが、狭山第3次再審は、この鑑定人尋問請求でいよいよ大詰めを迎えた。裁判所が鑑定人の証人尋問をおこなえば再審への道が大きくひらかれる。再審開始への入り口ともいうべき鑑定人尋問を実現させ、60年になろうとする長い狭山闘争に勝利しよう。今度こそ再審を開始させ、石川一雄さんの無罪判決をかちとろう。
今回、弁護団が提出した新証拠は、スコップについての元科捜研技官による補充意見書2通(土砂および油脂について)、殺害方法、死体処理についての法医学者の鑑定書2通、下山第2鑑定にかかわる意見書など、検察官が提出した意見書の誤りを明らかにした新証拠、および取調べ録音テープ反訳を、コンピュータをもちいたテキストマイニングによって分析した新たな鑑定書等9点である。これで第3次再審請求で提出された新証拠は255点になった。
弁護団は、この新証拠、再審請求理由補充書とあわせてこの日、事実取調請求書を東京高裁に提出した。事実取調請求書は、これまで提出した新証拠のなかでも、とくに重要な証拠を作成した鑑定人の証人尋問を求めるものだ。具体的には、脅迫状の筆跡・識字能力、指紋、足跡、スコップ、血液型、目撃、音声、万年筆、自白、殺害方法、死体処理について、鑑定を作成した科学者、専門家鑑定人11人の尋問を求めた。
これらの鑑定人は、コンピュータによる画像解析の専門的知見を持つ科学者、人物識別供述についての専門的知見を持つ心理学者、あるいは法医学者や元科捜研技官など、いずれもその分野での専門家である。裁判官は鑑定人本人から、その専門的知見にもとづく鑑定内容、結果と意味について直接聞いて、鑑定内容を十分に精査するべきである。
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また弁護団は、とくに争点となっている万年筆インクについての下山第2鑑定については、裁判所が直接鑑定をおこなうよう請求した。具体的には、裁判所自身がしかるべき専門的知見を持った第三者に蛍光X線を使った万年筆インクの成分分析をおこなうよう強く求めた。
知ってのとおり狭山事件では、石川さんの自宅カモイから万年筆が発見され、それが石川さんを犯人とする決め手のひとつになっている。自宅のカモイから被害者の持っていた万年筆が自白どおり発見され、それが本物だとなれば有罪の大きな証拠になるだろう。しかし万年筆については、これまで数多くの疑問が指摘されてきた。まず何より石川さんの自宅は2度にわたって家宅捜索がおこなわれたが、何も出てこなかった。それが、事件から2か月近く経った3回目の捜索で、突然発見されたこと自体がおかしい。家族も捜査官がカモイを捜しているところを見ており、万年筆の発見はあり得ないと証言している。また、万年筆から石川一雄さんの指紋は出ていない。また、万年筆のインクの色が、被害者が使っていたものとは違っていることが当初から指摘されていた。このような疑問があったが、発見万年筆が被害者のものではないということを明らかにするための資料がないまま50年が過ぎてしまった。しかし、証拠開示によって発見万年筆で書かれた「数字」が出てきた。下山鑑定は、この「数字」のインクの成分元素が、被害者が当日書いたペン習字の浄書の成分元素と違っていることを、蛍光X線分析によって明らかにした。現代科学の勝利といってもよい。
今回、弁護団は、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字インクと被害者のインク瓶(残存インク)からクロム元素が検出され、発見万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されないことについて、裁判所による鑑定を請求した。この鑑定は、誰がやっても結果は変わらないという強い自信に裏づけられて弁護団は鑑定の請求をおこなった。
裁判所は、この請求を真剣に受け止め、職権による鑑定をおこなうべきだ。書面だけで判断するのではなく、事件の焦点であるこの万年筆のインクの鑑定をおこなうべきである。われわれは全力をあげて、裁判所に万年筆のインクの鑑定実施を求める世論を大きくしよう。
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弁護団による事実取調請求書の提出によって狭山第3次再審は文字どおり、大詰めを迎えた。検察側は鑑定人尋問請求にたいする意見書を提出するとしており、裁判所の判断は少し時間がかかるだろうが、そう遠くないうちに裁判所が鑑定人尋問請求にたいして、採否の判断をおこなうと考えられる。裁判所は、弁護団の請求を受け入れて鑑定人尋問とインクの鑑定をおこなうのか、それとも請求の必要性を認めず却下するのか、まさに再審請求は重大な分かれ道に立っている。ここで重要なことは、裁判所をして絶対に却下させないことであり、そのために何よりも大きな世論を巻き起こすことである。狭山事件は多くの国民やマスコミが関心をもって見ている、事実調べをおこなうべきだという大きな世論を巻き起こすことが何よりも重要だ。
この状況をふまえて部落解放同盟中央本部は、9月初めの中執会議で、緊急に「事実調べを求める署名」にとりくむことを決め、その一環として本部役員が手分けして全国の支援者や共闘会議によびかける一斉行動を決めた。一斉行動では、本部役員が9月下旬から10月の上旬にかけて、全国の支援団体や共闘会議を訪問して、あらためて狭山第3次再審請求が最終局面を迎えたことを説明し、署名協力と支援をよびかける。
事件が起きて石川一雄さんが不当に逮捕されてから59年。狭山第3次再審を請求してから16年。狭山闘争は世代を超えて受け継がれ、闘われてきた。この間、石川さんの無実を信じ、無罪判決を追い求めながら志半ばで亡くなった先輩や兄弟姉妹、支援者も多い。じつに狭山闘争は、部落差別の象徴であり、戦後解放運動の中軸となってきた闘争であり、部落民に被せられた不当なレッテルを投げ返し、名誉と誇りをとり返す闘いでもあった。
その狭山第3次再審闘争が大詰めの時を迎えた。全国の兄弟姉妹、また支援者は、正念場の闘いであることを胸に刻んで、全国各地で、世論を盛りあげよう。狭山事件の再審を求める市民の会(鎌田慧・事務局長)がよびかける「事実調べを求める緊急署名」にとりくもう。「10・28狭山事件の再審を求める市民集会」に全国から結集しよう。
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