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画期的な控訴審判決をふまえ上告審の完全勝利へ

「解放新聞」(2023.07.25-3071)

1.はじめに―判決の概要

 7年にわたって闘ってきた「全国部落調査」復刻版出版事件裁判で、東京高等裁判所第16民事部(土田昭彦・裁判長)は6月28日、一審原告のわれわれの主張を大幅に認める画期的な判決を言い渡した。

 判決は、一審判決(東京地裁)に続いて「全国部落調査」復刻版の出版の差し止めを認め、差し止めの範囲にあらたに長崎、佐賀、徳島、山口、三重、茨城の六つの県を追加し、31都府県に拡大した。損害賠償も60万円増やして総額552万円に増額し、事実認定においても、現在も厳しい部落差別の実態があることを認定した。また、争点になっていた権利侵害を受ける原告の範囲についても、戸籍をさかのぼって身元調査がおこなわれている実態を直視し、「原告本人の現在の住所・本籍」だけでなく、「原告本人の過去の住所・本籍」や、「原告の親族の住所・本籍、親族の過去の住所・本籍」が被差別部落にある場合にまで拡大した。そして、一番大きな争点であった「差別されない権利」についても、「差別されない権利」の言葉そのものこそ用いていないが、事実上、明確に「差別されない権利」を認めた。これは今後、部落差別を禁止する法制定につながる大きな成果である。

2.控訴審判決で評価したい点

 問題点の多かった一審判決と比較して、高裁は相当程度、原告であるわれわれの主張をとり入れて判決に反映させた。以下、控訴審判決で評価したい点を五つあげたい。

 ①差別されない権利

 まず第1点目は、「差別されない権利」をはっきり正面から認めたことだ。

 この裁判でわれわれは、プライバシー権、名誉権のほかに「差別されない権利」があり、それが侵害されていることを強調して「全国部落調査」の出版差し止めとインターネットからの削除、そして損害賠償を求めた。これがこの裁判のわれわれの中心的な主張であったが、一審判決は「差別されない権利の内実は不明確である」としてこれを認めなかった。しかし、高裁は正面からはっきり「差別されない権利」を認めた。高裁は、「本件地域情報」を公表することは、「差別されない権利」の侵害であり、それは差別であって決して許されない行為だと判断を示したのである。

 ②プライバシー権の整理

 2点目は、一審判決の一番大きな欠陥、すなわち「差別されない権利」を認めず、プライバシー権の侵害に収斂(しゅうれん)させて判断したことについて整理し、一審判決の限界を指摘したことである。

 判決は「仮に本件地域情報の公表によりプライバシー権又は名誉権が侵害されることがあるとしても、これは上記の人格的な利益〔=差別されない権利〕が侵害される場合と重複するものと認められ、プライバシー権及び名誉権はいずれも人格権に基づくものであるから、これらの権利利益は上記の人格的な利益〔=差別されない権利〕において考慮するのが相当である」(26㌻。〔 〕は引用者注)とのべ、プライバシー権で判断した一審判決を修正、「差別されない権利」で判断するべきだと明快に示した。

 ③差し止めの範囲

 3点目は、差し止めの範囲を拡大し、六つの県をあらたに差し止めたことだ。

 われわれは地名が掲載されている41都府県全部の差し止めを求めたが、一審判決は範囲を狭くとらえ、25の都府県だけを差し止め、16県を除外した。控訴審では、われわれはその県に原告がいなくても、「全国部落調査」が出版されインターネット上に公表されれば、それが身元調査の材料として悪用され、そこに関連を持つすべての関係者が被差別部落出身者と見なされ、差別されるのは同じだと主張して全部の削除を求めた。これにたいして高裁は差し止めの基準を見直し、あらたに6県を差し止めの対象に追加した。この点も評価したい。しかし、残念なことに、原告や親族の現在または過去の本籍・住所がないとされた10県は除外されてしまうという課題は残った。ただし、誤解のないようにしてほしいのは、この10県は原告がいないから差し止めを認めなかっただけであり、被差別部落の地名リストの発行はいかなる地域であっても違法であるという判決の内容は変わらないのであって、除外された10県は公表してもいいということでは決してない。

 ④原告の範囲拡大

 4点目は、損害を受けた原告の範囲を広げたことである。

 一審では、損害を受けた人の範囲を「現住所・本籍」に限定し、範囲を制限した。しかしわれわれは控訴審で、被差別部落にルーツを持つものが被差別部落出身と見なされて差別されると主張して、その範囲を広げるように主張した。その結果、高裁は現在「住所・本籍」を置いている原告だけではなく、「過去に住所・本籍」を置いていた原告、さらに「親族の住所・本籍、親族の過去の住所・本籍が被差別部落にある原告」にまで拡大し、差し止めの範囲を拡大した。これは戸籍をさかのぼって取得し、被差別部落出身者を調べる身元調査の実態を直視した判断であり、部落差別の系譜性を認めるべきだという、われわれの主張を受け止めた結果である。

 ⑤部落差別の実態の把握

 5点目は、判断の前提として、部落差別の現状をしっかり受け止めて事実認定した点である。

 裁判の前提となる部落差別の実態については一審判決も一定の理解は示したが、高裁はさらに踏み込んで認定をおこなった。具体的には、「人権教育・啓発推進法」や「部落差別解消推進法」の制定された経緯、法務省の意識調査、近年の行政書士の戸籍不正取得事件などについて言及し、部落差別の実態を詳しく認定した。とくに高裁は、最近のインターネットの影響について紙幅を割いてとりあげた。すなわち「インターネット上の部落差別の実態に係る〔法務省の〕調査からは、部落調査に関連する情報をインターネット上で閲覧した者の少なくとも一部には差別的な動機がうかがわれるほか、必ずしも差別的な動機ではなく一般的な興味・関心で閲覧した大部分の者についても、インターネット上で部落差別に関する誤った情報や偏見・差別をあおる情報に接することにより、差別意識を植え付けられる可能性がないとはいえない」(19㌻。〔 〕は引用者注)とのべ、現在の部落解放運動のもっとも大きな課題であるネットの与える影響に言及した。

3.最高裁で完全勝利を

 このように控訴審判決は、一審判決を大きく上回る内容の判決となった。これは弁護団および原告、支援者の7年にわたる闘いの成果であり、心から感謝したい。しかし、今回の判決でも「全国部落調査」復刻版全体が差し止めにならなかったという大きな課題が残った。また、損害賠償額もわずかに増額されただけで、被告に社会的な制裁を加えるという角度から見れば決して十分とはいえない。こんなひどい差別行為をおこなったら、このように厳しい司法的制裁を受けるというものでなければならないが、到底そういう金額とはいえない。

 このような立場から中央本部は、原告団、弁護団と協議して最高裁に上告することにした。最高裁はおもに憲法違反である場合にだけ審理するということが原則なので、この裁判で判断に大きな変更があるとは思えないが、しかし問題が深刻重大な被害をもたらす部落の地名公表である以上、われわれは決してあきらめずに完全勝利をめざして裁判闘争を続けていきたい。また、鳥取ループの「部落探訪」にたいする第2弾の闘いもすすめていかなければならない。今日までの全国の部落解放同盟員のみなさん、また原告のみなさん、そして支援者のみなさんに感謝申しあげるとともに、最高裁での上告審の闘いの支援を訴えるものである。

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