「解放新聞」(2024.08.15-3110)
1月1日に発生した石川県能登半島地震で、犠牲になられたみなさんに心からお悔やみ申しあげるとともに、被災されたみなさんにお見舞い申しあげる。震災発生からすでに半年以上が経過しているが、いまだに多くの方が避難生活を余儀なくされており、復興・復旧に向けて課題は山積している。
また、これまで災害などの非常事態では、平時にその存在や抱えている課題が可視化されにくい障害者や子ども、女性、高齢者、外国籍市民など社会的弱者が、その存在を忘れさられ、避難所からの排除や、過度な自助努力が求められるといったことが、くり返されてきた。すべての個人が尊重され、人間としての尊厳を守ることを前提とした復興と、緊急事態を理由にした人権侵害が隠ぺいされないよう、これまでの教訓をふまえた視点での関わりも忘れてはならない。
いざ災害が私たちの地域にもおよんだときに問われるのは「地域力」だ。居場所づくりや安否確認をはじめとした地域活動やNPOなどの受け皿づくりが、迅速な支援へとつながる。能登半島地震の被災者支援とあわせて、あらためて私たちの地域で日常的な絆づくりに向けた活動をすすめていかなければならない。
部落解放第56回全国高校生集会・第68回全国青年集会を8月31日、9月1日に東京でひらく。全国各地から高校生・青年が結集し、これからの部落解放運動の発展につながることを期待する。
東京での開催は、全高は1999年の第31回集会から25年ぶり、全青は73年の第17回集会からじつに51年ぶりとなる。これまでに、複数回開催している都府県連がある一方で、開催したことがない所もあるなど大きなばらつきがある。青年部活動や高校友の会活動をはじめとした若者自身の活動や、普段の組織活動に若者が関わっているか、「地対財特法」の期限切れによる活動の変化、組織率低下、少子高齢化社会など、開催の有無・回数の理由や背景はさまざまだ。
東京都連青年部は、第17回全青を大きなきっかけに結成された。全高・全青を開催する都府県連への協力・支援はもちろんだが、青年活動をはじめ若者の活動が衰退していたり、若年層の減少など喫緊の課題を抱えている場所へのアプローチとしての集会のあり方の模索も必要だろう。全高・全青の開催形式や内容、あり方の議論と同時に、課題を抱える地域へ都府県連やブロック、全国単位での全高・全青開催支援の位置づけも重要である。そのためにも、若者の交流をはかり、それぞれ地元での活動の活性化をめざそう。
部落差別はいっそう顕在化している。差別意識の悪化傾向のなかで、インターネット上での被差別部落の所在地さらしやアウティング、差別書き込みがあとを絶たず、これらが放置されているのが現状だ。なかでも、2016年2月に、鳥取ループ・示現舎が起こしたきわめて悪質な差別事件、「全国部落調査」復刻版出版事件については、23年6月に東京高裁判決が言い渡された。高裁判決は、基本的には出版の差し止めを認めたほか、現に部落に居住していなくても過去の住所や本籍、親族の情報など「系譜性」による差別の実態もふまえ、損害賠償も増額した。また、「差別されない権利」を認めるなど地裁判決から大きく前進した内容となり、今後、同様の裁判や反差別共同闘争にも大きな影響をあたえるとともに、差別禁止法の制定に向けて大きな成果となった。
この裁判と結びついて「部落探訪」(現「曲輪クエスト」)削除に向けたとりくみもすすんでいる。示現舎のウェブサイトでは、「部落探訪」と称して全国360か所以上(今年7月時点)の被差別部落に潜入したさいの写真や動画をインターネット上にさらし続けている。これにたいし部落解放同盟では、大阪、埼玉、新潟で訴訟を起こし、それぞれの地域の記事を削除するよう求めた。そして5月1日、大阪地裁は、社会に根強く残る差別意識をふまえ「差別を受けずに平穏な生活を送る人格的利益を侵害している」として、記事の削除を認める仮処分決定を出した。
インターネット上では膨大な情報やデータが流通し、容易に入手できるようになった一方で、差別や誹謗・中傷などの人権侵害などの被害は、現実に人命を奪うほどに深刻化している。さらに、そうした人権侵害の放置が、公然と暴力や差別を扇動するヘイトスピーチ、確信的な差別、増悪犯罪(ヘイトクライム)を誘発し、その犯罪行為を支持する言動さえ生み出すなど、社会の対立と分断をいっそう増大させている。
5月には「情報流通プラットフォーム対処法」が成立し、SNSを提供する大規模プラットフォーム事業者にたいして、被害者の早期救済や人権侵害情報の削除申出窓口をわかりやすくするなど、対応の迅速化と運営状況の透明化などが義務づけられた。この制定を契機に実効性のある施策を要求し、インターネット上の差別撤廃はもちろん、包括的差別禁止法と国内人権委員会の創設に向けた広範な共闘・連帯のとりくみを強化しなければならない。
狭山再審闘争では、事件発生から61年が経過したが、石川一雄さんの「見えない手錠」はいまだにはずされていない。第3次再審請求以降、有罪確定判決をつき崩す決定的証拠が裁判所に提出されてきた。
2022年8月、弁護団はそれらの鑑定やこれまでに提出された石川さんの無実を証明する新証拠などを作成した専門家の鑑定人尋問などを求める「事実取調請求書」を東京高裁に提出した。それにあわせて始まった事実調べを求める緊急署名は53万筆を超えており、再審開始を求める世論の高まりが示され、事実調べ実現に向けた正念場を迎えている。
袴田事件について、23年3月に東京高裁が静岡地裁の再審開始決定(14年)を支持し、東京高検が最高裁への特別抗告を断念したことから、再審開始が確定した。東京高裁の決定は、当時の捜査機関が証拠をねつ造した可能性にまで言及するなど画期的な内容だった。9月に静岡地裁で判決が出される予定だが、検察側は死刑を求刑するなど許しがたい主張をおこなっている。
再審開始が長引く大きな要因の一つとして、再審開始決定にたいして検察が抗告できること、証拠の開示やその必要性などを検察が判断できてしまうことがある。狭山再審闘争と紐づけて、証拠開示の法制化や再審開始決定にたいする検察の抗告禁止、事実調べの保障など再審手続の整備を盛り込んだ「再審法」の改正に向けたとりくみもすすめていかなくてはならない。
また、狭山闘争に参加する若年層の減少や、事件発生から60年以上という長い年月などを背景に、全高・全青集会参加者の感想などでもみられるように、狭山事件を知らない若者も少なくない。そういった若者も含め、部落差別にもとづく権力犯罪であるえん罪・狭山事件を訴え、「石川無実」の世論を広げよう。各地で集会や学習会、情宣行動、署名活動などを展開し、再審開始をかちとるために全力でとりくもう。
いま各地の青年や高校生が、分科会の運営・企画をはじめ東京全高・全青の成功に向けて準備をすすめている。差別のない人権が確立された社会を創造するために、自分たちが何をすべきか。仲間と力を合わせることの大切さや、自分の生き方をみつめなおそう。全国の仲間たちと、大いに語り、大いに絆を深め合い、部落解放―人間解放の夢を語ろう。そして、この集会に参加してよかった、地元に帰ってがんばろう、と思える集会を創造していこう。
全国各地から高校生・青年の仲間が東京に結集し、活発な意見交換や実践交流をおこない、各地の運動の発展につなげていくことを期待する。各都府県連・支部で、多くの高校生・青年に積極的な参加をよびかけ、東京集会の成功をかちとろう。
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