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主張

 

力を合わせ、地域福祉運動のとりくみを前進させよう

「解放新聞」(2023.09.25-3077)

 今年5月8日から新型コロナウイルス感染症の「感染症法」上の分類が、季節性インフルエンザと同様の5類感染症に引き下げられた。ウイルス自体が無毒化したわけでも消失したわけでもないが、新型コロナウイルス感染症に関係する情報が極端に減り、感染予防意識が希薄になっている。5類移行前の4月上旬から感染増加傾向が続き、現在、第9波が進行中で、とくに子どもの重症化が目立つほか高齢者の感染者数も増加傾向にある。移行後、自宅療養や待機要請の法的根拠がなくなり、濃厚接接触者や無症状・軽症感染者が自宅にいる必要がないことも要因の一つと考えられる。

 このようななか、9月1日、コロナ禍の教訓をふまえ感染症危機対応の迅速・的確な総合調整を一元的に担う内閣感染症危機管理統括庁が発足した。デジタル化などもすすめるとされる政府行動計画の改定作業をおこなうとしている。今後の危機に備えることも重要だが、それと同時に、コロナ禍において深刻化する貧困・格差の拡大にたいする政策が求められる。失業者や困窮世帯の増加、ひとり親世帯の貧困の深刻化、女性や若年層の自死の増加、虐待の増加、孤立死や介護度が悪化する事例の増加、差別や偏見による人権侵害などさまざまな課題が山積し、いまだ改善の兆しがみえない。こうした課題の解決や社会保障の充実には安定した財源の確保が必要だ。しかし、軍事費を5年以内に2倍化すると対米公約した岸田政権は、来年度概算要求で軍事費の増大と財源確保のための大幅増税や社会保障の削減をおしすすめ、「戦争をする国」づくりを本格化しようとしている。私たちは、差別と戦争に反対する闘いを全力ですすめなければならない。

 今日、長引くコロナ禍や急激にすすむ物価高の影響から生活保護申請件数が増加している。健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を促進するための国民の権利である生活保護制度。その申請の壁といわれてきた扶養照会が緩和され、2021年に厚生労働省から自治体にたいして、申請者本人が扶養照会を望まない場合、ていねいな聞き取りをおこない、不要なケースにあたらないか検討することを求める通知が出された。しかし、申請者の意向を尊重するかについては、自治体によって対応が異なるため、大きく状況が改善されたとはいえない。今後も各自治体の対応の改善を求めるとともに、扶養照会の撤廃を実現し、必要な人が申請をためらうことなく利用できる制度にしていかなければならない。

 低年金の高齢者が、生活保護を受けるケースが増加している。子どもの貧困問題も深刻だが、高齢の親が中高年の引きこもりの子どもの面倒をみる「8050問題」など、高齢者の貧困問題も深刻化している。

 生活保護世帯では物価高のため節電し、夏の暑さ対策ができず、いのちと生活が守れない状況もある。生活保護制度には冬場に支給される「冬季加算」はあるが、夏場に「夏季加算」はない。日々の生活もギリギリで、エアコンの購入も困難な世帯もある。最低限度の生活を保障するためにも「夏季加算」の新設、もしくは生活扶助費の増額を求めていかなければならない。

 生活保護世帯の進学率は、厚生労働省によると、2021年度の高等教育機関への進学率(大学(学部)・短期大学(本科)入学者、高等専門学校4年在学者と専門学校入学者を集計)が全世帯で83・8%にたいし、生活保護世帯では39・9%と依然として低い状況だ。現在の制度では、進学する場合「世帯分離」が条件になっている。昨年末、制度の見直しを検討する部会では現行維持の方向性を示している。貧困の連鎖に歯止めをかけるためにも、教育を受ける権利は平等でなければならない。給付型奨学金の拡充などの実現をめざし、生活保護制度や生活困窮者自立支援制度の、より一体的な改革に向けてとりくみをすすめよう。

 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることによる社会保障費の負担増加や人材不足など、雇用や医療、福祉をはじめさまざまな分野で問題が発生することが懸念される「2025年問題」が目前に迫っている。

 さらに、少子高齢化や人口減少がすすみ、日本全体の人口の3分の1が高齢者となる「2035年問題」、団塊ジュニア世代が後期高齢者となり状況が深刻化すると懸念される「2040年問題」と、急速に進行する少子高齢化による問題に対応することが喫緊の課題となっている。国は、それらへの対策として「全世代型社会保障」の実現を掲げ、公費負担の見直し、医療・介護人材の確保、地域包括ケアシステムの構築、少子化対策などの議論をすすめ、関係法の一部改定や新たな法律の制定をおこなっている。

 2019年から2020年には全世代型社会保障検討会議がおこなわれた。2021年からは、全世代対応型の持続的な社会保障制度を構築するため、社会保障全般の総合的な検討をすすめる全世代型社会保障構築会議がおこなわれ、昨年末に報告書がとりまとめられた。今年5月には、この報告を受け、一定の収入がある75歳以上の保険料の段階的引き上げや、かかりつけ医の制度化、出産育児一時金に係る後期高齢者医療制度からの支援金の導入などが盛り込まれた「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立した。高齢者世代や子育て・若者世代など、すべての人が安心して生活できるための社会保障制度の構築は必要だが、「自助・共助」を拡大し、「公助」を縮小していく改革であってはならない。

 国の掲げる「地域共生社会」の実現は、部落内外を問わず、すべての人が排除されることなく互いを尊重し、いのちと生活を守る地域福祉運動として全国各地ですすめてきた「人権のまちづくり」運動のとりくみそのものだ。虐待や孤独・孤立、貧困、生活困窮など、福祉の課題は拡大し、複雑化・多様化している。申請主義のこの国では、必要な制度を自分で探し、申請しなければ利用できない。地域福祉や介護に関する制度は、数年おきに改定されるものが多い。今年6月参議院での可決を受け、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立した(1年以内に施行予定)。「孤独・孤立対策推進法」も今年5月に可決成立し、来年4月施行される。こうした情報にアンテナを張り、周辺地域をふくめ、それぞれの地域の実態から必要な施策を取り入れ、支部・地区協議会・都府県連の事業としてとりくみをすすめよう。

 すべての人の生きがいや社会参画を実現し、安心安全に暮らしていけるよう、人権の拠点施設として隣保館を有効に活用しながら、運動のなかで培ってきた人と人、人と制度をつなぐノウハウを活かしたまちづくりにとりくむことが必要だ。中央福祉学校などで各地の実践に学ぶとともに、NPO法人や社会福祉協議会、地域包括支援センター、生活困窮者自立支援制度にもとづくサポートセンターなど関係機関と連携し、力を合わせ、地域福祉運動を展開していこう。

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