「解放新聞」(2024.10.15-3116)
袴田事件で9月26日、静岡地裁は、検察の証拠に三つのねつ造があることを認め、袴田巖さんに無罪判決を言い渡した。ここに中央本部の声明を掲載する。
本日、静岡地方裁判所(國井恒志裁判長)は、袴田事件の再審公判において無罪判決をおこなった。58年もの長きにわたって冤罪と闘い続けた袴田巖さん、姉の袴田ひで子さん、弁護団と支援者の闘いに敬意を表するとともに、ともに喜びたい。
再審無罪判決は、有罪の証拠とされたものについて、3つのねつ造があると認めた。まず第1に、検察官が作成した自白調書について、非人道的な取調べで作られたもので、警察と検察が連携して、実質的にねつ造したものだとして証拠から排除するとした。証拠開示された取調べ録音テープなどによって、袴田さんが自白したという調書は、黙秘権を侵害し、肉体的・精神的苦痛を与えて自白を強制する非人道的な取調べで作成されたと指摘している。
そして、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」について、「実験結果や専門家の見解」によって、タンク内で1年以上みそ漬けした場合に、血痕は赤みを失い黒褐色化すると認められるとし、犯行着衣ではないとしたうえで、ねつ造された証拠であると断定した。袴田さんの家から発見された端切れも捜査機関のねつ造と認められるとして、いずれも証拠から排除している。そのほかの検察官が主張する事実関係によっても、袴田さんを犯人と認めることはできないとして無罪を言い渡した。無罪判決がねつ造を認める根拠となったのは、開示された証拠と弁護団が提出した専門家の鑑定やみそ漬け実験であり、それら鑑定人の証人尋問である。
袴田さんは連日、長時間におよぶ取調べで虚偽の自白を強いられ、警察官らが法廷で偽証していたことが、証拠開示された取調べ録音テープによって暴かれた。狭山事件においても、石川一雄さんは別件逮捕から1ヵ月、無実を訴えたが、「脅迫状を書いたことは間違いない」「供述義務がある」などと迫り、ウソの自白調書を作り上げたうえ、裁判で警察官らは「すらすら自白した」などと偽証していたことが、証拠開示された取調べ録音テープによって明らかになっている。袴田さんの無罪判決が認定した冤罪の構図は狭山事件の石川一雄さんとまったく同じである。
狭山事件の弁護団は、第3次再審請求において、有罪判決の誤りを指摘した専門家の鑑定を提出し、開示された証拠をもとに石川さんの無実を明らかにしている。そして、疑問だらけの有罪証拠である万年筆について、インク資料の鑑定を実施し、鑑定人の証人尋問を求めていくことにしている。狭山事件の再審請求を審理する東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)に鑑定人の証人尋問をあらためて強く求めたい。石川一雄さんは冤罪に陥れられて61年以上が経過し、85歳になるいまも無実を叫び、判決当日も静岡地裁にかけつけ、「獄友」である袴田巖さんの無罪勝利を喜び、「つぎは狭山」と決意あらたに事実調べ・再審開始、再審法改正を訴えている。
わたしたちは、袴田さんの無罪判決を力にして、狭山事件において鑑定人の証人尋問を実現し、再審開始決定、石川さんの雪冤(せつえん)をかちとる決意をあらたにするものである。東京高裁に事実調べ(証人尋問)を求める署名運動をはじめ、多くのみなさんのご支援をあらためて訴える。
検察官は再審公判で有罪の立証をするとして、あらたな法医学者の意見書を提出し、証人尋問もおこなわれたが、裁判所は検察官の主張・立証を否定したのであるから控訴する余地はないはずだ。これ以上、袴田巖さん、袴田ひで子さんを苦しめるなど許されない。検察官は絶対に控訴するべきでない。上訴権を放棄し、無罪判決をすみやかに確定させるとともに、再審開始決定も含めて3つの裁判所が「ねつ造」を指摘したことを真摯に受けとめ、反省し、指摘された「ねつ造」について、警察とともに、徹底的に検証すべきである。
袴田さんの再審無罪は日本の司法制度の問題をきびしく問うている。袴田事件の再審無罪判決を教訓とし、取調べの全面的な録音・録画、人質司法の廃止など冤罪防止のための司法改革とともに、検察官の抗告の禁止、再審における証拠開示などの再審法改正を実現することが重要だ。わたしたちは、石川一雄さんとともに、狭山事件の再審無罪まで全力でたたかうとともに、あらゆる冤罪をなくし、誤判からのすみやかな救済を求めて再審法改正にさらに全力でとりくむことを表明する。
2024年9月26日
部落解放同盟中央本部
執行委員長 西島藤彦
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