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主張

 

5・23狭山中央集会に結集し、鑑定人の証人尋問とインクの鑑定を実現し、
再審開始をかちとろう

「解放新聞」(2023.05.15-3064)

 狭山事件は今年、事件が発生し、石川一雄さんが逮捕されてから60年を迎える。人間でいえば還暦を迎えることになるが、昨年8月に11人の鑑定人尋問とインク鑑定の実施を求めた「事実取調請求書」を提出したことで、60年の長きにわたって闘われてきた狭山第3次再審闘争は、いよいよ大詰めを迎えた。部落解放同盟中央本部は市民の会とともに5月23日に東京・日比谷野外音楽堂で狭山事件の再審を求める市民集会を開催する。全国の同盟員、支援者は5・23に結集しよう。

 狭山事件再審弁護団は昨年8月29日、「事実取調請求書」を東京高裁に提出した。「事実取調請求書」は、これまで提出された新証拠を作成した鑑定人の証人尋問と万年筆インクについて裁判所による鑑定の実施を求めるもので、具体的には、脅迫状の筆跡・識字能力、指紋の不存在、足跡、スコップ、血液型、目撃証言、犯人の音声、万年筆、自白、殺害方法、死体処理について、鑑定書や意見書を作成した11人の科学者、専門家の証人尋問を求めた。11人の鑑定人は、コンピュータによる画像解析の科学者、人物識別供述に関する心理学者、死因や血液型についての専門的知見をもつ法医学者、科学捜査研究所の技官など、いずれもその分野の専門家である。裁判所は、これらの専門家の鑑定書について、直接本人に尋問をおこない、鑑定書や新証拠を正しく評価するべきである。

 ところで弁護団は、このうちの万年筆のインクの問題については、直接裁判所が蛍光X線分析をおこなうことができる客観的な第三者による鑑定を実施するよう求めた。弁護団が提出したI鑑定は、被害者が当日書いたペン習字の浄書の文字インクと被害者の使っていたインク瓶のインクからはクロム元素が検出されるが、石川宅鴨居(かもい)から「発見」された万年筆を使って被害者家族が書いた数字のインクからはクロム元素が検出されないことを科学的に明らかにしたものである。これは、石川さん有罪の決め手となっている自宅から発見された万年筆は、被害者が使っていたインクとはいえないことを明確にしたもので、有罪の根拠を根底からひっくり返すきわめて重要な鑑定結果である。裁判所はこのインクの鑑定の重要性を認識して、職権で鑑定をおこない、みずからインクの違いを確認するべきである。

 裁判の現状を少し説明しておく。今年の2月28日、検察官は、血液型、殺害方法・死体処理の2点の論点以外の弁護団が提出した新証拠にたいする反論と「事実取調請求書」にたいする意見書を提出してきた。検察官は、筆跡、指紋、足跡、スコップ、目撃証言、音声証言、万年筆インク、万年筆発見経過、自白にかかわる9人の鑑定人については、証人尋問の必要性はないと主張してきた。また、焦点になっている万年筆インクの鑑定実施も必要ないと主張した。さらに、3月15日には、血液型についても鑑定人の証人尋問の必要性はないとする意見書を提出した。検察の主張は、弁護団が提出している新証拠はいずれも新規性がなく、すでに弁護団がくり返し主張してきたものであるという内容であるが、証拠開示によって明らかになった事実をもとにおこなった鑑定の内容と科学性を無視した、まったく説得力のない不当な主張である。弁護団は、これら検察官の意見書に反論するとともに、事実調べの必要性を明らかにする意見書を今後提出することにしている。

  また4月18日、第54回三者協議がひらかれ、東京高裁第4刑事部の大野勝則・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは、中北事務局長ほか8人の弁護人が出席した。

 三者協議で、検察官は残された論点である殺害方法・死体処理については5月末までに意見書を提出するとした。弁護団は、検察官の提出する意見書をふまえて、検察官意見書等にたいする反論と、鑑定人尋問と万年筆インクの鑑定の実施の必要性を主張する意見書を提出するとのべた。今後、検察官の意見書提出、弁護団の反論の意見書の提出を受けて、事実調べについて協議がおこなわれ、裁判所が事実調べの採否を決定することになる。

 狭山第3次再審闘争はいよいよ大詰めを迎えた。部落解放同盟は、この期を逃さず、狭山闘争60年の総決算をかけて裁判闘争を全力ですすめる方針を確認したが、当面のとりくみとして、以下の3点を提起したい。

 まず第1点目は、鑑定人尋問と万年筆インクの鑑定実施を求めた署名活動のさらなる継続である。昨年9月、部落解放同盟中央本部は、緊急署名運動をよびかけ、本部役員が手分けして全国の支援団体や共闘団体に緊急署名への協力を訴えた。その結果、昨年10月までに10万筆の目標を達成し、年明けの第2次集約では20万筆を超える署名が集まった。さらに2月末の第3次集約では40万筆以上が集まり、4月末現在、50万筆を超える署名が全国から寄せられている。これは証人尋問・万年筆インク鑑定にたいする支援者の関心の高さを示すものであり、また60年におよぶ大衆運動としての狭山闘争の裾野の広さを示すものである。この署名運動をさらに強化し、東京高裁に、これほど多くの人々が狭山事件の事実調べを望んでいることを示していこう。

 第2は、各地域の狭山集会・学習・パネル展示、街宣活動等の実施である。狭山再審の支援を広げるために、各地で集会や学習会を開催し、鑑定人尋問・インク鑑定実施の内容を学習し、署名活動などの支援をよびかけよう。とくに鑑定の実施を裁判所に要請している蛍光X線分析による万年筆インクの鑑定については、その内容をできるだけ詳しく説明し、発見万年筆がねつ造されたものであること、狭山事件はでっちあげの差別裁判であることを訴えていこう。

 第3は、マスコミへの働きかけである。狭山闘争は今年60年を迎えたが、60年という長い闘いになっているため、狭山事件を「知らない」という若い人も多い。この事件を知ってもらうためには、マスコミの力が欠かせない。徳島や埼玉、新潟などでは、地方紙が狭山事件をとりあげ、反響をよんでいる。各地のマスコミに60年におよぶえん罪、狭山事件の真相の報道を働きかけよう。

 ところで、袴田事件は、3月13日に東京高裁が再審開始決定を出していたが、東京高検は特別抗告期限の20日、最高裁への特別抗告を断念すると表明した。逮捕から約57年を経て、袴田さんの再審開始がやっと確定した。静岡地裁でひらかれる再審公判で、袴田さんに無罪が言い渡される見通しとなった。再審開始決定した東京高裁は、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」について、血痕の色を手掛かりに袴田さんのものとも「犯行着衣」ともいえないとしたうえで、「捜査機関の者が隠匿した可能性が極めて高い」と指摘し、「証拠の捏造(ねつぞう)」とした静岡地裁決定と同様の結論を導き出した。テレビや新聞もトップニュースでこれを報道し、警察は証拠のねつ造もやるのだという事実を満天下にさらけ出した。狭山事件でも、万年筆など証拠のねつ造の疑いが明らかになってきているが、袴田事件と同じように、狭山でも証拠のねつ造、自白の強要があったこと、石川さんの無実を大々的に宣伝し、再審開始に向けた支援につなげていこう。

 裁判は、いよいよ大詰めを迎えた。弁護団は、今後事実調べについて裁判所に強く求めていく構えだが、弁護団の活動を支援し、なんとしても鑑定人尋問とインクの鑑定実施を実現しよう。再審開始をかちとるために、事実調べ・再審開始を求める世論をさらに盛りあげていこう。

 部落解放同盟は、石川一雄さんが不当に逮捕されてから60年を迎える5月23日に東京・日比谷野外音楽堂で市民集会を開催する。事件発生60年の歴史的なこの集会に全国から結集しよう。

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