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「部落探訪」削除裁判を支援し、鳥取ループの差別動画を残らず削除させよう

「解放新聞」(2024.01.15-3088)

 全国各地の被差別部落に潜入して写真や動画でそこが被差別部落であることをインターネット上でさらし続けている鳥取ループ(=示現舎)の「部落探訪」(現在は「人権探訪」に改称)にたいして大阪府連富田林支部の代表が昨年11月6日に削除を求めて大阪地裁に仮処分の申し立てをおこなった。また、昨年12月6日には、埼玉県連熊谷市協議会の支部長が、やはり「部落探訪」の削除を求めてさいたま地裁に提訴した。今年のはじめには新潟でも裁判が準備されているが、全国の同盟員は「部落探訪」削除裁判を支援し、差別を拡散する悪辣(あくらつ)な鳥取ループに鉄槌(てっつい)をくだそう。

 問題の「部落探訪」は2015年12月から鳥取ループが自身のウェブサイトに公表してきたもので、被差別部落の個人の住宅や表札、工場、商店、自動車のナンバープレート、姓名が入った墓地の墓誌銘などの画像を掲載してきた。またことさら放置車両や廃屋・投棄物などを撮影して「部落は怖い、環境が悪い」というイメージをかき立て、見る者の差別意識を惹起(じゃっき)してきた。「部落探訪」は、16年3月時点では4か所の公表だったものが、その後、昨年11月末時点では全国341か所に増えている。鳥取ループはこの間、ほぼ毎週のように全国各地の被差別部落に潜入して投稿を重ねている。

 削除を求める裁判では、さらされた地域の代表が原告になることが要求されるので、部落解放同盟中央本部は「全国部落調査」復刻版裁判の東京高裁判決(昨年6月28日)を待って、「部落探訪」削除裁判の原告を募った。しかし、裁判を起こせば、鳥取ループからのさらなるさらし行為や個人攻撃の対象となることが予想されるため、原告として立ちあがることにはかなりの勇気がいる。いくら「許せない」という気持ちがあったとしても、家族や親族、あるいは地域住民の理解と協力をなしに簡単に手をあげることができない。そういうなかで、大阪府連富田林支部の代表と埼玉県連熊谷市協の支部長が立ちあがってくれた。二人の決断に心から敬意を表したい。

 裁判についてみると、大阪は削除を求める仮処分の申し立てからはじめ、埼玉は本訴からはじめた。仮処分は、現時点で大変な被害が起きているので、それを仮の処分で早急に止めるという手続きで、比較的短時間のうちに裁判所の決定を出させる闘いとして有効な方法だ。大阪府連では、仮処分の決定が出たあと、さらにほかの地域からの原告参加をよびかけ、府連全体の闘いとしてすすめるとしている。

 いっぽう、埼玉の場合は、「部落探訪」が鳥取ループによって開始された初期の19年に掲載されてから、だいぶ時間がたっていることもあって、最初から権利侵害を訴えて裁判所に削除を請求する方針で臨んだ。また埼玉では、部落解放同盟県連も原告として最初から裁判に参加する方針で裁判に臨むことになった。これは、仮処分では部落解放同盟(団体)が原告として認められることは難しいが、本訴であれば団体であっても権利侵害が争えるという考えから判断したものである。ただ、団体の権利侵害を認めさせるのはハードルが高い。しかし、部落解放同盟という団体はそもそも支部員はもちろんのこと、被差別部落の住民の権利を守るために活動することを目的にした団体である。その団体がこのような露骨な人権侵害を前にして原告になれないというのはおかしい、という考え方から県連が原告に加わる方針を選んだ。

 ところで鳥取ループは、16年に被差別部落の全国地名リストである「全国部落調査」の復刻版を出版しようとたくらみ、中央本部は、東京地裁に出版の差し止めおよびインターネットからの削除を求めて裁判を起こした。その結果、21年9月27日に、東京地裁が「地名の公表は違法」という立場から出版の差し止めとネットからの削除を言い渡す判決を出し、昨年6月には、東京高裁も、出版の差し止めとインターネットからの削除を命令する判決を言い渡した。とくに高裁は、裁判で大きな争点になっていた「差別されない権利」を実質的に認め、被差別部落の地名公表は「不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益」を侵害するものだという画期的な判決を出した。東京高裁は「ウェブサイトへの掲載、書籍の出版、出版物への掲載、放送、映像化(いずれも一部を抽出しての掲載等を含む)等の一切の方法による公表をしてはならない」(主文)と判示したが、鳥取ループはまったくこれを無視し、新たに「部落探訪」を掲載し続けている。

 「部落探訪」にたいしては、各地で削除を求める動きも始まっている。22年11月30日には、動画投稿サイトYouTube(ユーチューブ)を運営するGoogle社が、鳥取ループがユーチューブに投稿していた「部落探訪」の約170の動画を「ヘイトスピーチなどから利用者を守るガイドラインに違反する」として一斉に削除した。しかし、鳥取ループは削除された動画を別のウェブサイトに投稿し、有料会員にたいして公開し続けており、この動画サイトのタイトルやサムネイル画像(*編集部注 動画の内容をあらわす縮小画像)は無料で閲覧できる状態になっている。

 また、新潟県や長野県、埼玉県など掲載された地元の自治体も削除に乗り出している。地元の首長が「市民がさらしものになっていることは、人権擁護上容認できない」として、みずから地元の法務局や法務局支局に出向いて削除要請をおこなう動きが広がっている。埼玉では13市で19か所の被差別部落が「部落探訪」に掲載されたが、そのうち狭山市、川越市、加須(かぞ)市、熊谷市など11市の首長がさいたま地方法務局や同支局・出張所に削除要請をおこなった。新潟でも13市町が「部落探訪」にさらされたが、上越市や新発田(しばた)市長などが新潟法務局などに削除要請をおこなっている。

 今回の「部落探訪」削除裁判の目的は4点ある。

 1点目は、被差別部落の掲載による差別の拡大助長を食い止めることだ。「部落探訪」では、被差別部落の地名だけではなく個人の名前や住宅、墓地、隣保館、教育集会所などが差別的な解説つきで掲載されている。これは文字通り被差別部落を見せ物にし、被差別部落への差別意識を喚起する行為そのものである。19年に法務省が「インターネット上の部落差別の実態に係る調査」をおこなっているが、その結果をみると相当数の人たちがこれらの地名リストや動画を見ている実態がわかる。いまも毎日多くの人が「部落探訪」をのぞいており、部落差別は日々拡散されている。したがってまずは何よりも、これを食い止めることが裁判の目的である。

 2点目は模倣犯を食い止めるためである。最近、鳥取ループの「部落探訪」の模倣犯があちこちであらわれるようになった。たとえば、奈良県や京都府の部落を集中的にさらすものが出てきている。現在、全国各地で市町村がモニタリングによる差別情報のチェックと削除要請をおこない一定の成果をあげているが、完全に削除することができず、いたちごっこのような形で対処しているのが実態である。この模倣犯にたいして、このような悪質な行為をすれば、裁判所から違法行為であるとの判決を受け、損害賠償金を支払わなければならないことを警告するのが2点目の狙いである。

 3点目は、東京高裁の判決や法務省の行政指導を守らせることである。昨年6月、東京高裁は鳥取ループの地名リスト公表は差別を助長する違法行為であるという判決を出した。判決は「一切の方法による公表をしてはならない」(主文)としたが、鳥取ループはまったくこれを無視し、いまもネットに被差別部落を掲載し続けている。これは裁判所の判決を無視する明らかな違法行為であり、法治国家にたいする挑戦だ。判決を守らないような人間を野放しにしてはならない。

 挑戦ということでいえば、東京法務局が16年に鳥取ループをよび出して「(差別)行為の不当性を強く認識して反省し、直ちに(出版・ネット掲載を)中止」しなさいという「説示」をおこなった。また18年には、法務省が「助長誘発目的に基づくものであるか否かにかかわらず、…人権擁護上許容しえない」とする依命通知を出したが、鳥取ループはこれらの説示や通知をまったく無視して違法行為を続けている。この違法行為をやめさせること、東京高裁の判決や説示、依命通知を順守させること、これが3点目の目的である。

 4点目は、差別禁止法をつくるためである。「全国部落調査」裁判では、東京地裁も高裁もネットからの削除を言い渡したが、部落差別を禁止する法律がないために、完全に差し止め、削除させることができずにいる。全国の市町村がモニタリングによる差別情報のチェックと削除要請をおこなっているが、モグラたたきのような形で対処しているのが実態である。ネットに溢(あふ)れるこれらの差別情報を全面的に削除するためには、どうしてもきちんと差別行為の禁止を謳(うた)った法律が必要である。現在、国も法整備に向けた議論をすすめており、昨年12月4日には、国会議員による超党派の「ネット社会におけるプライバシーの在り方を考える議員連盟」が発足したが、今後差別を禁止する法律をつくるうえで、今回の裁判の判決が重要な役割を果たすことになる。裁判の判決は、法律に何を書き込まなければならないのかを具体的に示す重要な内容になるのである。その意味でこの裁判は、差別を禁止する法律をつくるための闘いでもある。

 「部落探訪」削除を求める闘いがいよいよ開始された。今年のはじめには新潟県連が裁判を起こす予定になっているが、三つの裁判が出そろったところで、国会での裁判報告集会の開催や勉強会など、国会にたいし問題提起をおこなっていく予定だ。

 「全国部落調査」復刻版裁判は6年かかったが、この裁判はそれほどではないとはいえ、判決までには1、2年がかかると見込まれる。裁判には時間と手間と費用がかかる。裁判を起こす府県の負担も大きい。しかし、この裁判は被差別部落のネット掲載による差別の拡大助長を食い止め、また、部落差別を禁止する法律をつくるための闘いである。全国の同盟員は、この「部落探訪」削除裁判を支援しよう。大阪と埼玉、新潟で勇気をもって立ちあがってくれた原告を孤立させない闘いをすすめよう。

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