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狭山第3次再審でインク鑑定と鑑定人尋問を迫る署名と世論拡大にとりくもう

「解放新聞」(2023.11.25-3083)

 昨年8月の狭山事件再審弁護団の事実取調請求にたいして、検察官は今年2月、3月、5月に意見書を提出し、事実調べの必要はないと主張してきた。弁護団はこれらの検察官が提出した意見書の誤りを明らかにした新証拠と補充書4通を9月に提出した。提出したのは、血液型についてE鑑定人の意見書と補充書、筆跡・識字能力についてA鑑定人の意見書と補充書、自白についてJ鑑定人の意見書と補充書、殺害方法・死体処理についてK鑑定人の意見書と補充書である。

 長年、識字教育の研究・実践に関わってきたA鑑定人は、証拠開示された取調べ録音テープを分析し、当時の石川さんが、非識字者であり、脅迫状を書けたとは考えられないと鑑定した。今回の意見書では、検察官意見書に「請求人(石川さん)が拗音や長音を正確に理解しているとは認められないから、取り調べ警察官がこの点について請求人に教示することはあり得ることである」と書かれていることを指摘、検察官自身も、当時の石川さんが小学校1年生レベルの内容を習得していなかったことを認めていると指摘している。

 49年前、寺尾判決は、「被告人は教育程度が低く…漢字も余り知らないことがうかがえる」としながら、石川さんの自白調書を引用し、家にあった妹の漫画雑誌「りぼん」からふりがなを頼りに漢字を拾い出して脅迫状を書いたと認定した。弁護団は今回の補充書で、証拠開示された取調べ録音から、この有罪判決の認定が誤りであることが明らかだと指摘している。

 また、取調べ録音で、警察官は、脅迫状に出てくる字を「どういうふうにして習ったか」と質問しており、警察官も石川さんが自力で脅迫状を書けないとわかっていたと指摘している。

 脅迫状には「警察」を「刑札」と当て字で書かれており、石川さんの自白調書では、「刑事さんという様な字から刑という字を書き、お札という様な字が出ればこの刑と札を組み合わせて刑札という様に書いたのです」と説明されている。ところが、開示された取調べ録音では、石川さんは漫画本中に「…ケイサツで何とかなんて出てき」たと言い、警察官が「そのケイサツは違う字なんだ」「ああいう字じゃない」と訂正するやりとりが出てくる。そして、警察官が「あれは刑事さんの刑なんだ」と言っているのだ。

 取調べ録音で、石川さんは、自白調書にあるような「刑事の刑とお札の札を組み合わせて刑札と書いた」などと説明しておらず、札束を握った犯人を刑事が追いかけるというストーリーが漫画中にあったので、「刑事」の「刑」と「札束」の「札」を取って書いたという想定を警察官が言い出し、石川さんに押しつけていたのである。石川さんの自白調書は警察官の誘導で作られたもので、まったく信用性はない。そのような自白調書を根拠にして石川さんが脅迫状を書いたと認定した有罪判決が誤っていたことは、開示された取調べ録音で明らかだ。東京高裁は取調べ録音とそれを分析した鑑定人の証人尋問をおこなうべきだ。

 弁護団は10月にスコップ、タオルに関わる証拠開示請求について意見書を提出した。弁護団は、スコップが死体を埋めるのに使われたものとする根拠となった埼玉県警鑑識課員の土壌鑑定に信用性がないとする新証拠を提出し、これに関わって、この鑑識課員を検察官が2011年に検察庁で事情聴取したときの報告書類などの開示を求めた。しかし、検察官は開示請求に応じず、事情聴取の報告書類があるかないか答える必要がないと回答し、不誠実、不公正な対応に終始してきた。弁護団は今回の意見書で、事情聴取した際に作成された報告書や供述調書等の書類があるかないかをまず裁判所から検察官に釈明を求めるよう要求した。

 狭山事件では、死体を目隠ししたタオルを石川さんが入手可能だったとして有罪証拠の一つとされた。タオルの入手可能性について、石川さんがかつて働いていた製菓会社の警察が収集した資料の開示を求めたが、検察官は具体的には答えず「不見当」(見当たらない)というだけの回答をくり返してきた。

 今回、弁護団は、現在、再審請求中のいわゆるマルヨ無線事件で、裁判所の勧告で50点以上の証拠開示がなされ、そのなかに、かつて検察官が存在しないと回答していた関係者の取調べ録音テープがあった事実を指摘し、タオル関連の捜査資料について、検察官の不見当、不存在という回答にかかわらず、証拠開示勧告を発令するよう求めた。検察官は弁護団の証拠開示請求に誠実に応えるべきである。東京高裁の大野裁判長は検察官に釈明を求め、開示を命令すべきだ。

 弁護団は、10月26日に、東京高裁に鑑定請求補充書2を提出した。弁護団は、狭山事件で有罪判決を支える重要な証拠とされた万年筆について、第3次再審請求で、蛍光X線分析によるインクの元素を分析した鑑定を提出し、石川さんの家から発見された万年筆は被害者のものといえないことを科学的に明らかにした。被害者が事件当日に書いたペン習字のインクや使っていたインク瓶のインクからはクロム元素が検出されるが、発見万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されなかったのだ。弁護団は、発見万年筆で書いた数字のインク、被害者が事件当日の授業で書いたペン習字浄書の文字インク、被害者が使っていたインク瓶の残留インク(いずれも検察庁にある)について、第3者の専門家による蛍光X線分析鑑定を裁判所が職権で実施するよう求めている。

 これにたいして検察官は、被害者が万年筆にブルーブラックインクを補充したら、元のジェットブルーインクと混ざることで凝固して、クロムが検出されない可能性があるということを理由の一つとして、インクの鑑定は必要がないと主張し、その根拠として、違うインクを混合する実験をおこなったら凝固したという報告書を提出している。今回、弁護団は、検察官がおこなったという「実験」と同種のインクを使って再現してみたところ、インクの凝固はおきなかったという報告書を提出、凝固によってクロムが検出されないという検察官の主張に理由がないことを明らかにし、あらためて、発見万年筆が被害者の万年筆といえるかどうか客観的証拠にもとづいて判断するために、インク資料の鑑定の実施が必要であると主張した。東京高裁は、インク資料の鑑定を実施すべきだ。

 弁護団は、10月20日には、検察官が昨年7月に提出した意見書にたいする反論と事実調べの必要性について意見書を提出した。意見書では、証拠の新規性、自白の任意性、捜査の問題について、検察官意見書の誤りを明らかにするとともに、各鑑定人の尋問の必要性を明らかにし、事実調べを求めている。弁護団が提出した新証拠は各鑑定人の意見書など269点になった。

 11月2日の第57回三者協議では、弁護団から、この間提出した検察官にたいする反論の意見書と新証拠、鑑定請求補充書の主旨について説明し、あらためてインク資料の鑑定の実施を求めた。また、タオル、スコップについて証拠開示勧告の発令を強く求めた。

 検察官は、今回提出された弁護団の意見書について再反論を提出する予定であるとのべた。事実調べを実施するかどうかの裁判所の判断は、これらの意見を受けてからになる。次回の三者協議は2024年2月下旬におこなわれる予定だ。インク資料の鑑定、鑑定人の証人尋問の実現に向けて、さらに世論を大きくする必要があるといわねばならない。

 インク資料の鑑定の実施と鑑定人尋問を求める世論を広げ、署名運動を継続し、東京高裁に届けよう。東京高裁に事実調べを求める署名は10月末で52万筆を超えた。さらに、60万、70万、80万と署名を拡大しよう。

 再審請求での検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官抗告の禁止、裁判所の事実調べの規定を盛り込んだ「刑事訴訟法」等の改正(「再審法」改正)を国会に求めよう。国会請願署名にとりくもう。

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