「解放新聞」(2023.05.25-3065)
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厚生労働省が発表した2022年度平均の有効求人倍率は1・31倍で、前年度に比べて0・15ポイント上昇した。上昇は2年連続で、感染症拡大による自粛要請などの行動制限が解除されたことからの経済の回復にともない、企業の求人数が大幅に増加した。
2022年度の月平均の有効求人数は約251万1千人で、前年度より10・8%増加した。有効求職者数は約191万7千人と同2・0%減少となった。
一方、今年3月の有効求人倍率(季節調整値)は1・32倍で、前月比0・02ポイント低下した。企業の足元の採用意欲を示す新規求人数は同4・6%減少となった。
産業別の新規求人数を前年同月比でみると、生活関連サービス業・娯楽業が8・3%増、宿泊業・飲食サービス業が5・9%増と増加基調が続いているが、製造業は8・0%減、建設業は6・3%減で、原材料費や光熱費の高騰で企業が採用に慎重になっているとみられる。こうした厳しい雇用情勢のなか、求職者の個人情報の取り扱いを定める「職業安定法5条の5」に違反する面接時の不適切な質問や、不適切な項目をふくむ社用紙等の提出を求めるなどの「差別につながる恐れのある事象」は、2021年度には全国で846件の事業所について報告されている。
この間、「部落地名総鑑」差別事件発覚から47年を経て、インターネット上では差別を扇動する情報が掲載され続けている実態がある。この状況のなかで、「部落差別解消推進法」の意義を広め、就職差別撤廃のとりくみもいっそう強化することが求められている。
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公正な採用選考の実現に向けたとりくみにおいても、「部落差別解消推進法」でも謳(うた)われているように、情報化の進展にともなって差別に関する状況に変化が生じている。昨年、企業が調査会社に依頼して採用予定者のSNSの裏アカウント調査や身辺調査をおこなっていることがメディアで報じられた。アカウントとはSNSで使う本名のようなもので、裏アカウントとはニックネームとするとイメージしやすいだろう。報道によれば、企業は本人に同意を得たうえで調査会社に名前、生年月日、現住所、学歴・職歴などを提供し、調査会社はそこから生年月日の数字やSNSで相互フォローしているなどの関係者をキーワードにSNSアカウントを特定しているという。調査結果は「懸念なし」から「重大な懸念あり」までを5段階で依頼企業に報告している。裏アカウントでは普段言えないような愚痴や悪口などをストレス発散に利用していることが多く、これまでの調査で何らかの懸念があるとの調査結果は34%にもおよぶという。この間、公正採用選考の考え方として、「本人の適正・能力以外のことを採用の条件にしないこと」を基本として、国や自治体をはじめ、さまざまな人たちによってとりくみがすすめられてきた。しかしアカウント調査や裏アカウント調査によって、企業はたとえ意図していないとしても採用候補者の思想や信条、家族に関することや交友関係などの情報を入手する可能性が高く、能力や適性を正しく評価できなくなる。また、企業は調査にあたり求職者たいして、個人情報の利用範囲について同意を得ているとされているが、その力関係から、断ることができる学生等はほぼいないだろう。こうした時代の変化にともなう新たな課題にたいして、これまで積みあげてきた公正な採用選考が後退しないようとりくみを強化しなければならない。
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今年は「全国高等学校統一応募用紙」が定められて50年となる。このとりくみは、部落解放同盟の就職差別反対の闘いのなかからおこり、それに共鳴する教師などの奮闘もあり、1970年に近畿や広島で実現し、さらに1973年に全国化したものだ。それ以降、新規高卒者の就職応募書類は「全国高等学校統一応募用紙」、新規中卒者は「職業相談票(乙)」を使うように厚生労働省・文部科学省を中心に指導されるようになっている。またその後、大卒者についても応募用紙の「参考例」が示され、「統一応募用紙」と同様の趣旨の徹底がはかられている。これらのとりくみは、部落差別はもとより、家庭環境・資産や家族関係による差別、親の職業などによる差別、思想信条による差別など、さまざまな差別に結びつく個人情報の収集を許さないとりくみとして前進してきた。そして1999年の「職安法」改正では「求職者の個人情報の取り扱い」が明記され、「労働大臣指針」が定められ、その法的裏づけができた。しかし課題は山積している。2020年7月、セクシャルマイノリティ当事者を支援する団体から、厚生労働省や日本規格協会(JIS)等にたいして性別欄の削除等、履歴書様式の検討を求める要請がおこなわれ、日本規格協会が示していたJIS規格の履歴書の様式例を削除した。これを受け、厚生労働省は公正採用選考をすすめるうえで参考となる履歴書様式を定めて公表し使用を推奨している。しかし、削除されるべき性別欄は選択式から記載式に変更されたにすぎず、カミングアウトの強要など、問題が残っている。さらにこの問題が残っている様式例にならって、高校卒業者が就職活動に使用する「全国高等学校統一応募用紙」の変更が厚労省、文科省、全国校長会で議論されており、注視が必要だ。
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就職差別をなくすために労働組合の役割も大きい。企業や事業所の内部からチェックするとりくみも大切だ。また、労働者の権利を守り、差別や人権侵害のない職場をつくるためにも、採用という雇用関係の入り口で、差別を許さないことが重要だ。
部落解放中央共闘会議と部落解放地方共闘全国連絡会議は、毎年6月を「就職差別撤廃月間」と位置づけ、リーフレットを作成し啓発活動にとりくみ、職場での点検活動をよびかけている。また、各府県共闘会議においては、労働局や府県行政・教育委員会などにとりくみ強化の申し入れをおこなっている。また、連合が2019年に実施した、近年入社試験を受けた人を対象としたアンケート調査では、応募書類やエントリーシートで「本籍地や出生地」の記入を求められたとの回答が56%にもおよぶなど、課題山積を再認識させられる実態を明らかにした調査結果を公表している。そして今年、同様のアンケート調査がとりくまれている。こうしたとりくみを通じて、各地で共闘会議や連合との連携を深め、就職差別撤廃のとりくみを強化していこう。
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就職差別撤廃とともに、安定した雇用を促進していくとりくみも重要だ。地域での生活相談とあわせて職業相談活動を充実させる必要がある。
「生活困窮者自立支援法」にもとづく「自立相談支援事業」を活用し、就職困難者の自立を支援していくことや、「ハローワークの求人情報のオンライン提供」を活用し、隣保館などでの職業相談活動を充実させていくことも大切だ。また、ハローワークなどとの情報共有を強化し、困窮者に有用な情報や施策を積極的に提供するよう求めるとともに、「部落差別解消推進法」の具体化として、隣保館がない地域でもハローワークや自治体などと連携を密にし、隣保館活動の実施と充実を求めていくとりくみが重要だ。
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安倍政権がおしすすめた労働法制は、不安定雇用を助長し、感染症拡大をはじめ過去にはリーマンショックや自然災害時に多くの失業者を生み出し、セーフティネットの脆弱(ぜいじゃく)性が明らかになっている。そして格差は拡大し続けている。
今日、7人に1人が貧困にあえぎ、ひとり親世帯では半数近くが貧困に苦しんでいる。不安定かつ低賃金の労働者が増え続ける現状を方向転換させるために全力でとりくもう。
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