「解放新聞」(2023.06.05-3066)
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農業や漁業は、産業(仕事)振興の課題にとどまらず、集落形成や維持の根幹に関わる問題である。しかし、現実の多くの農漁村部落の実態は、都市型部落の課題よりさらに深刻である。もともと農漁村部落の多くは、小規模な集落である。そして、以前から多くの若者は進学や就職に関わって生まれ育った部落を離れ、高齢者だけが残されるという状況があった。また、歴史的にも土地所有権や水利権、入会権など、漁村でも漁業権から排除されてきた。そうしたことが絡み合い、農村部落の多くは中山間地域、小規模零細、高齢化という状況にあり、漁村についてもほぼ同様の状況になっている。さらに、30年余の同和対策事業によってさまざまな施策が実施されてきたが、「特別措置法」期限後20年以上経過した今日、さらに解決しなければならない課題が山積している。こうした現状のなかで、全国的な「農漁村部落の生活と権利をまもる」とりくみが必要である。
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まず、農業をめぐる情勢についてであるが、「TPP」と「日米貿易協定」という国際的な状況と、2018年の「種子法」廃止、2020年の「種苗法」改悪の動きである。これらの動きはいうまでもなくアベノミクスの流れのなかでのことで「規制緩和」「貿易の自由化」などの外圧に隷属するもので、国内の農業生産者にとっては不安要因でしかなかった。こうした状況に農水省は、「重要5品目は守った(TPP)」「民間のノウハウを導入し、活性化と競争力を高める(種子法)」といい、「今後も自治体のとりくみを支援していく」としている。そして「種苗法」の改悪についてもその理由を「優良品種を保護する。とくに外国への流出を防ぐ」としている。もう一つの重要問題に「食料自給率」がある。日本の自給率は先進国で最低の「38%(カロリーベース)」であり、種子や苗の段階まで考えると、さらに低下し、私たちの食卓にあがる食料のほとんどは安全性が担保されていない外国産ということになる。また、食の安全とも関わって「遺伝子組み換え」された食料・農産物が氾濫するという状況がさらに拡大する可能性がある。こうした状況をふまえ、農水省交渉を継続して実施していくが、都府県連においても農業政策と基本的な方向性についての交渉を継続してとりくんでいく必要性がある。
また、農水省との交渉で、今後の農業政策として出されてきた「生産コストの課題や農産物のブランド化を図り、国際的な競争力を高める」という方向性は、共同化など農業の大型化もふくめ、私たちにとっても重要な課題であるが、多くの農村部落が抱える狭小で条件の不利な土地、担い手の不足による高齢化する従事者などの現実からすると相当高いハードルであり、畜産や食肉関係でも同様のことがいえる。
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さて「同和対策事業」によって、農道や農業用水路、各種共同利用施設、農機具共同利用などが整備され、地域によっては周辺の農業者もふくめた構造改善事業が実施されてきた。漁村についても、近隣の漁業者と連携して、漁船、漁港、養殖施設の整備などがすすめられてきた。
しかし、今日、総じてそうした施設や設備が老朽化している。そして、資金不足(自己負担)や担い手不足(高齢化)などもふくめて、前述した新たな視点での課題に対応するどころか現状を維持することも困難になってきている。
そうした課題をふまえ、これまでの農水省との交渉のなかで「農地利用効率化等支援事業」やその枠組みでの「条件不利型地域対策」事業の活用という方向性が出されている。とくに小規模・零細地域を対象とした「条件不利型地域支援タイプ」は、農水省との交渉で「同和対策事業の趣旨を継承する」との確認もされている。しかし、現実的には、この事業の実施主体が市町村ということから市町村の認識や姿勢に大きく左右され、窓口でなかなか採択されていないという現状が提起されている。また、全国に数多くある小規模部落の場合は、集落営農や共同利用と連携をすすめようと考えても地域のなかで圧倒的少数という極めて厳しい状況があり、農水省には機会あるたびに市町村への事業趣旨の徹底を申し入れているが、具体的な要求課題をもとに市町村交渉を徹底していく必要がある。
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さて、コロナ禍もあってここ数年、農林漁業運動部としての活動は十分できてこなかったが、これまで各地で全国農林漁業運動部長会議および現地視察を実施し、地域の具体的なとりくみ報告や現場の視察を通じて、他の地域でも実現する可能性への提起を受け、参加者で情報共有と協議を重ねてきている。
以前から、企業の農業への新規参入と各種のアグリビジネスなどの起業化、産直施設やインターネットの活用、アンテナショップなど産地と消費地を結ぶとりくみ、などの提起を受けてきたが、その重要性は認識しながらも部落の農家の多くは、規模・水利・立地・高齢化などの問題を抱えている。さらに新たなとりくみのために克服しなければならないさまざまな課題の前に、多くの場合、足踏み状態にある。しかしいま、一歩、農業の「無限の可能性」に向けて踏み出さなければならない。
具体的には、「集落営農」を基礎に周辺地域の農家との連携や耕作放棄地をふくめた農地の集約化、共同利用施設の拡大と連携へのとりくみ。また、「地域・水・空気・太陽」をベースにした環境に優しい持続可能な農業への提起として、米・野菜栽培と酪農・畜産などとの連携による「循環型農業」や「有機農業」についても重要な課題である。さらに他の農業生産グループとの連携や「産地」と「消費地」を結ぶネットワークの構築を早急に検討することも重要で、「ブランド化」や「雇用促進」を生み出している各地の活動に注目しなければならない。さらに、そうした意味でフードバンクとの連携をはじめ各地ですすめられているさまざまなとりくみや工夫に大いに学んでいかなければならないと思う。
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近年の「豚コレラ」「鳥インフル」などの流行に関わって、その対策をすすめてきたが、先行きの不確定要素などの状況があり、畜産、食肉関係者は、厳しい状況に置かれている。さらに、鳥獣被害対策など農水省だけでなく経済産業省、環境省、厚生労働省との関係もあり、より横断的・総合的なとりくみの確立を痛感している。
さらに、私たちは、以上のべてきた現状や課題だけでなく、また、これまでの継続したとりくみだけでなく新たな視点でのとりくみが求められている。
しかし、そうした現状や課題があるなかで、各都府県連の活動は別にして、私たち農林漁業運動部としての活動は決して強くて広範なものになっていない。早急に農林漁業運動部の活動の強化をはかっていく必要がある。そのためにも各支部、都府県連のとりくみを中央段階へ集約し、情報や課題、成果を共有することが急務であるといえる。
また、農漁村部落の課題は、農漁業従事者のみの課題ではなく、周辺地域や消費地の課題でもある。そうした視点で、「集落」を拠点に、他のさまざまな人との連携はもちろんのこと、生産者と消費者、生産地と都市を結ぶ活動としてすすめられなければならない。環境保護をテーマにした「循環型農業」「デジタル農業」の推進、食の安定供給と安全をテーマしたとりくみなどである。
農林漁業に関わる課題をすべての地域で共有し、さらに全国的に運動を強化発展させていくことを提起したい。
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