「解放新聞」(2024.01.25-3089)
少子化・人口減少がすすむなか、昨年1月、岸田政権は「異次元の少子化対策」を提唱し、具体的施策として▽児童手当など経済的支援の強化▽学童保育や病児保育、産後ケアなどのサービス拡充▽育児休業中の給付率や男性の育児休業取得率などをアップさせる働き方改革の推進、の3本柱を掲げた。
昨年6月には「こども未来戦略方針〜次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて〜」を閣議決定し、児童手当の所得制限の撤廃や支給期間の延長などが盛り込まれた。この方針の具体化がすすめられ、12月には「こども未来戦略〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜」を閣議決定し、「3つの基本理念」として、▽若い世代の所得を増やす▽社会全体の構造・意識を変える▽全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する、を掲げた。また、方針では明記されなかった保育士等の配置基準の改善について、76年ぶりに見直すことが明記された。実施時期は今年度から、4・5歳児について30対1から25対1への改善を図り、加算措置を設けるとし、あわせて最低基準の改正をおこなうとしているが、「経過措置として当分の間は従前の基準により運営することも妨げない」とされている。経過措置の期限が未定のため、その実効性には疑問が残る。さらに、1歳児の配置基準については、2025年度以降の早期に6対1から5対1へと改善をすすめることとしているが、この実施時期についてもあいまいな記載となっており課題が残る。1948年に「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」で最低基準が定められてから、一度も改善されなかった配置基準が改善されたことは前進といえるが、海外と比べてもまだその差は大きく、子どものいのちと権利を保障するためには、今後もさらに配置基準の改善を求めていかなければならない。
さまざまな課題が指摘されるなか「こども誰でも通園制度」の本格実施に先がけ、今年度は全国各地の31自治体(50施設)でモデル事業がすすめられている。来年度には150程度の自治体で試験的に導入し、2025年度に「子ども・子育て支援法」にもとづく地域子ども・子育て支援事業として制度化し、2026年度には全国すべての自治体での実施をめざすとしている。利用者、自治体、施設間で利用できるシステムの構築等の補正予算が計上されるなど、急ピッチですすめられている。
保護者の育児負担の軽減や孤立感の解消など、保護者や子どもにとってのメリットが語られているが、「子どもの権利条約」の求める子どもの最善の利益を制度として担保する公的責任の視点や、子どものいのちを守るための基準や条件面の問題、保育士にたいする環境改善などが後回しにされている。圧倒的な保育者不足の現状の早急な改善に向け、さらなる処遇改善や配置基準の改善、働き方の見直し、中・長期的な人材の育成が不可欠だ。
また、「こども家庭庁」は、「こども政策」の少子化対策の財源確保のために企業や幅広い世代の国民から集める支援金について、医療保険を通じて徴収する「支援金制度」を創設し、児童手当や育児休業給付の拡充などの財源に限定することを示した。社会保障の歳出改革で保険料率を抑えるとともに賃上げによって「実質的な負担を生じさせない」とし、2026年度からの徴収開始に向け、今後の国会で関連法案の提出を予定している。増額を続ける防衛費にたいし、「こども政策」については見通しが定かではない賃上げ頼みの徴収制度では、安定財源とはいえない。子どもの権利の実現のための施策を具体的、効果的に実施するための財政確保が不可欠であり、財政全体の見直しなど幅広い財源確保が必要だ。
さらに、「こども大綱」「こどもの居場所づくりに関する指針」や「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」が昨年12月に閣議決定された。「こども基本法」にもとづき、今後5年間の「こども政策」の方向性や目標を定めた「こども大綱」は、「少子化対策大綱」「子供・若者育成支援大綱」「子供の貧困対策に関する大綱」をひとつにまとめ、策定された。こども・若者を権利の主体として認識すること、こどもや若者、子育て当事者のライフステージに応じて切れ目なく対応すること、など6本柱の基本的な方針と、すべてのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸せな状態で生活を送ることができる「こどもまんなか社会」の実現に向け、12項目で数値目標が設定されるなど、日本の「こども政策」は大きな転換期を迎えている。
昨年4月時点で待機児童数は2680人と前年より減少したと発表されたが、希望に沿った形で保育を受けられていない「隠れ待機児童」が6〜8万人もいる。こうした「隠れ待機児童」問題や認可外保育施設への対応をはじめ、民族学校をはじめ各種学校である外国人学校の幼児教育・保育施設が無償化の対象外となっている問題など、課題が山積するなか、さまざまな保育制度・施策の動向を把握するとともに、今後の保育がどうあるべきか議論し、よりよい保育制度・施策の充実を求めていく必要がある。
わたしたちのとりくむ人権保育は、子どもたちの教育保障を0歳から就学前まで、24時間保育の視点に立って保護者や地域とともに、保護者集団の組織化と就労保障、そして、保育を必要とする子どもたちの入所を保障する皆保育の原則を位置づけてきた。子育てをとり巻く環境などが時代とともに変化しているにもかかわらず、国の施策は後手にまわっている。変化する生活スタイルや働き方、社会的状況や環境などをふまえるとともに、これまで積みあげてきた皆保育の原則を、いまこそ日本の保育制度にしっかりと位置づけていかなければならない。また、保護者集団の組織化が困難な状況も散見しており、これまでの保護者組織のあり方にとらわれず、地域の家族形態の現状、保護者の就労状況などに応じた組織化にとりくむとともに、保護者との連携を強化し、社会全体・地域全体で子どもを育てる環境づくりをすすめていかなければならない。
今日、世界各地での紛争や内乱によって多くの女性や子どもが犠牲になっている。また、地震や豪雨、火山噴火といった自然災害が頻発し、多くの命が犠牲になるなど人権と平和、いのちと生活が脅かされている。このようななか、今月27、28日の2日間、第44回全国人権保育研究集会を奈良県奈良市で開催する。全体会では、NPO法人国際臨床保育研究所の勝山結夢さんから「これからの保育の話をしよう〜故ジェフ・フォン・カルク博士が伝えたかったこと〜」と題した記念講演を予定している。ジェフ・フォン・カルク博士は、旧オランダ王立教育評価機構の幼児教育部門プログラムリーダーとして、子どもの遊びの観察、思考や言葉、保育環境の研究にとりくみ、1994年にピラミーデ(ピラミッドメソッド)幼児教育法を確立した。博士が伝えたかった、この変化の時代だからこそ忘れてはいけない大切な保育について参加者で共有し、これからの保育をより豊かなものへとつなげよう。2日目は、七つの会場にわかれ、各テーマに沿った各地の実践報告をおこなう。
「こども政策」、保育政策の転換期のいま、子どもの最善の利益を考え、すべての子どもの生きる権利とその成長を保障する解放保育・人権保育運動の原点をふまえ、全国各地の実践に学び、議論と交流を深め、解放保育・人権保育運動のさらなる深化と創造をすすめよう。さらに、家庭、地域、保育所や幼稚園・こども園、子育て支援センター、小・中学校との連携をすすめ、すべての子どもの育ちを豊かに支えていく子育て運動の輪を拡げ、解放保育・人権保育運動を大きく前進させよう。
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