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事実調べ実現に向けた正念場、狭山再審へ闘い抜こう

「解放新聞」(2023.07.05-3069)

 狭山事件再審弁護団は、昨年8月に東京高裁第4刑事部(大野勝則・裁判長)あてに提出した事実取調請求書で鑑定人尋問とともに万年筆インクの鑑定を東京高裁が実施するよう求めている。

 狭山事件では、石川さんの自白どおり被害者の万年筆が自宅から発見されたとして有罪判決の決め手の証拠とされた。第3次再審請求で、事件から50年たった2013年、被害者が使っていたインク瓶がはじめて証拠開示され、被害者がジェットブルーというインクを使っており、このインクにはクロム元素がふくまれていることが判明した。さらに、発見万年筆で事件当時、数字を書いた紙(を添付した調書)が2016年に証拠開示された。弁護団は、被害者が事件当日の授業で書いたペン習字の文字のインクやインク瓶に残存するインクと、有罪証拠とされた発見万年筆で書いた数字のインクが同じかどうかを、専門家による蛍光エックス線分析で調べ、その結果、被害者が使っていたインクにはクロム元素がふくまれているが、発見万年筆のインクにはクロム元素がふくまれていないことが明らかになった。発見万年筆は被害者のものとはいえないことが科学的に明らかになったのだ。弁護団は事実調べ請求で、これら万年筆インク資料(発見万年筆で書かれた数字のインクや被害者が事件当日に書いたペン習字浄書のインク等)について、別の専門家による鑑定を裁判所が実施するよう求めているのである。裁判所みずから鑑定し、同じ結果が出ればインクの違い、証拠の万年筆が被害者のものとはいえないことははっきりするであろう。弁護団の要求は誰もが納得するあたりまえのことだといえる。

 3月に再審開始決定が出された袴田事件では、有罪判決の根拠となった「5点の衣類」の血痕に赤みが残っていることがねつ造の疑いを示すものとして最大の争点だった。弁護団は、1年2か月も味噌に漬けられていれば赤みが残ることはないことを科学的に明らかにした学者の鑑定書を提出していたが、東京高裁は昨年7月、8月に鑑定人の証人尋問をおこなっている。2010年に再審無罪となった足利事件では、東京高裁がDNA鑑定の再鑑定をおこない、その結果、半年後に再審開始決定が出された。事実調べは必要である。東京高裁第4刑事部(大野裁判長)が万年筆インク鑑定をおこなうよう強く求めたい。

 2月、検察官は、弁護団提出の新証拠にたいする反論と事実取り調べ請求にたいする意見書を提出した。検察官は、筆跡、指紋、足跡、スコップ、目撃証言、音声証言、万年筆インク、万年筆発見経過、自白に関わって新証拠(鑑定書)を作成した9人の鑑定人について、弁護団が求めた証人尋問の必要性はないとし、万年筆インクの鑑定の実施も必要ないと主張している。

 3月には、血液型について、弁護団が提出した新証拠(法医学者の鑑定)にたいする反論の意見書を提出した。さらに、5月25日には、殺害方法、死体処理について、弁護団が提出した新証拠(法医学者の鑑定)にたいして反論の意見書を提出した。

 検察官はこれらの意見書で、昨年8月に弁護団が提出した事実取調請求書で裁判所に求めた11人の鑑定人の証人尋問とインク資料の鑑定の実施について、すべて必要ないと主張している。

 弁護団は、今後、検察官の意見書に反論するとともに、事実調べの必要性を明らかにした意見書を提出することにしている。

 その後、裁判所が事実調べの採否について決定することになるので、私たちは、東京高裁が鑑定人の証人尋問とインクの鑑定をおこなうよう求める世論をいっそう大きくしていかなければならない。

 6月8日、東京高裁で55回目の三者協議がおこなわれ、東京高裁第4刑事部の大野裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは中北事務局長をはじめ11人の弁護士が出席した。

 協議では、弁護団から、検察官が提出した意見書にたいする反論と事実調べの必要性を明らかにした意見書を提出する予定であることを伝えた。次回の三者協議は8月上旬におこなわれる。

 いよいよ事実調べ実現に向けた正念場である。

 昨年9月から始められた事実調べを求める緊急署名は、5月末で51万筆を超えた。この署名は、部落解放同盟はもとより、全国の労働組合、宗教者、市民団体だけでなく、個人から送られたものだ。東京高裁が、弁護団の求める11人の鑑定人尋問とインク資料の鑑定を実施するよう求める世論の高まりを示している。

 6月7日、狭山事件の再審を求める会事務局長でルポライターの鎌田慧さん、作家の落合恵子さん、落語家の古今亭菊千代さん、評論家の佐高信さんが、この事実調べを求める署名を東京高裁第4刑事部(大野裁判長)あてに提出し、要請行動をおこなった。

 この日提出された署名は、個人署名が41万656筆、団体署名が1320団体。昨年10月に提出された署名とあわせて、個人署名51万4577筆、団体署名は2344団体になる。鎌田さんらは、51万という市民の声を受けとめて、鑑定人尋問と万年筆インクの鑑定をおこなうよう強く要請した。

 今後、弁護団が、検察官の意見書にたいする反論の意見書を提出するのを受けて、裁判所が事実調べの採否を決定することになる。全国で、新証拠の学習・教宣を強化するとともに、署名運動をすすめ、事実調べを求める市民の声をさらに裁判所に届けよう。

 狭山事件で、検察官は弁護団が求める証拠開示について、開示の必要がない、求める証拠があるかないかも明らかにする必要がないなど、不誠実な対応に終始している。検察官は、再審請求で検察官に証拠開示を義務づける法律の規定がないと主張する。

 3月に袴田事件の再審開始決定が出されたさいにも、こうした検察官の証拠不開示の問題や再審開始決定にたいする検察官の抗告(不服申し立て)の問題が指摘され、新聞、テレビでも大きくとりあげられた。

 袴田さんの再審請求では、静岡地裁(村山浩昭・裁判長)が、2014年3月に再審開始の決定を出している。しかし、検察官が抗告し、東京高裁で取り消され棄却された。その後、最高裁がこの東京高裁の棄却決定を取り消し、審理を差し戻された東京高裁で、再審開始決定がふたたび出され、確定したのである。2014年の静岡地裁の開始決定から9年もの歳月が費やされ、この間に検察官は無意味な反証を国費を使ってくり返したのだ。袴田巖さんは87歳。再審請求人の姉の袴田ひで子さんは90歳である。検察官こそが一日でも早く再審で無罪判決を求めるべきだ。

 96歳になる原口アヤ子さんが無実を叫び続けている大崎事件でも、地裁、高裁が3回の再審開始を決定したが、検察官が抗告し、最高裁が再審決定を取り消して、4回目の再審請求が続いている。検察官が再審開始に抗告などしなければ、いずれもすでに無罪判決が出されていたであろう。検察官は、裁判所が証拠にもとづいて出した再審開始決定に不服申し立てなどすべきではなく、すみやかに再審公判に臨み、むしろえん罪を引き起こした責任を反省し、謝罪すべきである。それが多くの市民の常識的な感覚だ。

 日本弁護士連合会は、再審請求における検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、裁判所による事実調べなどの規定を盛り込んだ「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」を2月に公表した。

 狭山事件で石川さんの再審開始・無罪判決を一日も早く実現するためにも、「再審法」改正は緊急の課題だ。「再審法」改正を国会に求める署名にとりくもう。

 全国各地でもえん罪・狭山事件60年をアピールし、集会や街頭宣伝、パネル展などをおこない、事実調べを求める署名をさらに広げよう。

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