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「世界人権宣言」74周年の人権週間に向けて

「解放新聞」(2022.11.25-3046)

 「世界人権宣言」は「すべての人民にとって達成すべき共通の基準」として1948年12月10日に国連で採択され、この日を「国際人権デー」とした。30条からなる「宣言」は、すべての国のすべての人が享受すべき基本的な市民的、文化的、経済的、政治的および社会的権利を詳細に規定する。「宣言」の第1条と2条は「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」とのべ、「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく」、「宣言」に掲げるすべての権利と自由とを享受できるとする。「宣言」は広く受け入れられ、国家の行為を測る尺度として活用されている。

 「宣言」に拘束力をもたせるために1966年国連総会が採択したのが、二つの「国際人権規約」、すなわち「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」と「市民的、政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」である。

 また、マイノリティの人権を重視する「新しい人権概念」を国際人権諸条約に結実させ、採択した。法律や制度によって生み出されるマイノリティへの制度的差別を解消するために、各国が批准し、国内法として機能させ、人権侵害状況を是正する。採択した条約は、「ジェノサイド条約」、「女性差別撤廃条約」、「人種差別撤廃条約」、「難民条約」、「子どもの権利条約」、「障害者権利条約」等だ。日本国憲法第98条に国際法規順守規定がおかれているように、条約批准(加入)国は、条約を履行する義務がある。国内のマイノリティへの差別や人権侵害を、条約に示された国際人権基準にもとづいて解消していくことになる。

 国連は差別や人権侵害にさらされるマイノリティの人権保障を実現するために四つの実行手段をとっている。一つは、定期的に政府が条約の実行状況報告書を国連に提出し、審査を受け、不十分な点は勧告が出される。二つは、国内裁判所が条約を使って判決を出す。三つは、政府機関から独立した人権委員会を設置し、条約の国際基準にしたがって国内の人権状況を監視する。四つは、個人通報制度で、差別や人権侵害が国内の裁判手続きを経てもなお解決しない場合は直接国連に通報できる。

 日本では、人権委員会はなく、裁判所の条約を使った判決は少なく、個人通報制度の選択議定書はすべて批准せずというさみしい状況にある。

 2022年10月に自由権規約委員会で第7回日本政府報告書審査がおこなわれることになり、日本弁護士連合会や人種差別撤廃ネットワーク(部落解放同盟も参加)などが情報提供のNGОレポートを提出した。委員会と政府の「建設的対話」がおこなわれ、11月4日に委員会の最終所見と勧告が発表された。

 「自由権規約」第2条は「すべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、⋮等によるいかなる差別もなしに、この規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する」。この条約第2条を実現するためには国内人権機関が必要だ。政府は「人権救済制度の在り方について検討している」と回答しているが、委員会は厳しい勧告を突きつけた。「パリ原則に従った国内人権機関設置に向けた明確な進歩がない。独立した国内人権機関を設置し、十分な財政的及び人的資源を割り当てるよう求め」、2025年11月までに実施報告書の提出を求めた。

 規約の規定にそった包括的な差別禁止法がないので、「包括的な差別禁止法を採択し、差別の被害者への効果的で適正な救済措置を提供すること」を勧告した。

 ヘイトスピーチとヘイトクライムに関して、「ヘイトスピーチ解消法や部落差別解消推進法の採択や教育・啓発キャンペーンの取組は歓迎する。しかし、オンラインとオフラインの両方において継続的かつ広範囲に(ヘイトスピーチが)行われているにもかかわらず、犯罪化するための措置をとっていない。法律による被害者の救済措置をとっていない」と指摘し、ヘイトスピーチの行為を明確に犯罪とするための「刑法」改正を検討すること、すべての事件が系統的に捜査され、加害者が責任を課せられ、被害者が最大限の賠償を受けられるようにすることを勧告した。

 「人種差別撤廃条約」第4条「差別を法律により処罰する」を政府は留保している。しかし、「自由権規約」は条約の目的が第2条で示され、第20条の禁止規定になっているため、政府は留保できず禁止を約束している。ヘイトスピーチを禁止しないのは条約を履行していないとの厳しい勧告である。この総括所見と勧告を広く普及させることも強調した。

 2005年、政府は差別禁止と人権委員会設置をふくむ「人権擁護法案」を閣議決定し国会上程したが、廃案に。「人権委員会設置法案」も閣議決定し国会に上程したが2012年に廃案になった。いくつもの条約委員会から、包括的差別禁止法を採択し、人権委員会設置法の採択を早めることを勧告され続けている。

 2022年8月に国連の障害者権利委員会が開催され、第1回政府報告書審査がおこなわれた。9月に最終所見・勧告が出された。異例の速さである。「合理的配慮の提供」を民間事業者にも義務規定にした2021年の法律改正は評価された。しかし、条約が批判する医師が障害認定する医療モデルが残されていて、社会モデル(人権モデル)へのパラダイム転換ができていないとした。「合理的配慮の不提供」は差別であり、内閣府の障害者政策委員会が監視することになっているが、差別禁止法がなく、政府機関から独立した監視機関でないので、禁止法の採択と人権委員会設置を求める勧告が出された。

 障害者を分離せず統合する理念の実践では、脱施設化すなわち施設収容から地域移行を実現することを求めた。日本の精神病院は収容型であり、地域共生への移行ができていない。強制入院や無期限入院を実施する法律は廃止すべきだ。すでに先進国では在宅医療が主流である(日本の入院日数の平均は277日、ОECDは32日)。特別支援学校は分断された社会を生み出す分離教育であるので廃止し、インクルーシブ教育への移行のプログラムを求めた。

 女性差別撤廃委員会は「女性差別撤廃条約」を機能させ、日本のジェンダーギャップ指数116位(世界経済フォーラム2022年報告)を克服し、女性の権利を国際基準にする(指導的地位に占める割合を30%など)ことをめざすとりくみを求めた。政府報告書審査(1988年〜2016年までに8回)をふまえて、2020年、第9回政府報告書に関する委員会の質問書が出され、2021年9月、政府が回答し、これから政府報告書の審査が始まる。女性NGОレポートによる情報提供に部落解放同盟もマイノリティ女性として参加している。第8回までの総括所見と勧告を日本政府はほとんど実行せず、同じ勧告がくり返され、「条約に参加する意味がない」と指摘されてきた。とくに、再婚禁止期間、嫡出推定、同姓(氏)原則などの「民法」規定は、女性差別であり、条約違反だとし、ただちに廃止を勧告されていた。

 「世界人権宣言」を実質化する国際人権諸条約に参加していながら政府は、日本の人権状況を国際水準に高めていくことに消極的である。勧告が指摘するように、「人権週間」では人権諸条約の内容を学び、総括所見を広め、国際基準をふまえた人権啓発・教育を実践し、マイノリティへの人権保障が国際水準に高められるようにとりくみたい。

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