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日本国憲法改悪に反対し、人権と平和の確立に向けたとりくみを強化しよう

「解放新聞」(2024.08.05-3109)

 超党派の国会議員などで構成する「新憲法制定議員同盟」は5月27日、「新しい憲法を制定する推進大会」をひらいた。岸田首相がビデオメッセージを寄せ、「社会は大きく変化しており、現実的にも憲法改正は先送りのできない課題だ」と主張し、「時代にそぐわない部分、不足している部分については、果断に見直しをおこなわなければならない」と訴えた。また、今国会閉会をふまえた記者会見を6月21日にひらき、憲法改正について、「衆議院憲法審査会において、このたび、5会派が発議原案の条文について実質合意をしたこと、これはきわめて重要な一歩であると考えています。この重要な一歩をさらにすすめていただきたいと考えています。国家の根幹を規定する基本法たる憲法について、時代の要請に応えて改正を考える機会を国民に提起することは、政治の責任であると改めて強調いたします」とのべ、改憲派が多数であり早急な改憲が必要だと印象づけた。さらに岸田首相は6月25日の自民党役員会で、「憲法問題は先送りできない課題の最たるもの」と発言するなど、改憲への姿勢を強めている。この間、岸田内閣は「防衛装備移転三原則」を改悪し、「官民一体となって防衛装備の海外移転をすすめる」方針を打ち出し、外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにした。これによって、ライセンス生産しているF15戦闘機や砲弾など、殺傷能力や建造物などを破壊する能力がある完成品を輸出できることになった。これにもとづき政府与党はアメリカからの要請によって、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」の完成品を輸出することを決定した。こうした安倍政権から引き継がれている「戦争をする国」にするための改憲策動を止めるために、私たちは平和と人権を守るとりくみを強化しなければならない。

 岸田首相は4月、アメリカを訪問しバイデン大統領と会談するとともに共同声明を発表した。声明の冒頭では、日米両国を、「グローバル・パートナー」と位置づけ、複雑化する国際社会の課題に、あらゆる領域でともに対応していく姿勢を打ち出し、法の支配にもとづく自由でひらかれた国際秩序を堅持し、強化していくとしている。グローバルなパートナーシップの要旨として、防衛・安全保障協力を強調し、日米同盟による抑止力と対処力を高めていく方針だ。アメリカは日本の防衛費の増額や反撃能力の保有、「防衛装備移転三原則及び運用指針の改正」を歓迎する姿勢を示し、さらなる協力強化を打ち出している。

 具体的には、「自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」としている。こうした背景をふまえて、陸海空の各自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の設置を盛り込んだ「自衛隊法の一部を改正する法律」を成立させたが、「統合作戦司令部」の創設は、米軍の指揮下に自衛隊が組み込まれ、先制攻撃の一翼を担うことになる危険性をもつものであり、断じて許すことはできない。日本国憲法は、アジア諸国に多大な被害を与えた侵略戦争の反省から、平和と民主主義の実現を願い生み出されたものだ。憲法前文には、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と謳(うた)っている。中国やロシアにたいして敵視政策をとるアメリカとの軍事一体化をすすめ、軍事力強化をはかることは、世界の軍事的緊張を高めるばかりか、多くの市民の命が危険にさらされるだけであり、許されるものではない。いまこそ平和主義の理想を掲げる日本国憲法第9条で謳われた戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を明確に示すべきだ。

 憲法を改正するためには、憲法第96条では、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による国会の発議と国民投票が必要であるとしている。この憲法改正の手続きを定めた96条について、国会による発議要件を各議院の総議員の過半数に緩和しようという動きがある。

 発議要件の緩和は、国家権力が憲法の縛りを解くために簡単に憲法改正を発議することを可能とするものであり、立憲主義と人権保障の観点から許されるものではない。さらに、国会の発議後に国民が最終的な意思を決定するための具体的な手続きが「日本国憲法の改正手続に関する法律」(「憲法改正国民投票法」)に定められているが、①最低投票率の定めがない②国会発議から投票日までの期間が最短60日と短い③テレビ・ラジオなどの有料広告の規制が不十分④条文ごとに投票できる個別投票が原則とされていない⑤公務員・教員の国民投票運動に関する規制が曖昧である⑥組織的多数人買収・利害誘導罪の構成要件が不明確、など多くの問題点が指摘されている。とくに問題なのは、投票14日前までのテレビ・ラジオでの有料勧誘広告や意見表明広告の規制がないことで、資金が潤沢にある財界などが支援する改憲派は大量の広告を出すことができ、資金のない市民などの改憲慎重派は広告を出せず公平な投票が担保されていない。さらにインターネット広告の影響力が高まっている状況をふまえ、テレビ・ラジオと同等以上の規制をすべきである。

 憲法改正は、主権者である国民が国の根本規範である憲法改正について、正確かつ十分な情報にもとづき、国民相互で十分議論し、国民意思を正しく反映する手続きのもとでおこなわれなければならない。前述の問題点の解消なしに国会の発議にすすむことは認められるものではない。

 自民党は今国会での改憲原案を提出せず、岸田首相がめざす総裁任期の9月までの改憲実現は困難となった。しかし、衆議院憲法審査会の改憲派は、ひき続き閉会中審査を求めることも考えられ、十分な警戒が必要だ。

 敗戦から79年、日本は着実に「戦争ができる国」へと向かっている。いまこそ、「平和主義」(憲法9条)「基本的人権の尊重」(憲法11条)「個人の尊重」(憲法13条)「生存権」(憲法25条)が守られ、平和と人権、民主主義と共生など、日本国憲法の理念に立ち返るべきときである。

 平和フォーラムが主催する、戦争犠牲者追悼、平和を誓う8・15集会が千鳥ヶ淵戦没者墓苑でひらかれる。満州事変から日中戦争、太平洋戦争へと拡大した戦争は15年にもおよんだ。政府によると、日本の戦没者は軍人・軍属230万人、民間人も80万人が亡くなったとされている。また、アジア・欧米諸国にも多くの犠牲をもたらした。戦後生まれが人口の8割超を占め世代交代がすすむなか、戦争の悲惨さ、平和であることの大切さに次世代が真剣に向き合い、どう継承していくかが大きな課題だ。

 私たちは、「戦争をさせない1000人委員会」や「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に積極的に参加し、核と戦争のない平和な21世紀を実現しなければならない。そしてすべての市民と連帯し「戦争法」廃止、平和憲法改悪阻止に向け全力でとりくもう。

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