「解放新聞」(2023.04.26-3063)
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2023年度部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会が5月22日、東京・星稜会館で開催される。
2016年12月16日に「部落差別解消推進法」が公布・施行されて7年目に突入している。個別の人権課題に即した法律にもとづいて「部落差別解消条例」や「人権条例」が新たに制定されたり、改正されたりするなど、全国各地で活発に運動が展開されている。このうねり、そのエネルギーを各政党や国会議員へのロビー活動など院内のとりくみにつなげよう。
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部落解放・人権政策確立要求の運動は「部落解放基本法」制定要求国民運動の発展型である。17年におよぶ「部落解放基本法」制定要求運動の成果をふまえて、国内人権政策の確立に部落差別の根絶と部落問題の根本的解決を見出していこうというものであった。
2002年に「人権擁護法案」からはじまり、2005年の「人権侵害救済法案」、2012年の「人権委員会設置法案」と3度の国会審議の機会があったものの、いずれも審議未了で廃案という結果となった。
廃案となった3法案のうち、小泉内閣時代の「人権擁護法案」と野田内閣時代の「人権委員会設置法案」は閣法として国会に上程されたものである。この事実をふまえて「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」にもとづいた「国内人権機関」の整備、そして包括的な人権の法制度の制定に向けた歩みを、部落解放・人権政策確立要求運動としてねばり強く続けていこう。
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そこで第1点は、インターネット上における部落差別や人権侵害を禁止する法制度の整備も視野に入れてとりくむというものである。
鳥取ループ・示現舎「部落探訪」問題にかかわって、「全国部落調査」復刻版出版事件裁判闘争から続く、インターネット上における部落差別の根絶に向けた運動の一つとして、2月28日に第79期第2回全国糾弾闘争本部長・人権政策運動部長合同会議(3058号既報)を開催。「部落探訪」の削除に向け、裁判闘争を視野に入れた闘いの準備をよびかけたところでもある。
「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の第一審判決では、みずから部落出身者であると公表してきた活動家など一部の原告にプライバシー権の侵害が認められず、該当者の出身6県が差し止めの対象から外された。また、地名リストに掲載された41都府県のうち、関連する原告がいないことなどから、佐賀、長崎をふくむ16県については削除や出版禁止も認めないというものであった。
また、第一審判決は、プライバシー侵害、名誉権を認めた一方、差別を禁止する法律がないことも原因の一つとなり、日本国憲法第14条で定められた「差別されない権利」を認めない結果となった。
昨年、「改正プロバイダ責任制限法」等が施行され、被害者救済を図ることとされたが、いずれにせよ、差別や人権侵害を受けた被害の当事者に立証責任を負わせること自体、「二次被害」を受ける恐れもあり、ある種、差別的取扱いともいうべきものではなかろうか。
事実、「全国部落調査」復刻版裁判でも、いまも根強く残る差別等を恐れて裁判に加わらなかった被害者は多い。ルーツを明かして提訴するのは、当事者にとっては、きわめて高いハードルである。しかし、第一審判決のままでは、各地の出身者が裁判を起こさない限り、被差別部落の所在地がさらされ続けるといった事態となる。原告となり新たな裁判闘争にとりくむことは厳しい道のりとなるが、「司法の限界」を乗り越えるため、各都府県連・各支部の奮闘をよびかけたい。
昨年、ユーチューブ(Youtube)は示現舎の動画チャンネルから「部落探訪」等の関連動画を「ヘイトスピーチに関するポリシー(指針)に違反したため」として削除したが、彼らは新たな動画サイト「JINKEN.TV」を立ちあげて動画をさらし始めた。また、特定の団体と人物名を使い「チャットGPT」に読み込ませた被差別部落の所在地をさらす行為もおこなっている。ほかでも、部落差別だけでなく、障害者や高齢者、女性、LGBTQなど社会的弱者をはじめ、ある特定の人物にたいする誹謗中傷・人権侵害が野放し状態である。そうした被害を受けている仲間とも連帯して「改正プロバイダ責任制限法」と連動・補完する、被害者の救済と権利回復を手厚く支援する法制度を追求したい。
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第2点は、「部落差別解消推進法」の強化・改正にかかわって、「法をどう強化・改正を図るのか」の論議を積みあげて具体的な運動へとつなげていくというものである。
第2次安倍内閣以降、包括的な人権法制度ではなく、個別具体の人権課題に関する法制度の整備の方向でとりくんできた流れは、依然として変わっていない。前述の第1次・第2次裁判闘争の展開とあわせ、法務省「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について(依命通知。2018年)」で示された基本認識をふまえて「部落差別解消推進法」に「ネット上の部落差別の禁止」など部落差別の禁止規定を設けることができないかを追求していきたい。
また、同法第4条で「部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図る」とされているが、具体的な規定もなければ、財政的措置も不十分である。これでは、部落差別に関する相談体制の整備に温度差が生じてしまう。このことは第5条(教育及び啓発)、第6条(部落差別の実態に係る調査)に関しても同様であろう。
とくに「部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制」とは、どうあるべきかという点についても論議を積み重ねて、具体的な政策として提案していくことが大事である。当事者に直接向けられた差別的言動をはじめ忌避したり無視したりする言動、複合差別や関連差別(間接差別)など、被差別当事者からの相談を中心にしつつ、差別をおこなった人への対応策もあわせて必要ではないか。格差・貧困・分断社会にある今日、相談を通じて被差別・加差別の実態を集積・分析する機能をもった体制を整備・強化すること。そして実態調査とあわせて「立法事実」を積みあげて「部落差別解消推進法の強化・改正」等を提案することが求められる。
制定から7年目を迎えて「部落差別解消推進法」の強化・改正への足がかりをつけていきたい。
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全国各地で「部落差別解消推進法」等の具体化を求めた運動を通して「人権条例」や「部落差別解消条例」が制定・改正されている点も重要である。当該の自治体にある被差別部落の実態調査やインターネットを利用した部落差別の書き込み調査(モニタリング)の実施を規定したりする自治体。あるいは、差別的な行為をおこなった人にたいして助言や説示しても従わない場合は、勧告等を条文で規定。不当な差別にあたるか否かを「第三者機関」を整備して判断することを条文に明記するなど、地方自治体レベルで「とりくむことができること」を最大限追求していることに、あらためて敬意を表する。こうした地方レベルでのとりくみを法制度の改正につなげていこう。
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第1次中央集会終了後、午後5時から、映画『破戒』院内上映会を衆議院第一議員会館で開催する。各都府県から選出されている国会議員にぜひとも参加をよびかけていただきたい。映画『破戒』を通して、近代日本の厳しい部落差別が、いまでは高度情報社会の媒体等を通して、出自をさらしたり、あばいたり、扇動をよびかける野放しの差別行為等になっていることを多くの国会議員に理解してもらう機会としたい。
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