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狭山事件の事実調べを求める世論をいっそう大きく拡大しよう

「解放新聞」(2024.06.25-3105)

 今年2月、東京高検の検察官はすべての論点について、狭山事件再審弁護団が提出した新証拠は再審開始の理由にならないとしたうえで、弁護団が求めている11人の鑑定人の証人尋問、および万年筆インク資料の鑑定請求について、すべて必要ないとする意見書を提出した。狭山弁護団は、5月、6月に、この検察官意見書の誤りを明らかにする新証拠と再審請求補充書を提出した。第3次再審請求で提出された新証拠は273点になった。

 弁護団は、第3次再審請求で、B鑑定人によるコンピュータをもちいた筆跡鑑定を提出した。この鑑定方法は、筆跡を重ね合わせてズレ量を計測して、その統計的分布を見れば、同じ人が書いたものか別人が書いたものかの判定(筆者異同識別)ができることを、多数の筆跡データから実証的に確認し、確立された手法である。B鑑定は、石川一雄さんが書いた上申書2通および手紙と脅迫状に出てくる「い、た、て、と」の4文字について、この手法で鑑定をおこない、99・9%の精度で別人の筆跡という結果が出たというものだ。脅迫状は石川さんが書いたものではないことが客観的に明らかになったのである。

 このB鑑定にたいして検察官は、鑑定で使われた筆跡データベース(B鑑定人の研究室で収集された筆跡サンプル)は「限定的なデータベース」であり、それにもとづいた鑑定手法は妥当ではないと批判し、B鑑定を否定してきた。今回、B鑑定人は、第2次再審請求で検察官が提出した科学警察研究所技官の筆跡鑑定で使われた筆跡のデータベース(多数の筆跡サンプル)を使って、B鑑定と同じ方法で筆者異同識別をおこなったところ、99・9%の精度で、同じ人の筆跡か別人の書いたものか識別できることを確認したのである。警察庁の科警研が集めた筆跡のデータベースにもとづいても、B鑑定人のコンピュータによる筆者異同識別の鑑定手法、鑑定結果が正しいことが示された。

 弁護団は今回、「限定的なデータベース」にもとづくB鑑定は信用できないとする検察官意見書の誤りを明らかにした、このB鑑定人の報告書と補充書を提出した。裁判所は、B鑑定人の証人尋問をおこない、有罪判決の誤りを認め再審を開始すべきだ。

 弁護団は、2022年8月に提出した事実取調請求書でインク資料の鑑定請求をおこなった。

 狭山事件では、石川さんの家から自白どおり被害者の万年筆が発見されたとして有罪の証拠となったが、証拠開示によって、この「発見」万年筆が被害者の万年筆といえるのかどうか、重大な疑問が生じた。有罪判決後、被害者が事件当日に学校で書いたペン習字浄書が証拠開示され、さらに第3次再審請求で、2013年に被害者が使っていたインク瓶、16年には、「発見」万年筆をもちいて被害者の兄が検事の前で事件当時書いた「数字」(を記載した紙片)が証拠開示された。弁護団が、これらのインク資料について蛍光X線分析をおこなったところ、被害者が使っていたインク瓶のインクやペン習字の文字インクからはクロム元素が検出されたが、「発見」万年筆で書いた「数字」のインクからはクロム元素が検出されなかったのである。石川さんの家から発見された万年筆のインクは被害者が使っていたインクと異なるということになり、発見万年筆が被害者のものだとする有罪判決に根本的な合理的疑いが生じたと弁護団は主張している。

 検察官は、この弁護側鑑定について、装置の問題など本質的でない批判をしてきた。弁護団は検察官に反論するとともに、裁判所が選定する別の専門家によるインク資料の鑑定を実施するよう裁判所に求めた。

 これにたいして検察官は、みずからインクの検査をおこなおうともせず、弁護団の鑑定請求にたいして鑑定の必要がないとする意見書を提出してきたのである。

 その理由として、別のインクを補充して混合した場合、インクが凝固して、「発見」万年筆で書いた「数字」のインクからクロム元素が検出されない可能性があるなどと主張している。弁護団は、この主張には何の客観的、科学的根拠もないと反論するとともに、元科捜研技官による検査報告書と意見書を鑑定請求補充書3とあわせて今回提出した。この検査報告書は、被害者が使っていたパイロット社のジェットブルーインクとブルーブラックインクを混合しても、検察官のいうように凝固せず、そのインクで「数字」が書けて、その「数字」からクロム元素が検出されることを、実験をおこなって専門的に確認したものだ。検察官意見書の誤りは明らかだ。

 弁護団はすでに、具体的に推薦する専門家と装置を示して鑑定の実施を求めている。「発見」万年筆で書いた「数字」も被害者が書いたペン習字浄書もインク瓶も検察庁にあり、インクの元素を分析する科学的な方法がある。証拠の万年筆が被害者のものということに疑問がないのかどうかを、科学的に確かめることができるのだ。裁判所はインクの鑑定を実施すべきである。

 有罪判決が証拠の一つとしたスコップについて、死体を埋めるために使われたものとも、石川さんがかつて働いていた養豚場のものともいえないことを科学的に指摘した元科捜研技官のF鑑定についても、検察官意見書にたいする反論を今回提出し、F鑑定人の証人尋問をあらためて求めた。裁判所は、証人尋問をおこなうとともに、弁護団が求めているスコップ関連の証拠開示について検察官に開示命令を出すべきだ。

 こうした弁護団の反論提出を受けて、6月11日に、第60回三者協議がひらかれ、東京高裁第4刑事部の家令和典・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは竹下政行・事務局長をはじめ12人の弁護士が出席した。

 弁護団は、提出した検察官意見書にたいする反論の新証拠と意見書の趣旨を説明し、とくに、インク資料の鑑定請求にたいして、検察官がクロム元素が検出されない可能性があるなどと反論していることについて、①「数字」のインクからクロム元素が検出されないことを前提にして争点をしぼるべきではないのか②検察官の手元にある「数字」などのインク資料について蛍光X線分析をおこなったのか③検査をおこなっていないとすると、なぜ実施しないのか、について検察官は釈明すべきだとのべた。

 次回の三者協議は8月下旬におこなわれる。

 弁護団は、証人尋問について具体的に協議を求めており、事実調べ・再審開始実現に向けて、重要な局面である。東京高裁第4刑事部(家令裁判長)に事実調べを求める世論をさらに大きくしていく必要がある。事実調べを求める署名をさらに拡大し、東京高裁第4刑事部に届けよう。

 9月26日に静岡地裁で袴田事件の再審の判決が出される。袴田巖さんがえん罪におとしいれられて58年だ。2014年3月に再審開始決定が出されたにもかかわらず、検察官が不服申し立て(抗告)をおこなったために10年以上もの年月が費やされた。袴田さんの再審を教訓に、このような長期にわたる人権侵害がおきる原因となっている再審手続きの不備、不公平を変えていかなければならない。「再審法」(「刑事訴訟法」等)の改正は、61年以上も無実を叫び続ける石川さんの再審無罪を一日も早く実現するためにも急務の課題だ。日本弁護士連合会(日弁連)は、昨年2月に「再審法」改正を具体的に提案する意見書を公表し、これを受けて、今年3月には、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が超党派で結成された。再審請求における検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、裁判所による事実調べなどの規定を盛り込んだ「再審法」改正の実現に向けて、地元国会議員へ議員連盟への参加の働きかけや地方議会での意見書採択、国会請願署名にとりくもう。

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