「解放新聞」(2022.10.25-3043)
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2022年3月3日、ロームシアター京都で、全国水平社(以下「全水」という)創立100周年記念集会を開催した。全国各地で奮闘する部落の兄弟姉妹をはじめ多くの皆さんにご参集いただき、感謝申しあげる。ご承知のように、全水100周年を節目に組織と運動を前進させていこうと誓い合う集会であった。あらためてその旨を確認したい。
現在、新自由主義と国家主義が日本と世界を席巻、貧困と社会的格差を拡大させ、差別排外主義が公然と台頭してきている。高度情報通信社会の到来は、社会経済のあらゆる分野で変革をもたらしているが、他方で差別と偏見、抑圧、監視、憎悪などを増幅させている。コロナ禍にみられる新たな感染症の爆発的拡大、地球温暖化、自然災害、環境破壊。そしてロシアによるウクライナ侵略で、原子力発電所を攻撃したり、核兵器使用をちらつかせたりするなど、地球的規模で人類生存の危機が現実化してきている。
そこで、解放同盟組織の再生と部落解放運動のさらなる発展を期するため、以下の4点を「新たなる決意」として発表した。
第一は「人権の法制度」の確立をめざすことである。この点については後述する。
第二は、部落差別と深く結びついた「社会的格差」と「社会的排除」にたいする闘いを挑むことである。
各都府県連下における各部落の現状に関して、部落大衆の転出による人口減少や人口流動化がおこっていたり、超少子高齢社会がすすんだり、都市・地方郊外・過疎地等の実情により部落問題解決に向けた課題等も実に多様であろうと推測する。
いま、部落にある困難な問題は「貧困」と「社会的孤立」「社会的排除」などの現代社会がかかえる矛盾とも強く結びついた課題でもある。
部落大衆に依拠した闘いを礎に「孤立や社会的排除をなくす」地域運動を展開し、周辺地域住民をも巻き込んだ人権のまちづくり運動、そして社会運動へと発展させる。各都府県連とも議論を積みあげながら具体的なとりくみをすすめていきたい。
第三は、前述の「地球的規模の人類的危機」に立ち向かうため、国内の被差別マイノリティ運動ともつながりながら、世界からあらゆる差別をなくすために、松本治一郎先輩の「不可侵不可被侵」という基本原則にもとづき、文字どおり「世界の水平運動」の本格的な展開にとりくむことである。
こうした運動を展開していくために、第四として部落大衆の結集を軸としつつも、国内外の被差別マイノリティと勤労諸階層との連帯と協働をさらに促進させて、部落解放同盟を「未来志向の組織」へと改革することが求められている。
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全国大会後、「部落解放同盟―新たなる決意」具体化検討委員会(以下「検討委員会」という)を設置。10月15日現在までに2回の検討論議をおこなった。
主要テーマは、まず、新たなる決意の第一点「人権の法制度の確立」に向けた闘いである。
鳥取ループ・示現舎に代表されるように、インターネット上で「被差別部落の所在地情報」が氾濫・拡散し、部落差別はいま、アウティングという形態も加わり悪質化・陰湿化している。
「全国部落調査」復刻版出版事件の控訴審の第1回口頭弁論で原告団は「名乗り(カミングアウト)」は差別をなくしたいという当事者みずからの決意の表れであり、「さらし(アウティング)」は、本人の承諾もない不当な差別行為であるとして、「差別されない権利」を強く主張した。この旨の主張を法廷闘争のみならず、法制度の強化の闘いへとつなげることが重要である。
今夏、ネット上の誹謗中傷への対策強化へ「侮辱罪」の厳罰化を盛り込んだ改正刑法が成立。10月1日からは「改正プロバイダ責任制限法」が施行された。ネット上での誹謗中傷等の抑止が期待されるが、いずれにせよ、被害を受けた当事者みずからがアクションをおこさねばならない。当該のプロバイダ事業者が情報開示を拒むことも予想される。その結果、被害者が心理的・精神的ダメージを被るという「二次被害」等を受けることも大いに懸念される。
また現在、各都府県連の運動を通じて、各地でインターネット上の部落差別・人権侵害等にたいするモニタリング活動が普及してきているが、削除要請で実際に削除された事案の割合は少ない。
こうした問題点等を提起して、第一は個別法である「部落差別解消推進法」の強化・改正を求めていく闘いに挑んでいくことを追求したい。
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第二は、小泉政権時代の「人権擁護法案」および民主党政権時代の「人権委員会設置法案」をベースに「人権の法制度」の確立をめざす闘いである。両法案は、当時、閣議決定されたが審議未了で廃案となった。2004年に部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会として『「人権侵害救済法」(仮称)法案要綱・試案』を発表している。これまでの人権政策確立要求運動の到達点を活かし、国内の被差別マイノリティの運動とも連携しながら、包括的な人権の法制度の確立をめざした闘いを展開したい。
第2次安倍政権発足以降、個別の人権課題に係る法律が成立されてきた。安倍元首相の死去後、その方針の動向等を見きわめることが重要となっている。中央執行部が先頭にたって政府・国会への粘り強く働きかけるとともに、人権の法制度確立に向けた運動を再スタートさせていく所存である。
またこの間、各都府県連の運動により「部落差別解消」を位置づけた人権関係条例(以下「部落差別解消条例」という)の制定の動きも広がってきている。「部落差別解消条例」にもとづく施策に、人権侵害対策として加害者への勧告、実態調査などが盛り込まれるなど、実にさまざまである。こうした地方レベル・政府レベルのとりくみを有機的に結びつけながら「人権の法制度」確立運動をさらに強化したい。
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検討委員会での主要テーマの第二は、狭山第3次再審闘争・鑑定人尋問実現に向けた20万人署名・全国一斉行動である。この間、中央執行部としても体制を組んで各都府県連へのオルグ行動、関係団体等への要請行動にとりくんできたところである。
同時に「鑑定人尋問実現に向けたインターネット広告」の立ちあげに向けた検討もすすめてきた。早晩、周知することとなるが、何としても「再審への扉」をこじ開けるための幅広い世論喚起へ、中央本部としても総力をあげる。各都府県連においても粘り強く、幅広くとりくみをひろげていただくようお願いする。
主要テーマの第三は、「ブロック別中央解放学校」の開催である。全水100周年記念集会で発表した4点の「新たなる決意」を具体的な運動へと展開するため、組織と運動の現状について共有化をはかり、ともに学びあい、高めあっていかねばならない。統一と団結で「新たなる決意」の具体化を一歩でも、二歩でも前進させていこう。
また、「全水創立宣言(以下「水平社宣言」という)」の歴史的意義と今日の人権水準に則ってどう取り扱っていくかという点である。検討委員会のもとに「水平社宣言検討プロジェクト」で、学識者からも意見等を反映させていただいた「たたき台」をとりまとめたい。このたたき台をもとに全国的な論議を積みあげて中央本部見解としてとりまとめる方向である。
「水平社宣言の思想」でもって「今日の危機的状況」をどう受け止めて闘うのか。組織と運動の現状を俯瞰(ふかん)的に思考する力をともに身につけて、部落大衆の人権と暮らしを守り、より豊かにするため、部落の完全解放という「よき日」をめざして「新たなる決意」を具体化した闘いに挑もう。
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