「解放新聞」(2024.02.25-3093)
部落解放同盟第81回全国大会を24年3月1日から2日間、東京でひらく。22年3月3日の全国水平社創立100周年記念集会で明らかにした①「人権の法制度」の確立をめざす②部落差別と結びついた「社会的格差」と「社会的排除」にたいする徹底した闘いを挑む③地球温暖化、自然災害、環境破壊、戦争、核兵器、原発など「地球的規模の人類的危機」に立ち向かう④国内外の被差別マイノリティと勤労諸階層との連帯と協働を促進し、部落解放同盟をひらかれた「未来志向の組織」に改革する―という四つの決意を具体化する運動の創造と展開へ、各都府県連から選出された代議員の活発な討議をお願いする。
まず、「全国水平社創立宣言(以下「宣言」)」の内容に関して23年6月にとりまとめた「全国水平社創立宣言の歴史認識に関する中央本部見解(案)(以下「中央本部見解」)」にたいして、各都府県連・地区協議会・支部などで組織討議をおこなっていただいたことに感謝する。
今大会では組織討議での意見などを反映し、あらためて「部落解放同盟見解(案)」として提案する。なかでも「中央本部見解」で、第1に、人間にたいする尊敬を基本とした集団的な部落解放運動の展開。第2に、部落民としての社会的自覚と誇りを強調。厳しい部落差別のなかを果敢に生き抜いてきた部落の先人たちにたいする敬意を表したこと―この2点を「宣言」が表現した理念としたが、「部落解放同盟見解(案)」では新たに、部落差別の撤廃を通じて当時における多様な差別をも撤廃する決意を表明、すべての人間が光り輝く人格的存在として尊重されることによって、人類最高の世界を実現していこうとする、一切の差別を撤廃する未来を展望する―ということを三つ目の理念として補強した。「宣言」が表現した三つの理念を確認し、それを具現化する運動を着実に積みあげていこう。
いっさいの差別を撤廃するため、包括的な人権の法制度確立をめざすことを運動の幹としたい。反差別国際運動(IMADR)は国連の承認を得て「包括的反差別法制定のための実践ガイド」を翻訳・発行、ワークショップや院内集会を開催するなど、国内人権機関の設置や包括的な反差別法制定の必要性をアピールする活動を国内外で展開している。IMADRとしっかりと連携し、部落解放同盟としても運動を強化したい。
全国各地で「部落差別解消条例」「人権条例」の制定や改正などの動きが広がっている。「部落差別解消推進法」制定をふまえて、地方で条例というかたちで具体化する施策を求めることが、「部落差別解消推進法」の強化・改正への大きな力となる。なかでも今日的な部落差別の典型でもあり、いまだ野放し状態となっているインターネット上の部落差別をなくすための抜本的な対策などの強化である。23年6月に東京高裁判決が「差別されない権利」を認めたことを最大限活かした運動をすすめよう。
総務省は今年2月「プラットフォームサービスに関する研究会・第三次とりまとめ」を公表した。インターネット上の誹謗中傷などの有害・違法情報への対策などの強化へ、海外事業者も含めて迅速かつ適切に削除をおこなうことを責務とするため「プロバイダ責任制限法(以下「プロ責法」)の一部を改正する法律案」が今国会に提出予定である。SNSなどを悪用した誹謗中傷・人権侵害などにより人の命までをも奪う暴力をなくす運動ともつながりながら、「識別情報の摘示」の即時削除をはじめネット上の部落差別の撤廃へ、今回の「プロ責法」改正と連動して「部落差別解消推進法」の強化・改正を積極的に働きかけていきたい。
「プロ責法」の改正法案が成立し、プロバイダ事業者の自主的なとりくみが強化されたとしても、懸案課題は大きく二つある。差別扇動や人権侵害などをくり返すなど悪意ある者にたいする罰則などの強化と被害を受けた当事者への救済支援である。私たち部落民をはじめ社会的弱者がネット上で被害にあっても削除申請などの救済・支援には様々な課題が横たわっている。ネット上の人権侵害にたいする対策の強化と充実へ、インターネットリテラシー問題などの課題と、支援を必要としている被害者にたいするていねいな相談と救済支援の充実・強化など、各地域での闘いを強めよう。
「全国部落調査」復刻版出版事件の上告審の闘いと連動する「部落探訪」削除裁判の闘いは、人格権保障の充実と前述した「悪意ある者等に対する罰則等の強化」を求める闘いでもある。22年11月、YouTubeが「示現舎」の動画チャンネルから「部落探訪」や関連動画約200本を削除した。鳥取ループ・示現舎は「人権探訪」などと名称を変え、「JINKEN.TV」として有料配信し、全国の被差別部落の地名や人名をさらし続けている。直接インターネット上で部落差別等を扇動したり、助長したりするコンテンツ対策の強化へ、昨年秋に設立された「ネット社会におけるプライバシーの在り方を考える議員連盟」などに働きかけ、インターネット上の差別情報の削除、被害者の救済や差別を包括的に禁止していく法制度を求めよう。
就職差別撤廃の闘いの発展から公正な採用選考のとりくみが普及してきたが、インターネットの普及にともないそのあり方を問い直す時機が到来している。日本労働組合総連合会(連合)が23年春に実施した「就職差別」に関する調査結果で「戸籍謄本(抄本)の提出」が30・8%など、場合によっては「職業安定法」違反となる回答や、「SNS調査」が横行している実態も明らかになった。一部メディアで「SNS調査」を通じて身元調査もおこなわれていると報道された。「識別情報の摘示」がネット上で流布・暴露されているなか、差別選考がおこなわれていることがおおいに懸念される由々しき事態である。中央本部は各都府県連合会と連携をとって「SNS調査」の真相糾明に全力をあげてとりくむ所存である。今日的な公正な採用選考のあり方について世に問う運動へとつなげていきたい。
狭山事件再審弁護団が22年8月、東京高裁にたいし、11人の鑑定人の証人尋問と裁判所によるインク資料鑑定の実施を求めて事実取調請求書を提出した。しかし採否がでないまま1年半が経過し、検察側の不当な反論提出により第3次再審の闘いはまさに正念場だ。石川一雄さんの無実を訴え、裁判所に事実調べを求める署名は52万筆を超えており、えん罪被害者を救済する「再審法」の早期改正を求める運動とも連動させ、再審開始の突破口となる事実調べの一刻も早い実現にとりくんでいこう。狭山弁護団事務局長の故・中北龍太郎・弁護士の遺志を継ぎ、再審実現をかちとろう。
能登半島地震で犠牲になった方々に哀悼の意を表するとともに、被災した方々にお見舞いを申しあげる。現在、各都府県連合会を通じて「救援カンパ活動」への協力を要請しているところである。救援活動に参加するNPO関係者によると、過疎・孤立化集落、超高齢化で活力ある階層が不足している。役場や社会福祉協議会の公的機関のスタッフもまた被災し、活用できる社会資源が枯渇しており「長期的な支援が必要」だという。被災地には少数点在の部落も少なくない。災害という「有事」にマイノリティなど弱者に様々な社会矛盾のしわ寄せが集中して現れるものである。前述の決意で示した「社会的格差」と「社会的排除」にたいする徹底した闘い、連帯と協働による未来志向の組織への改革をめざし、能登半島地震の被災者支援にとりくもう。支援などの活動を通して得た知見を集約し、各部落での防災・減災に向けたとりくみ、いのちと暮らしを守る人権のまちづくり運動に還元するとりくみへとつなげていくものである。部落解放運動のさらなる飛躍と発展へ、代議員による活発な討議で全国大会を成功させよう。
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