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狭山事件の事実調べと「再審法」改正を実現しよう

「解放新聞」(2024.09.15-3113)

 狭山事件の有罪判決(1974年10月31日、東京高裁(寺尾正二・裁判長)による無期懲役判決。以下、寺尾判決)は、石川さんが自白したとおり、被害者の万年筆が石川さんの家から発見されたとして有罪の決定的証拠とした。第3次再審請求では、この有罪判決に重大な疑問を生じさせる新証拠が出された。

 有罪判決後の1976年に、被害者が事件当日に学校で書いたペン習字浄書が証拠開示され、さらに第3次再審請求で、2013年に被害者が使っていたインク瓶、16年には、事件当時、発見万年筆をもちいて被害者の兄が検察官の前で書いた「数字」(を記載した紙片)が証拠開示された。これらのインク資料は、いずれも現在、東京高等検察庁にある。

 弁護団は、第3次再審請求で、I鑑定人に依頼し、これらの証拠開示されたインク資料について蛍光X線分析をおこない、ペン習字の文字インクや被害者が使っていたインク瓶のインクからはクロム元素が検出されるが、発見万年筆で書いた「数字」のインクからはクロム元素が検出されないことを明らかにした。

 そもそも、発見万年筆と同種同色の万年筆は多数、販売されており、発見万年筆が被害者のものだと特定する客観的根拠はなかった。そのうえ、「数字」のインクにクロム元素がないということは、被害者が直前まで使っていたインクと異なるということになり、発見万年筆が被害者の万年筆とはいえないことになる。

 弁護団は、2018年8月、このI鑑定を新証拠として提出、石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものだとした有罪判決に根本的な合理的疑いが生じたと主張しているのだ。万年筆が被害者のものであることに疑問が生じるということは、万年筆を奪い自宅に持ち帰ってカモイに置いていたという自白にも疑問が生じるし、捜査の問題にも波及する重大な争点である。61年におよぶ狭山裁判でずっと疑問だらけの証拠とされてきた万年筆について、最新の科学技術で解明すべきである。

 弁護団は、筆跡鑑定を含め、有罪判決のほぼすべての論点について新証拠を提出し、2022年8月、事実取調請求書を提出し、11人の鑑定人の証人尋問を請求した。あわせて、検察庁にあるインク資料の鑑定請求をおこなった。インク資料について、第三者の専門家による蛍光X線分析を裁判所が主体となっておこなうよう求めるものだ。

 しかし検察官は、弁護団の鑑定請求にたいして鑑定の必要がないとする意見書を提出してきた。その理由として、被害者が万年筆を水洗いして別インクを補充したからクロム元素が検出されないとか、別のインクを補充して混合した場合、インクが凝固して、発見万年筆で書いた「数字」のインクからクロム元素が検出されない可能性があるなどと主張したのである。

 しかし、被害者が万年筆を水洗いしたなどという検察官の主張は何の根拠もない憶測にすぎないし、インクを混ぜたら凝固してクロムが検出されないという主張に科学的な根拠はまったくない。弁護団は、これら検察官意見書に科学的、実証的に反論し、インクの異同鑑定を実施すべきだと主張してきた。また、弁護団は、推薦する蛍光X線分析の専門家と分析装置を具体的に示して、裁判所が主体となる鑑定の実施を求めてきた。これにたいしても検察官は、反論の意見書を提出してきた。

 そもそも、インク資料はすべて検察庁にあり、科学警察研究所などで蛍光X線分析もできるはずだ。インクが同じといえるかどうか、検察官みずからインクの検査をおこなえばいいのに、それをせずに、「クロムが検出されない可能性がある」という反論はきわめて不合理、不当だ。「(検察官は)あくまで真実を希求し、知力を尽くして真相解明に当たらなければならない」「あたかも常に有罪そのものを目的と⋮⋮(する)かのごとき姿勢となってはならない」とした「検察の理念」(2011年に最高検察庁が制定、公表した検察官の倫理規定)はどこへいったのか。

 弁護団は、6月の三者協議で、検察官が、クロム元素が検出されない可能性があるなどとして鑑定の必要がないと反論していることについて、①「数字」のインクからはクロム元素が検出されないことを前提にして争点をしぼるのか②検察官はみずからの手元にある発見万年筆で書いた「数字」などのインク資料について蛍光X線分析をおこなったのか③おこなっていないとすれば、なぜインクの分析をおこなわないのか、について、裁判所から検察官に釈明を求めるべきだと訴えた。争点をはっきりさせ、審理を促進するうえで重要だからである。

 弁護団は、万年筆インクの鑑定について、8月19日付けで東京高裁第4刑事部あてに申し入れ書を提出した。今回の申し入れ書は、裁判所によるインク鑑定の実施の請求にかえて、弁護団が推薦したX線分析の専門家により、インク資料の蛍光X線分析を弁護側でおこない、その結果を新証拠として提出するので、その鑑定実施に裁判所および検察官の協力を求めるものである。

 弁護団は今年5月末から6月はじめに、筆跡、万年筆インク、スコップについて、検察官意見書の誤りを明らかにした新証拠を提出したが、検察官は8月の第61回三者協議で、これらにたいする反論の意見書を10月末までに提出するとした。また、前回協議で弁護団が検察官に釈明を求めた前記の3点について、検察官は、回答するかしないかも含めて10月末までに返答するとのべた。

 万年筆インクについて、弁護団としてインク資料の鑑定を実施し、新証拠として提出するという申し入れについては、裁判所は、鑑定資料がすべて検察官の手元にあることから、弁護団による鑑定実施に協力するよう検察官に要請した。

 これを受けて、弁護団は、鑑定の実施に向けた準備をすすめ、今後、専門家によるインク資料の蛍光X線分析鑑定を実施し、その結果を新証拠として提出することになる。

 今後は、このインク鑑定をおこなう専門家も含めて、弁護団が求める鑑定人の証人尋問の実施が焦点になる。すでに請求している各鑑定人も含めて、証人尋問の実施・再審開始実現に向けて、重要な局面だ。

 次回の三者協議は11月中旬におこなわれる。東京高裁第4刑事部(家令和典・裁判長)に事実調べ(鑑定人の証人尋問)の実施を求める世論を最大限に大きくしていく必要がある。事実調べを求める署名、要請ハガキをさらに拡大し、東京高裁第4刑事部に届けよう。

 9月26日に静岡地裁で袴田事件の再審の判決が出される。袴田巖さんがえん罪におとしいれられて58年かかっての無罪判決だ。巖さんは現在88歳、姉のひで子さんは91歳にもなる。なぜえん罪を晴らすのにこれほど時間がかかるのか、そもそも、なぜえん罪がおきたのか、捜査や自白強要の取り調べ、警察や検察の証拠ねつ造、証拠隠しの問題が大きくとりあげられるだろう。

 私たちは、「無罪判決に検察は控訴するな」という声をあげるとともに、袴田さんの無罪までの58年を教訓にし、えん罪をなくし、無実の人をすみやかに救済する司法改革を求めていかなければならない。

 狭山事件で、石川一雄さんは61年以上もえん罪と闘い続け、現在85歳だ。無実を叫んで再審請求を47年も続けている。石川さんの再審無罪を一日も早く実現するために、「再審法」(「刑事訴訟法」等)の改正は急務の課題である。再審請求における検察官の証拠開示の義務化、再審開始決定にたいする検察官の抗告の禁止、裁判所による事実調べなどの規定を盛り込んだ「再審法」改正の実現に向けて、地元国会議員への働きかけ(議員連盟への参加)や地方議会での意見書採択、国会請願署名にとりくもう。

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