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反差別国際連帯のとりくみを強め、包括的な反差別法を

「解放新聞」(2024.07.05-3106)

 反差別国際運動(IMADR)の第36回総会が6月11日、東京・日比谷図書文化館でひらかれた。▽国連「ビジネスと人権作業部会」訪日調査報告書が6月の人権理事会に提出される▽「包括的反差別法制定のための実践ガイド」を国連人権高等弁務官事務所の許可を得て和訳した▽国連条約機関が技能実習制度を現代的形態の奴隷制度としてとりあげた、などが報告された。

 国際社会は循環型人権保障システムを求めている。マイノリティへの差別や人権侵害は、その国の法律や制度によって生み出される制度的差別である。国際人権条約を機能させることで、「新しい人権概念」にもとづく制度設計で解消される。条約に参加した国は、定期的に実行状況を国連に報告する。条約機関は報告書を審査し、総括所見をまとめる。改善部分には勧告を出す。勧告にもとづいて各国は制度設計を見直すことで、マイノリティへの制度的差別が解消される。

 この循環型人権保障システムを機能させるために、IMADRは多様な民間NGOと連携しながらとりくんでいる。(循環型人権保障システムは、『世界』(岩波書店)4月号の江島晶子(明治大学)記事を参照)

 少子高齢化時代を迎え、生産年齢人口が減少し、労働者不足を外国人労働者で補う時代が到来した。6月14日、「入管難民法」や「技能実習適正化法」の「改正」案が成立した。短期的に労働者不足を補う目的で、「途上国への技術移転を通して国際貢献」と掲げて「技能実習制度」が導入されたのは1993年。低賃金労働者確保に悪用され、現代奴隷制度だとして厳しい批判にさらされたために「技能実習制度」を廃止し、「深刻な労働者不足を解決するための人材育成と確保」と掲げて「育成就労制度」に衣替えさせた。しかし、「人権侵害の温床」と批判された「技能実習生」を単純技能労働者として扱う制度の枠組みは維持されている。

 「技能実習生」は多額の借金をし、送り出し機関に保証金を積む。来日すれば、受け入れ機関の監理団体にも、同様に借金をして手数料を支払う。外国人技能実習機構(OTIT)や国際人材協力機構(JITCO)のもとに監理団体があり、そのもとで技能実習生として企業に派遣される。技能実習計画で拘束されるため、低賃金、長時間労働、強制労働の実質債務奴隷の状態が生まれる。不満だと抗議すれば強制送還され、企業への転職は禁じられ、逃げ出せば、「技能実習生」でなくなり、無登録滞在者になる。

 人権侵害状況を解決するために、「育成就労制度」が導入されたが、内実は変わらない。高齢化社会を展望すれば、3年ごとに更新する短期ローテーション方式ではなく、長期的な受け入れ政策、すなわち移民政策をとらざるを得ない。2018年、「入管法改正」で「特定技能者2号」を受け入れ、永住権を持つことを認めたのは、移民政策の始まりである。

 移民政策を検討するには、ILO「移住労働者条約」第97号や「補足条約」第143号の内容をふまえるべきである。条約は、①差別の禁止②内国民労働者との均等待遇③移住労働者とその家族への保護と家族同居④職業選択の自由、などの権利を移住労働者にも認めると規定している。日本は未批准である。しかし、近年は国際条約を無視できなくなった。国連の「自由権規約」第7回政府審査報告(2022年)は、「技能実習制度」について、「強制労働が存続している」と見解を出している。昨年に強行採決された「改正入管法」にたいしては、「難民条約」に違反するので取り下げるよう人権高等弁務官が声明を出していた。

 移民政策は、労働法を適用する労働者として受け入れ、定住者の地位の安定を図ることで、共生社会への道筋ができる。税金や社会保険料をめぐり永住許可取り消しを盛り込む新制度は、永住者の地位を脅かす。

 多国籍企業が発展途上国の資源を乱開発したり、労働者を低賃金労働で搾取して、厳しい批判にさらされてきた時代から、企業もまた国際人権条約を履行する「ビジネスと人権」の考えが確認された。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年・「指導原則」)である。「指導原則」は「世界人権宣言」とそれを条約化した国際人権規約「自由権規約」「社会権規約」そして「国際労働機関宣言」にもとづく。企業が関わる企業活動全体―下請け企業(サプライチェーン)も含む―の人権デューディリジェンス(国際人権基準による監査)を定期的に実施することになった。

 ナイキのサプライチェーンが児童労働で製品を製造していたことが明らかになり、不買運動が起きたことはよく知られている。日本の有名ブランドの商品がサプライチェーンの縫製工場で技能実習生を搾取して製造されていることが明らかになり、謝罪に追い込まれた。「指導原則」に違反していたわけである。

 2023年7月に国連人権理事会の「ビジネスと人権作業部会」が日本の人権状況を「指導原則」にもとづいて実態調査した。政府各省庁、地方自治体、学識者、経団連、労働組合・連合、多様なNGO、部落解放同盟もヒアリングを受けた。「指導原則」の普及促進を目的としている。「指導原則」には31項目があり柱が三つある。一つは人権を守る国家の義務であり、政府は2020年、「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020―2025)」を策定した。二つは人権を尊重する企業の責任。三つは救済措置である。

 「作業部会」は、調査結果を報告し、「日本の人権施策の真ん中に大きな穴が開いている、包括的差別禁止法がないことと人権救済機関である人権委員会がないこと」を指摘した。また、リスクにさらされる人々として、女性、LGBTQ、障害者、先住民(アイヌ)、部落、労働組合などへの差別や攻撃の実態を報告した。製造業などに関わる技能実習生の現代奴隷とよばれる人権侵害状況に言及した。一企業の問題ではなく、産業全体のバリューチェーン(価値連鎖)が「指導原則」を遵守していない構造的問題であると指摘した。人権施策や国際人権基準の浸透に消極的であった日本でもようやく動きが出てきた。6月の国連人権理事会で正式な報告書として公表される。国連の最終報告書や勧告を無視し続けてきた政府が厳しく問われる。

 「全国部落調査」復刻版出版事件で、東京高裁が国連の「マイノリティ権利宣言」(いかなる差別もなしに、かつ法の前で完全に平等)につながるマイノリティの「差別されない権利」を認めた。憲法の人権原則をふまえた国際水準の判決である。憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」である。「マイノリティは平等であり」「マイノリティの差別されない権利」は保護される(木村草太『「差別」のしくみ』)。「世界人権宣言」1条は平等を、2条は差別されない権利を規定する。「マイノリティ権利宣言」に通底する。

 国連人権高等弁務官事務所は、包括的反差別法をめぐって幅広い協議を続けてきた。2022年12月、「マイノリティの権利を守る―反差別法制定のための実践ガイド」を公表した。IMADRは、和訳の許可を得て日本語版を公表した。マイノリティの権利である「平等と無差別に対する権利(差別されない権利)」について国際人権法に沿って包括的反差別法を制定するための権威あるガイダンスを提供するとしている。

 「実践ガイド」のサマリーには「マイノリティの権利を守る」ために「あらゆる形態の差別を撤廃し、平等を実現するため、そして平等と無差別に対する権利を尊重、保護、充足する国際法の中で、核となる国の義務を果たすために、包括的反差別立法に必要とされる内容」を網羅した。マイノリティの権利は「平等と無差別に対する権利」が中核をなす。そのためには包括的差別禁止法だけでなく、国内人権機関や人権侵害救済法を含む、マイノリティが平等で差別されない権利を保障される包括的反差別法が必要なのである。

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