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狭山事件の事実調べの実現と、「再審法」改正求める世論を広げよう

「解放新聞」(2023.09.05-3075)

 狭山事件再審弁護団は、6月30日、検察官が提出した意見書の誤りを明らかにした新証拠と意見書を提出した。提出したのはスコップについてF鑑定人の意見書と補充書。提出された新証拠はこの他のものもふくめて261点になった。

 弁護団は、第3次再審請求で、元科捜研技官のF鑑定人による意見書を新証拠として提出し、有罪判決が根拠としたスコップについて、死体を埋めるために使われたものとも、石川さんがかつて働いていた養豚場のものともいえないことを科学的に明らかにし、スコップを有罪証拠とした確定判決に合理的疑いが生じていると主張し、昨年8月に提出した事実取調請求書で、F鑑定人の証人尋問を求めた。

 これにたいして検察官は、警察庁科学警察研究所技官の意見書など反論の意見書を提出、今年2月には鑑定人尋問の必要性はないとする意見書を提出した。今回提出された新証拠と補充書は、この検察官意見書の誤りを明らかにするものだ。

 一方、スコップが死体を埋めるのに使われたものとする根拠となった埼玉県警鑑識課員の土壌鑑定に関わって、弁護団が求めた証拠開示請求にたいしては、検察官は応じず、あるかないか答える必要もないと回答。不誠実、不公正な姿勢に終始している。弁護団が開示を求めているのは、土壌鑑定をした県警鑑識課員を東京高検の検察官が事情聴取したときの報告書類だ。有罪の根拠となった土壌鑑定の疑問を解明するために必要であるし、開示しても何の問題もないはずだ。

 スコップは発見直後に何の客観的根拠もなく、石川さんと同じ被差別部落出身者が経営する養豚場のスコップと決めつけられ、被差別部落にたいする見込み捜査の出発点になっている。捜査報告書が証拠開示され、当時、捜査本部がこの養豚場関係者に捜査を集中し、そのなかから、かつて働いていた石川一雄さんに的を絞っていったことも明らかになっている。スコップは有罪判決の誤り、えん罪を明らかにする重要な争点の一つである。警察の誤った鑑定によって、有罪判決を支える証拠の一つとされたスコップについて、東京高裁は、科学的な新証拠をふまえ、鑑定人尋問をおこなうべきだ。また、弁護団が求めているスコップ関連の証拠開示について検察官に開示命令を出すべきだ。

 弁護団は、7月14日、インク資料の鑑定請求補充書を東京高裁に提出した。

 狭山事件では、被害者の万年筆が自白通り石川さんの家から発見されたとして、有罪判決を支える重要な証拠とされている。弁護団は第3次再審請求で、2018年8月、I鑑定人の蛍光X線分析によるインクの鑑定を提出し、石川さんの家から自白通り発見されたとして有罪の根拠となった万年筆は、被害者のものといえないことを科学的に明らかにした。

 I鑑定人は、蛍光X線分析装置をもちいて、検察庁内でインク資料の検査をおこなったところ、被害者が事件当日に学校で書いたペン習字浄書の文字のインクや被害者が使っていたインク瓶のインクからはクロム元素(Cr)が検出されたが、石川さんの家から発見された万年筆で書いた文字(数字)のインクからはクロム元素が検出されなかった。この鑑定結果は、発見万年筆のインクは被害者が使っていたインクではなく、別インクを補充したという、これまでの裁判所の判断でも説明できないことを科学的に示している。

 弁護団は、昨年8月に提出した事実取調請求書において、発見万年筆で紙に書かれた数字、被害者のペン習字浄書、被害者のインク瓶のインクなどのインク資料について、別の専門家による蛍光X線分析鑑定を裁判所の職権で実施するよう求めた。

 これにたいして検察官は、今年2月に提出した意見書において、I鑑定人の証人尋問もインク資料の鑑定の実施も必要がないと主張した。検察官の主張は、被害者が、万年筆を水で洗ったうえで別インクを入れれば、元のインクに入っていたクロム元素が検出されなくなるなどとして、発見万年筆で書いた数字のインクからクロム元素が検出されなかったとしても、発見万<J jkr=9.2pt>年筆が被害者のものでないとはいえないというものだ。</J>

 発見万年筆のインクからクロム元素が検出されなかった鑑定結果にたいして科学的に反論できないので、被害者が万年筆を水洗いしたなどという、新たな主張を、半世紀以上を経たいまになって持ち出してきたのだ。「被害者が万年筆を水洗いして別インクを補充した」などということは、それを目撃した級友の証言など客観的根拠があるわけでもなく、検察官の憶測以外の何物でもない。

 今回、提出した鑑定請求補充書で弁護団は、鑑定人を推薦するとともに、使用可能な蛍光X線分析装置を具体的に提示、説明して、あらためて裁判所によるインク資料の鑑定の実施を求めるとともに、鑑定の実施を必要ないとする検察官意見書に反論している。

 補充書では、事件当日の被害者の学校の時間割なども示して、検察官が主張するような万年筆を洗って別インクを補充するという行為は合理的にありえないし、その必要性もないことを指摘している。事件当日1時間目のペン習字の授業のあとに、洗って別インクを入れてまでして万年筆を使う必要などないからだ。

 発見万年筆が被害者のものであるということは有罪判決の大前提だ。弁護団が具体的に提示する鑑定によって、この有罪判決の認定に合理的疑いが生じているかどうかを科学的、客観的に明確にすることができるのであるから、東京高裁はインク鑑定を実施すべきだ。

 8月10日、第56回三者協議がひらかれた。協議で弁護団は、検察官が提出した意見書にたいする反論と事実調べの必要性を明らかにした意見書を順次提出していくことを伝えた。また、スコップ関連で証拠開示を求めている資料の存否について検察官が明らかにするよう裁判所の職権発動を求めた。

 次回の三者協議は11月上旬におこなわれる。

 検察官は、弁護団が求めた11人の専門家の鑑定人尋問もインク鑑定の実施も、すべて必要ないと主張している。弁護団は今後、自白、識字能力、血液型、殺害方法等について、反論の意見書を順次提出していく予定だ。検察官は、これらが提出された段階で再反論を検討するとしており、東京高裁は、それらを受けて事実調べ(鑑定人尋問とインク鑑定の実施)について判断することになる。

 2009年に再審無罪となった足利事件では、弁護団が求めたDNA再鑑定を東京高裁が実施、犯人とDNA型が一致しないことが明らかになり、菅家さんは千葉刑務所から釈放され、再審無罪となった。

 2011年に再審無罪となった布川事件では重要な証拠の開示がすすみ、無実の新証拠が発見された。東京高裁は、弁護団が求めた法医学者らの鑑定人尋問をおこなうとともに職権による法医学鑑定も実施した。

 先日、再審開始が確定した袴田事件でも捜査報告書や取調べ録音テープなどの証拠開示がすすみ、東京高裁は弁護団が提出した新証拠を作成した鑑定人の証人尋問をおこなった。再審請求における証拠開示と事実調べは不可欠である。

 狭山事件の第3次再審請求では、当時の石川さんの筆跡資料、取調べ録音テープ、インク資料など重要な証拠の開示がすすみ、専門家による科学的な新証拠が提出された。何としても事実調べを実現し、再審開始の突破口を切り開かねばならない。インク資料の鑑定の実施と鑑定人尋問を求める世論を広げ、署名運動をさらにすすめ、東京高裁に届けよう。

 再審請求における検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、裁判所による事実調べなどの規定を盛り込んだ「刑事訴訟法」等の改正(「再審法」改正)を国会に求めよう。

 全国各地でも、えん罪・狭山事件60年をアピールし、集会や街頭宣伝、パネル展などをおこない、事実調べを求める署名をさらに広げよう。

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