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部落解放・人権政策の確立に向けた闘いの前進を

「解放新聞」(2023.10.15-3079)

 2023年度部落解放・人権政策確立要求第2次中央集会が10月30日、東京・星稜会館でひらかれる。「全国部落調査」復刻版出版事件の控訴審判決(6月28日)で、東京高裁は「差別されない人格的利益」を認める判断をおこなった。この「差別されない人格的利益」が保障される法制度を求める運動を構築していくことが重要である。わが同盟に結集する部落大衆はもとより、差別と抑圧に苦しんでいる当事者を支援するさまざまな団体などと連携をとった運動づくりにとりくんでいこう。

 2018年8月、国連人種差別撤廃委員会「日本の第10回・第11回定期報告に関する総括所見」では「ヘイトスピーチ解消法」や「部落差別解消推進法」の施行などを評価する一方、「日本国憲法における人種差別の定義が、いまだに本条約第1条に沿うものではないこと及び人種差別を禁止する包括法が締約国に存在しないことを遺憾に思う」、「人権擁護法案の制定手続が2012年に中断され、それ以降国内人権機構の設置に関し何ら進展がないことを懸念する」と指摘。「パリ原則」にしたがい、人権の促進および保護に関する広範な権限を有する国内人権機構を設置することを勧告した。

 また、昨年11月の国連「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)に関する政府への総括所見でも厳しい勧告がなされ、2025年11月4日までに「国内人権機関」「難民および庇護希望者など外国人の処遇」に係る勧告の実施状況について報告するよう求められている。

 安倍政権以降、政府は国連の勧告を事実上無視し、個別人権法の制定で対応し続けている。「差別や人権侵害の定義」「人権救済機関」にたいする根深い拒否反応は、政界にはびこる差別的な体質である。国際社会からも人権上問題があるといわれるなかで「出入国管理及び難民認定法(入管法)」の「改悪」を強行。また、院内外で「差別言動」が頻発。結果、カタチだけで問題ありの「LGBT理解増進法」にとどまった。日本を「人権後進国」へと導くような政治はまったく恥ずべきことである。

 ジャニーズ事務所の創業者による性加害問題でも、今年3月イギリスのBBCによるドキュメンタリーの放送が一つのきっかけとなった。7月末、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が訪日。ジャニーズ問題でも関係者からの聞き取りや政府や企業が人権をめぐる義務や責任にどうとりくんでいるのか精力的に調査。女性や障害者などにたいする不平等と差別の構造の解体や、独立した国家人権機関の設置を求めた。反差別国際運動(IMADR)は9月22日、「政府は今すぐ「人権救済のための機関」を設置せよ」との声明を発表している。

 ジャニーズ問題に代表されるように「社会全体で隠ぺい」されていた事実からも、子どもの権利を守る包括的な法律は必要で、人権侵害による被害者救済の法制化を急ぐべきだ。外圧に頼るのではなく、国内における人権の市民運動の展開がいまこそ重要である。

 地方では、2016年以降、人権尊重・擁護等に関する条例や部落差別の撤廃等に関する条例に関して改正や全部改正をおこなったり、新たな条例を制定したりするなどの動きが活発化。現在、19の都府県で人権尊重に関する条例(2016年以降に10都府県が制定または改正・全部改正)、8府県で部落差別に関する条例(2016年以降に5県が制定または改正・全部改正)が制定されている(2023年3月31日時点・一般財団法人地方自治研究機構調べ)。都府県の人権尊重に関する条例のなかには、今日的な人権状況をふまえ「性の多様性」や「ヘイトスピーチ」「インターネット上の誹謗中傷」に係る条文を盛り込んでいる自治体もある。群馬県は人権尊重に関する条例はないが「群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」を制定しており、その意味では、じつに多様な条例制定のとりくみが展開されている。

 市町村段階でも人権の尊重・擁護等に関する条例または部落差別の撤廃・解消等に関する条例は、あわせて485市区町村で503条例が制定されている(2023年9月1日時点・一般財団法人地方自治研究機構調べ。同一の市町村で2条例を制定しているのが18市町村)。こうした地方レベルでの条例制定や、その具体化に向けたとりくみを着実に積み上げて、人権に係る法制度の整備を迫っていくことが大事である。

 そこで「全国部落調査」復刻版出版事件裁判闘争の成果である控訴審判決の内容などをふまえ、法制度を求めるための立法事実などを明らかにしていく闘いを、各地域でとりくんでいただくようお願いしたい。

 控訴審判決で東京高裁は、「我が国の封建社会で形成された身分差別により、経済的、社会的、文化的に不合理な扱いを受け、一定の地域(中略)の出身であることなどを理由に結婚や就職を含む様々な日常生活の場面において不利益な扱いを受けることである」と部落差別を定義づけた。個人の尊重や幸福追求権を定めた日本国憲法13条、法の下の平等を定めた同14条1項に言及したうえで「人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益である」とのべ、「差別されない人格的利益」を新たに認める判断をした。

 「差別されない人格的利益」が脅かされている現実を明らかにすること。その第1点は「部落差別解消推進法」をふまえ「部落差別に関する相談に的確に応ずる体制の整備(第4条)」を具体化した相談の充実・強化である。隣保館あるいは教育集会所に相談窓口を整備したり、識字活動やさまざまな居場所や集いの場など、地域住民のつぶやきから「差別の現実」が発見されるかもしれない。地方自治体レベルや地方法務局でとりくまれている人権相談体制のあり方を問う運動や当事者団体としてみずから相談活動にとりくむ等々。部落解放同盟は被差別部落を拠点とした大衆組織であり、その持ち味を活かしていこう。

 いずれにしても、被差別当事者がおかれた実態に依拠した運動が重要である。人権侵害を受けた人が気兼ねすることなく安心して相談することができる―地域の実情に応じた「部落差別に関する相談に応ずる体制の整備」の内容を創造していこう。

 第2点は、「インターネット上における部落差別の現実」にたいするとりくみを強めることである。東京高裁は「部落差別は本件地域の出身というだけで不当な扱い(差別)を受けるものであるから(中略)本件地域の出身等(中略)を推知させる情報の公表も、上記の人格的な利益を侵害する」と認定し「公表の禁止や削除、損害賠償といった法的救済を求めることができる」と判断。同時に、法的救済を求めるにも、事実として法律がないことも明らかだ。本紙3072号の「主張」で提起した、インターネット上の部落差別情報・差別扇動の差別性や問題点についての認識を共有化し、ネット上の部落差別の現実をねばり強く明らかにしていくとりくみをすすめていこう。

 控訴審判決が出された翌29日、和歌山県議会で「部落差別解消推進法」の改正を求める決議が採択された。「ネット上の部落差別の禁止」など、部落差別の禁止規定が必要だとして、政治の力による問題の解決と立法機関の責任で同法の改正をはかるべきであることが強調された。「差別されない人格的利益」の保障へ、当該行政との政策協議(交渉)や議会対策など多様な行政闘争を通じて法制度の充実・強化を迫る世論喚起も大事である。

 「ネット上の人権侵害を禁止する」などの新しい法律の整備を求めていくのか、あるいは既存の法律の強化・改正につなげていくのか。各地で創意工夫した多様な運動の展開を通じて、寄せられた立法事実などをふまえ、情勢等を見極めながらとりくむ所存である。ともに奮闘しよう。

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