「解放新聞」(2024.05.15-3101)
第59回三者協議が4月19日に東京高裁でひらかれ、狭山事件再審弁護団によるプレゼンテーションがおこなわれた。法廷を使ってパソコンで図や写真もモニターに表示しながら、狭山事件の第3次再審請求における弁護団の主張全体についての説明を裁判官にたいしておこなった。東京高裁第4刑事部の家令和典・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは8人の弁護士が出席した。
弁護団は、第3次再審請求で、これまでに269点の新証拠を提出し、有罪判決の誤りを明らかにして再審開始を求めてきた。2022年8月に事実取調請求書を提出し、鑑定人11人の証人尋問と万年筆インク資料の職権による鑑定の実施を求めた。
それにたいして検察官は、2022年7月、2023年2月、3月、5月、今年2月に意見書を提出し、弁護団の新証拠のすべてについて、再審開始の理由となる新証拠といえないとして、事実調べもすべて必要ないと主張してきた。
弁護団は、これら検察官意見書の誤りを明らかにする新証拠と意見書を提出し、事実調べ(鑑定人尋問とインク資料の鑑定)を求めてきた。
今回のプレゼンテーションでは、まず、狭山事件の有罪判決が、どのような証拠によって石川一雄さんを犯人としたのか、いわゆる有罪判決の証拠の構造を示したうえで、脅迫状、足跡、血液型、手拭い、スコップ、目撃証言、音声証言、鞄、万年筆、腕時計を含む五つの「秘密の暴露」、殺害方法、死体処理(死体運搬、逆さづり)、自白の変遷、「刑事訴訟法」435条2号にもとづく再審理由(警察官の偽証が明らかになったこと)など論点ごとに、どのような新証拠を提出してきたか、証拠開示された取調べ録音テープなどの証拠資料によって、いかに有罪判決の誤りと石川さんの無実が明らかになったかを説明した。さらに、検察官が反論としてどういう主張をし、それにたいして、弁護団が再反論した内容を家令裁判長ら裁判官に説明した。昨年12月に新たに就任した家令裁判長に、これまでの弁護団の主張をまとめて説明したことは重要だ。
次回の三者協議は6月中旬におこなわれる。弁護団は、検察官が2月に提出した意見書の誤りを明らかにする新証拠、意見書を次回協議までに提出することにしている。今後、双方の意見書、主張をふまえて家令裁判長が事実調べの採否、再審の可否を判断する。弁護団は、2月に提出した意見書で、証人尋問について具体的に協議を求めている。事実調べ・再審開始実現に向けて、重要な局面といわなければならない。東京高裁に事実調べの実施を求める世論を最大限に大きくしていく必要がある。ひき続き、事実調べを求める署名運動をすすめよう。これまで52万筆を超える署名が提出されているが、さらに60万、70万と署名を拡大し東京高裁へ届けよう。
狭山事件が発生し、石川さんがえん罪におとしいれられて61年を迎える。石川さんは61年も無実を叫び続け、生きてえん罪を晴らすと訴えている。第3次再審の闘いに勝利し、石川さんにかけられた「みえない手錠」をはずすまで、わたしたち一人ひとりが原点に返って支援のとりくみを全力ですすめたい。
61年前にえん罪をつくり出したものは何か。身代金をとりに現れた犯人を40人もの警察官を張り込ませながらとり逃がし、世論の大きな非難をあびて、捜査にあせった警察は、住民の差別意識を背景に、市内の被差別部落に見込み捜査をおこない、石川さんに的をしぼり、別件逮捕した。別件逮捕・再逮捕によって長期にわたって身柄を拘束し、取り調べ、弁護士との接見を禁止して、自白を強要した。石川さんは「字が書けないから脅迫状は書いていない」と訴え、警察官も字が書けないことをわかっていながら、石川さんにウソの自白を強要していったのだ。犯人ではない石川さんが犯行ストーリーを語れないため、警察官らは誘導して自白させた。こうして自白が有罪の根拠とされ、一審では死刑判決が出された。
筆跡や足跡などの鑑定が警察によってつくられ、自白どおりに被害者の万年筆が石川さん宅から「発見」され、二審では無期懲役の判決が出されて刑が確定した。
第3次再審請求では、61年前にえん罪がつくられていった真相が、証拠開示された資料や新たな科学的鑑定で明らかになった。第3次再審で証拠開示された取調べ録音テープによって、虚偽自白がつくられていったこと、石川さんが非識字者であり、脅迫状を書けたとは考えられないことが暴かれた。
有罪証拠の主軸とされた筆跡や、足跡、スコップの土、血液型や殺害方法などの警察による鑑定がずさんで誤った鑑定であったこと、万年筆が被害者のものといえないことが、専門家による最新科学を活用した鑑定によって明らかになっている。裁判所はこれら専門家鑑定人の証人尋問やインク資料の鑑定をするべきだ。
わたしたちは、第3次再審で弁護団が提出した新証拠の学習・教宣を強化し、61年前にえん罪がどのようにつくられたか、第3次再審での証拠開示と科学的な新証拠によって、えん罪の真相が明らかになっていることを、あらためて確認したい。
石川さんが不当逮捕された5月23日には、東京・日比谷野外音楽堂で、市民集会が開催される。各都府県、団体代表による東京高裁への要請行動もおこなわれる。全国から幅広い参加をよびかけたい。また、各地で事実調べ・再審開始を求める世論の拡大に向けたとりくみをすすめてほしい。さまざまな場で61年も無実を叫ぶ石川一雄さん、えん罪・狭山事件をアピールしよう。パネル展や街頭宣伝にとりくみ、事実調べを求める世論を広げ、署名活動にとりくもう。
石川さんの再審無罪を一日も早く実現するために、「再審法」(「刑訴法」等)の改正も急務の課題だ。「再審法」改正は、現在の再審制度の不備を改正し、えん罪被害者のすみやかな救済のために再審の手続きを公正・公平なものにするものだ。具体的には、再審請求において検察官手持ち証拠の開示を義務化すること、裁判所が再審開始決定を出した場合に、それにたいして検察官は不服申し立てできないようにする(再審開始決定にたいする抗告の禁止)、裁判所による事実調べ、再審請求人の拡大などの規定を法改正で設けるというものだ。人質司法や密室の取り調べなど、えん罪をつくり出す警察の捜査における問題とともに、誤った裁判からえん罪被害者を救済する再審制度は、世界的にみても日本は遅れていることがくり返し指摘されてきた。えん罪の当事者はみずからの経験にもとづいて司法制度の不備、問題を指摘し、代用監獄(警察留置場での取り調べ)の廃止、人質司法の廃止、取り調べの可視化と「再審法」改正を訴えてきた。
日本弁護士連合会は、えん罪防止のための司法改革にとりくむとともに、昨年2月には、具体的な「再審法」改正案を示した意見書を公表し、国会での議論、法改正を求めてきた。袴田事件の再審開始が事件発生から57年かかって、ようやく確定したが、検察官が再審開始決定に抗告したために9年も遅れたことが問題となった。狭山事件でも、弁護団は有罪証拠とされたスコップやタオルに関わる証拠開示をずっと求めているが、検察官は「あるかないかも答える必要はない」といった不当な対応に終始している。再審開始決定が出されても検察官が抗告すれば、無罪実現までさらに何年もかかることになる。石川さんは現在85歳だ。「再審法」改正は狭山事件にとっても喫緊の課題である。
今年3月には、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が超党派で結成された。各党の代表らがよびかけ人となり、4月時点で参加する国会議員は210人で半数以上が与党議員という。「再審法」改正実現に向けた大きな動きだ。「再審法」改正の実現に向けて、地元国会議員への働きかけや地方議会での意見書採択、国会請願署名にあわせてとりくもう。
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