「解放新聞」(2024.05.25-3102)
厚生労働省が発表した2023年度平均の有効求人倍率は1・29倍で、前年より0・02ポイント低下した。22年度の月平均では、有効求人数は247万人で前年度より1・6%減少、有効求職者数は192万人で0・1%増となったものの、厳しい状況が続いている。
総務省が発表した23年度平均の完全失業率は2・6%、完全失業者数は178万人で、いずれも前年度と同率となった。23年度平均の就業者数は6756万人と前年より28万人増加となった。雇用形態を見ると、正規職員・従業員数は23年度平均で3622万人と前年より25万人の増加、非正規の職員・従業員は2131万人と19万人増加となった。役員を除く雇用者に占める非正規職員・従業員の割合は37・0%と0・1%上昇となった。
こうした厳しい雇用情勢のなか、厚労省のとりまとめでは、求職者の個人情報の取り扱いを定める「職業安定法5条の5」に違反となる面接時の不適切な質問や不適切な項目を含む社用紙等の提出を求めるなどの「差別につながる恐れのある事象」は22年度には全国で802件の事業所が報告されている。
いっぽう、新規大卒求人倍率は求職者の「売り手市場」となっている。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、24年卒が1・71倍、25年卒で1・75倍と上昇傾向だ。リクルートワークス研究所のデータで大卒求人倍率の推移をみると、リーマンショックや東日本大震災の影響を受けた11∼14年卒で1・2倍台、15年卒で1・61倍と回復傾向となり、16∼18年卒で1・7倍台、19・20年卒では1・8倍となっていた。その翌年、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた21∼23年卒は1・5倍台に落ち込んでいた。
こうした売り手市場のなか、「就活ハラスメント」問題が多数報じられている。「就活ハラスメント」とは、就職活動中やインターンシップの学生などにたいするセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどのことで、立場の弱い学生たちの尊厳や人格を不当に傷つけるなどの人権に関わる問題だ。とくに「オワハラ」(事業主が求職者にたいして、内定や内々定を出すかわりに他社の就活を終えるよう強要する)は、憲法22条第1項の職業選択の自由を侵しているといわざるを得ない。具体的には、「ほかの事業主の選考や内々定を辞退すれば内々定を出す」「ほかの事業所の選考に参加できないよう何度も選考をくり返す」「採用担当者の目の前で辞退の連絡をするように迫る」「内定辞退者に内定者研修の費用を請求する」など、事業主が早期に人材を確保したいとはいえ、行き過ぎた行為であり看過することはできない。こうした問題にたいして厚労省、文科省は啓発・指導を強めているが、把握しているのは氷山の一角であり、さらにとりくみを求めていく必要がある。また、採用選考のさいに求職者のSNSの裏アカウント調査をおこなう事業所が増加している。SNSの裏アカウント調査では、公正な採用選考をおこなうための、収集してはいけない個人情報を意図せずにでも収集してしまうため、周知啓発の強化を求めるとともに、ガイドラインなどの制定を求めていかなければならない。さらに採用選考の実態を把握するために、国・地方自治体にたいして就職差別に関する調査をおこなうよう求めていくことが重要だ。
「全国高等学校統一用紙」や履歴書、エントリーシートなど応募用紙についてのとりくみも重要だ。「統一応募用紙」は、部落解放同盟の就職差別反対の闘いのなかからおこり、共鳴する教師などの奮闘もあり、1970年に近畿や広島で実現し、73年に全国化したものだ。それ以降、新規高卒者の就職応募書類は「全国高等学校統一用紙」、新規中卒者は「職業相談票(乙)」を使うよう厚生労働省・文部科学省を中心に指導されるようになった。またその後、大卒者についても応募用紙の「参考例」が示され、「統一応募用紙」と同様の趣旨の徹底がはかられている。これらのとりくみは、部落差別はもとより、家庭環境・資産や家族関係、親の職業、思想信条にたいする差別など、さまざまな差別に結びつく個人情報の収集を許さないとりくみとして前進してきた。そして99年の「職安法」改正では「求職者の個人情報の取り扱い」が明記され、労働大臣指針が定められ、法的裏づけができた。
しかし課題は山積している。20年7月、セクシャルマイノリティ当事者を支援する団体から、厚生労働省や日本規格協会(JIS)などにたいして性別欄の削除など履歴書様式の検討を求める要請がおこなわれ、日本規格協会が示していたJIS規格の履歴書の様式例を削除した。これを受け、厚生労働省は公正採用選考をすすめるうえで参考となる履歴書様式を定めて公表し使用を推奨している。しかし、削除されるべき性別欄は選択式から記述式に変更されたにすぎず、カミングアウトの強要など問題が残っている。さらにこの変更後の様式例にならった、「統一応募用紙」の変更が厚労省、文科省、全国校長会で議論されており、注視が必要だ。日本も加盟しているILO(国際労働機関)の111号条約「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」の批准を目標に据え、「統一応募用紙」の改訂を求めていく必要がある。
就職差別をなくすために労働組合の役割も大きい。企業や事業所の内部からチェックするとりくみも大切だ。また、労働者の権利を守り、差別や人権侵害のない職場をつくるためにも、採用という雇用関係の入口で、差別を許さないことが重要だ。
部落解放中央共闘と全国共闘は、毎年6月を就職差別撤廃月間と位置づけ、リーフレットを作成し啓発活動にとりくみ、職場での点検活動をよびかけている。また、各府県共闘会議では、労働局や府県行政・教育委員会などにとりくみ強化を申し入れている。
また、連合は昨年「就職差別に関する調査」を実施、最近3年以内に採用試験を受けた人を対象とした調査で、応募書類やエントリーシートで「本籍地や出生地」の記入を求められたとの回答が43・6%にもおよんだ。ここでも課題山積を再認識させられる実態が明らかになっている。こうしたとりくみをとおして、各地で共闘会議や連合との連携を深め、就職差別撤廃のとりくみを強化していこう。
就職差別撤廃とともに、安定した雇用を促進していくとりくみも重要だ。地域での生活相談とあわせて職業相談活動を充実させる必要がある。「生活困窮者自立支援法」にもとづく「自立相談支援事業」を活用し、就職困難者の自立を支援していくことや、「ハローワークの求人情報のオンライン提供」を活用し、隣保館などでの職業相談活動を充実させていくことも大切だ。また、ハローワークなどとの情報共有を強化し、困窮者が有用な情報や施策を積極的に使えるよう求めよう。また、「部落差別解消推進法」の具体化として、隣保館がない地域でもハローワークや自治体などと連携を密にし、隣保館活動の実施と充実を求めていくとりくみを強めていこう。
安倍政権による労働法制は、不安定雇用を増長させ、格差拡大と貧困化をすすめた。厚生労働省が昨年「国民生活基礎調査」をもとに相対的貧困率を公表した。OECD(経済協力開発機構)が公表している各国の貧困率と比較すると、日本はG7(主要7か国)のなかで、もっとも高い結果となった。今日、6・5人に1人、ひとり親世帯の半数近くが貧困に苦しんでいる。不安定かつ低賃金の労働者が増え続ける現状も方向転換させなければならない。
そのために、戦争をする国づくりをすすめ私たちの生活を圧迫する、岸田政権からの脱却に全力でとりくもう。
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