「解放新聞」(2023.10.25-3080)
昨年8月29日、狭山事件再審弁護団は、11人の証人(鑑定人)尋問と裁判所によるインク鑑定の実施を求めて請求書を提出したが、検察側の不誠実な対応が続き、鑑定人尋問およびインクの鑑定実施は実現できないまま1年が過ぎた。この間、私たちは事実調べを求める緊急署名にとりくみ、その数は51万筆(5月末)に達したが、ひき続き署名活動を続け、東京高裁に鑑定人尋問・インク鑑定実施を迫ろう。来る10月31日には、東京・日比谷野外音楽堂で再審を求める市民集会を開催する(4㌻参照)。全力で集会に結集しよう。また、各地でひき続き鑑定人尋問とインク鑑定の実施を求める集会や学習会などにとりくもう。
狭山事件再審弁護団は昨年8月29日、満を持して事実取調請求書を東京高裁に提出した。事実取調請求書は、新証拠を作成した鑑定人の証人尋問と、万年筆インクに関する裁判所による鑑定の実施を求めるもので、具体的には、①脅迫状の筆跡・識字能力、②指紋の不存在、③足跡、④血液型、⑤スコップ、⑥目撃証言、⑦犯人の音声証言、⑧万年筆、⑨自白、⑩殺害方法、⑪死体処理、について鑑定書や意見書を作成した11人の科学者、専門家の証人尋問を求めた。11人の鑑定人は、コンピュータによる画像解析の科学者、人物識別供述に関する心理学者、死因や血液型についての専門的知見をもつ法医学者、科学捜査研究所の技官など、いずれもその分野の専門家である。裁判所は、これらの専門家の鑑定書について、直接本人に尋問をおこない、鑑定書や新証拠を正しく評価するべきである。
ところで弁護団は、このうちの万年筆のインクについては、裁判所が直接、蛍光X線分析をおこなうことができる客観的な第三者によって鑑定を実施するよう求めた。弁護団が提出したI鑑定は、被害者が当日書いたペン習字の浄書の文字インクと被害者の使っていたインク瓶からはクロム元素が検出されているが、石川さん宅の鴨居(かもい)から「発見」された万年筆を使って被害者の家族が書いた数字のインク文字からはクロム元素が検出されないことを科学的に明らかにしたものである。これは、石川さん有罪の決め手となっている鴨居の万年筆は、被害者が使っていた万年筆とはインクが違うことを科学的に立証したもので、事件を根底からひっくり返すきわめて重要な鑑定である。裁判所はこのインクの鑑定の重要性を認識して、直接鑑定をおこなうべきである。
予想されていたとはいえ検察側は、この鑑定人尋問・インク鑑定にたいして全面的に反対し、今年の2月から5月にかけて11人の鑑定人すべてに「証人尋問の必要はない」とする反対の意見書を提出してきた。筆跡、指紋、足跡、スコップ、目撃証言、音声証言、万年筆インク、万年筆発見経過、自白に関わる9人の鑑定人については今年2月28日、証人尋問の必要性はないと意見書を提出。また、焦点になっている万年筆インクの鑑定実施も必要ないと意見書を提出した。さらに3月15日には、血液型についても鑑定人の証人尋問の必要性はないとする意見書を提出した。検察の主張は、弁護団が提出している新証拠はいずれも新規性がなく、すでに弁護団がくり返し主張してきたものであるという内容であるが、証拠開示によって明らかになった事実をもとにおこなった鑑定の内容と科学性を無視した、まったく説得力のない主張である。検察官はその後、殺害方法・死体処理についても反対の意見書を提出した。
これにたいして弁護団は、6月にスコップについての意見書、鑑定請求補充書を提出したが、弁護団は今後、自白、血液型、識字能力、殺害方法などについて、鑑定人尋問の必要性を主張するとしている。
さらに弁護団は7月14日、焦点の万年筆インクの鑑定実施について、鑑定の必要性を内容とする鑑定請求補充書を提出した。補充書で弁護団は、インクの蛍光X線鑑定をおこなう鑑定人を推薦するとともに、使用可能な蛍光X線分析装置を具体的に提示し、あらためて裁判所によるインク資料の鑑定の実施を求めた。また、事件当日の被害者の学校の時間割なども示して、検察官が主張するような万年筆を洗って別インクを補充するという行為は合理的にあり得ないし、その必要性もないことを指摘し、鑑定の実施を必要ないとする検察官意見書に反論した。
部落解放同盟は狭山事件の確定判決となっている二審・東京高裁の寺尾判決から49年を迎える10月31日に日比谷野音で市民集会を開催する。全国から日比谷野音に結集しよう。また、ひき続き東京高裁に事実調べを求める署名にとりくもう。署名は5月末で51万筆を超え、6月7日、狭山事件の再審を求める市民の会が東京高裁第4刑事部に提出したが、今後、弁護団の検察官意見書にたいする反論の提出をふまえて、裁判所が事実調べ請求の採否について判断することになるので、さらに署名運動を強化しよう。また、大詰めを迎えた再審闘争を盛りあげるために、全国各地で支援団体と協力して、11人の鑑定人尋問およびインク鑑定の学習にとりくもう。
狭山事件は今年、事件が起きてちょうど60年を迎えた。事実調べ、再審開始、無罪判決を確信して闘いにのぞもう。
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