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部落解放に向けた新たな展望を切り拓く勝利の年に

「解放新聞」(2023.01.15-3051)

 昨年は、全国水平社創立100年という大きな節目の年であり、新型コロナウイルス感染症の影響もあったが、京都・岡崎の地で記念集会を開催した。集会では、全国水平社創立いらいの部落解放に向けた闘いの歴史を総括するとともに、新たな部落解放の展望を切り拓くために、その実現にふさわしい組織と運動のあり方について論議をすすめていくことをよびかけた。

 とくに、これまで論議してきたように、同盟員の減少、高齢化をふまえて、部落解放運動の前進に向けて、どのような組織や運動が求められているのか、あらためて全国的な討論をすすめていくことが必要である。人口の減少や高齢化は社会的な現象であり、今後ともこうした傾向が続いていくなかで、部落解放同盟だけに顕著な課題ではないものの、これまでもとりあげてきたように、都府県連や支部組織のあり方、ネットワーク機能の強化や若い世代へのアプローチ、ジェンダー平等などについて論議を深めていこう。

 今日、岸田政権は、ウクライナ侵略戦争の長期化や「台湾有事」などを利用して、本格的な「戦争をする国」づくりをすすめようとしている。昨年12月16日には、「国家安全保障戦略」などの安保3文書を閣議決定し、歴代政権が憲法違反としてきた「敵基地攻撃能力」の保有を明記、戦後安全保障の根幹である「専守防衛」を放棄することで、軍事的な対米従属をいっそう深めている。

 われわれは、こうした憲法改悪策動と、軍拡路線に断固反対していかなければならない。まさに「新たなる戦前」ともいうべき情況のなかで、差別と戦争に反対する部落解放運動の果たす役割はますます重要になっている。

 岸田政権は、昨年12月23日に2023年度政府予算案と「税制改正大綱」を閣議決定した。国の基本的な予算規模である一般会計総額は114兆3812億円となり、11年連続で過去最大となっている。しかも、当初予算が110兆円を超えるのは初めてである。

 こうした巨額の予算になったのは、何よりも軍事費の増大である。23年度の軍事費予算は6兆8219億円と過去最大であり、翌年度以降に使用する「防衛力強化資金」と合わせれば10兆円を超えている。また、今後5年間で43兆円の軍事費を確保するとしており、「税制改正大綱」では、この軍拡予算の財源として復興特別所得税、法人税、たばこ税の増額を明記している。長期化する感染症や物価上昇で苦しむ市民生活を犠牲にしてまで、軍事大国化をすすめる岸田政権の姿勢が明確になっている。

 われわれは、こうした岸田政権による憲法改悪策動と「戦争をする国」づくりに抗して、広範な共同したとりくみをすすめていかなければならない。新自由主義政策によって対立と分断がすすむなかで、長期化する感染症の拡がりによって、差別や貧困、格差の問題がより深刻化している。しかも、ロシアによるウクライナ侵略戦争ではいまだに激しい戦闘が続き、米中対立や朝鮮半島情勢の緊張も深まるなど、国際情勢もますます不安定なものになっている。

 統一教会問題や不祥事、失言などで、4人の大臣が辞任、更迭、差別発言を続けてきた杉田水脈・総務政務官も更迭するなど、支持率が激減している岸田政権は、政権延命のために、「基地攻撃能力」の保有と軍事費の増大などを打ち出し、対米従属を深めようとしている。しかし、軍事大国化をめざす姿勢は北東アジアのなかでますます孤立化を深めているのが実情である。

 これまで以上に、憲法改悪や軍事大国化に反対するとりくみを中心に広範な共同した闘いを強化し、「戦争こそ最大の人権侵害」であることをしっかりと訴えていこう。われわれは、全国水平社創立100年の闘いのなかで、戦争協力を余儀なくされた痛苦の歴史としっかりと向き合ってきた。いまこそ、憲法改悪を許さない闘いを全力でとりくもう。

 狭山再審の闘いでは昨年8月、鑑定人の証人尋問とインク資料の鑑定の実施を求める事実取調請求書を東京高裁に提出した。われわれは、事実調べを求める緊急署名行動にとりくみ、10月には、第1次集約分として、10万筆を超える署名を東京高裁に提出することができた。また、その後の第2次集約でも、昨年12月末までに、20万筆を超える署名が届けられている。今回の緊急署名は、連合や部落解放中央共闘会議加盟単産、同宗連加盟教団などによる組織的なとりくみはもちろんのこと、1筆1筆と寄せられる署名が連日郵送で届いている。協力いただいている多くの皆さんに感謝を申し上げたい。

 われわれは、寄せられた署名活動の力を結集して、東京高裁に鑑定人尋問、インクの鑑定を実施させなければならない。石川一雄さん無実の世論をさらに大きく拡げ、事実調べを実現し、再審開始―再審無罪判決をかちとっていくために全力をあげて闘おう。

 さらに、鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争は、東京高裁での控訴審第2回口頭弁論が2月にひらかれる。この間、自治体首長による差別動画削除要請、ネット署名などのとりくみによって、鳥取ループ・示現舎による差別動画「部落探訪」が削除された。しかし、同様の差別動画はいまだに放置されており、鳥取ループ・示現舎も、新たに差別動画の掲載を始めている。

 こうした自治体でのとりくみでは、組織内自治体議員の役割も重要である。今年の4月には、統一自治体選挙がおこなわれる。部落問題の解決をはじめ、人権を基軸にした行政施策の推進に向けて、組織内議員や推薦候補の当選をかちとるために選挙闘争の準備もすすめよう。

 この間、インターネット上の部落差別情報へのとりくみは、一定の成果をあげているものの、接続業者(プロバイダ)のより積極的な対応が求められている。「部落差別解消推進法」は、部落差別を社会悪として許されないものと明記している。プロバイダは差別や人権侵害にたいして明確な姿勢を示すべきである。

 今日、日本では差別や人権侵害に対応する法的仕組みがまったくない。鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争でも明らかなように、裁判の場合、時間的にも財政的にも大きな負担が強いられる。

 われわれは、差別や人権侵害にたいして、容易に、しかも迅速に対応できる国内人権委員会の設置を求めてきた。しかし、とくに安倍政権のもとでは、個別人権課題に対応するという方針のもとで、人権侵害救済制度のとりくみにとっては厳しい情況が続いてきた。

 こうした困難な情況にあって、部落解放・人権政策確立のとりくみを粘り強くすすめ、「部落差別解消推進法」制定が実現したのである。われわれは、「部落差別解消推進法」制定をはじめとした個別人権課題での立法措置の成果をふまえ、国内人権委員会の創設を中心にした包括的な人権侵害救済制度の確立をめざすとりくみを強化していかなければならない。

 国内人権委員会の設置については、01年に人権擁護推進審議会がとりまとめた「人権救済制度の在り方」のなかでも急務の課題としても強く要請されている。また、国連人権理事会普遍的定期的審査(UPR)や日本政府が批准・加盟している国連人権諸条約機関からも同様の勧告が出されている。とくに、自由権規約委員会は22年10月に採択した、日本政府の第7回定期報告に関する総括所見では、国内人権機関の設置に関連して明確な進歩がないことについて、厳しい表現で「遺憾である」ことが表明され、優先事項として国内人権委員会を設置するように勧告が出されている。

 このように、政治責任として、さらには国際的な約束事であることをふまえ、与野党での論議を活性化させるなど、国内人権委員会設置をふくむ人権侵害救済制度を早急に確立するために、全力をあげてとりくみをすすめよう。

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