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阪神・淡路大震災30年、戦後80年に向けて兵庫での第57回全研に結集を

「解放新聞」(2024.10.25-3117)

 今年1月に深刻な地震被害を受けた石川県能登地方は、9月には集中豪雨による土砂災害、洪水などでさらに甚大な被害に見舞われた。ニュースなどで映し出される現場の状況はきわめて過酷である。世界では、ロシア―ウクライナの戦争、その後のガザ―イスラエルの戦争はイランをも巻き込み、第3次世界大戦の可能性が危惧されている。そしてそうした状況に呼応するかのように民族排外主義が各地で台頭している。気温上昇を産業革命前の1・5度以下に抑えることが地球温暖化の加速を止めるといわれているが、日本で二酸化炭素排出規制はまだ本格的には始動していないかにみえる。幾重にもおよぶ人類存亡の危機のなか、差別撤廃の喫緊の課題に私たちはとりくんでいる。

 11月19日と20日の両日、兵庫県神戸市で部落解放研究第57回全国集会(第57回全研)を開催する。集会テーマは「阪神・淡路大震災30年、戦後80年にむけて、人権・平和・環境の確立と、いのちを守る協働・共生の取り組みを強化し、社会連帯を実現する部落解放運動を大きく前進させよう!」。まさに現下の厳しい情勢のもとで、私たちが何をすべきかを明らかにする集会内容をめざす。以下、その内容を紹介する。

 1日目は全体会。記念講演は「誰もが暮らしやすい社会であるために」と題して、内閣府障害者政策委員会委員の玉木幸則さんに講演をいただく。

 玉木さんは「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」(NHK教育テレビ)などへの出演者として知られているが、ご自身が障害者であるとともに、阪神・淡路大震災で被災を経験されている。大震災の経験をふまえて、もっとも困難な状況にある人たちを置き去りにしない震災対策のありようを学ぶこと。そして、バリバラの制作に関わる玉置さんに、若年層に届く反差別の展開について示唆をいただければと思う。

 地元報告は、「「能登半島地震とともに」〜阪神淡路大震災から30年を迎えて」と題する「被災地NGO協働センター」前代表の村井雅清さんのお話である。

 村井さんは、行政がマスケアをおこなうのにたいして、ボランティアは「たった一人のためのケア」をおこなうことができる、十人十色の被災者にあたることができるのは十人十色のボランティアで、そこからさらにコミュニティケアをめざすという。昨今、包摂の地域社会づくりの必要が認識され始めているが、第4期の部落解放運動がめざすまちづくりは、まさしくこれと同じ視点ではないか。

 2日目は分科会で報告がおこなわれる。第1分科会、関西大学の内田龍史さんの報告は、国勢調査データを活用した尼崎市の実態調査に関する内容である。長期の経済的不況とコロナ禍をへて、被差別部落の生活実態はますます厳しいというのが実感である。調査に二の足を踏む自治体が多いなか、実態の深刻さを明らかにすべく国勢調査活用の事例に学びたい。

 弁護士の鴨志田祐美さんからは「今こそ再審法改正を!」というテーマで、法改正の立法事実と議論の現状について講演を受ける。袴田事件の再審無罪判決で深まった警察の証拠ねつ造と「再審法」にたいする疑問を狭山事件の再審開始につなぐためにも、ぜひ理解を深めておきたい。

 午後は、Like myself 代表の前田良さんから「性の多様性について」というテーマでお話を聞く。前田さんの経験を通じて「自分らしさ」を否定されない社会のあり方について思索を深めたい。また、ハンセン病市民学会事務局次長の原田恵子さんからは「ハンセン病問題から学ぶ」というテーマで講演をいただく。回復者が高齢化するなか、「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」、「ハンセン病家族訴訟」勝訴をへて、なお多くの差別と困難に苦しむ回復者と家族の現実に学ぶ。

 近年、「部落差別解消推進法」の不備を補完し、法の実効性を高めるため、各地でさまざまに条例制定がとりくまれている。第2分科会では午前中、地元兵庫県から猪名川町の大西崇・生活部福祉課課長と、たつの市人権推進課に、それぞれ条例制定について報告いただく。

 午後からは、「デジタル社会における部落問題」と題して赤井書記長が講演をおこなう。この間、インターネット上の差別にたいする削除要請がとりくまれ、そのことが削除手続きの透明性、迅速性を確保する「情報流通プラットホーム対処法」の制定につながった。法の趣旨を徹底するために、施行に向けてとりくむべき課題が提起される。

 また、全国隣保館連絡協議会の谷広己さんからは、全国隣保館連絡協議会の現状と課題について報告を受ける。隣保館がまちづくりの拠点として機能するための議論に期待したい。

 「部落差別解消推進法」の施行後も、学校教育での部落問題学習は遅々としてすすんでいない。第3分科会の午前中は、地元兵庫県での人権教育資料『きらめき』の作成と授業実践について、県教育委員会と学校現場から報告を受け、部落問題学習推進の方途を探る。

 また、兵庫人権啓発企業連絡会の増田雄彦・代表幹事から、会のとりくみの報告を受ける。

 午後は、ひょうご夜間中学をひろげる会の桜井克典さんから「兵庫における夜間中学校の現状と課題」について、滋賀県人権教育研究会の徳永信一さんからは人権教育のとりくみの総和としての進路補償について、問題提起を受ける。

 不当逮捕から58年もの歳月を要して、ようやく袴田巖さんの無罪判決が出された。検察は控訴しないことを発表したが、検事総長は談話で、証拠ねつ造や自白強要を認定した判決に「承服できない」とのべ、弁護団は強く抗議、訂正と謝罪を求めた。この判決をかならずや狭山事件の再審開始につなげなければならない。

 第4分科会では午前中、石川一雄さん、石川早智子さんからのビデオメッセージ上映と狭山事件再審弁護団事務局長の竹下政行・弁護士の講演がおこなわれる。午後は、袴田事件再審無罪判決に関わって、巖さんの姉、袴田ひで子さん、袴田事件弁護団事務局長の小川秀世・弁護士、袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長の山崎俊樹さんのお三方からお話をいただく。

 第5分科会の午前は、三重県連の舘龍二・書記長から「三重県の教育公務員による土地差別事件」の報告を受ける。教員が、購入した土地が被差別部落であったことを理由に契約の取り消しを求めたという事件で、今年2月に三重県で制定された「差別解消条例」が適用され、当該教員にたいし説示がおこなわれた。条例制定の意義を考えるうえで示唆に富む報告となろう。

 インターネット上の差別については、「復刻版全国部落調査出版事件」に続いて、「部落探訪」削除を求める裁判が始まっている。このとりくみについて、「インターネット上の部落差別への法的対応」と題して、弁護士の中井雅人さんのお話を聞く。

 午後は、地元兵庫の「『同和』地区問い合わせ事件に関する宅建協会等への申し入れ」について、兵庫県連の渕本稔・副委員長の報告を受ける。

 最後に、最近マスコミにも取りあげられた「大阪市職員(港湾局)による部落差別発言事件」について、大阪府連の袈裟丸朝子・書記次長が報告される。

 以上、第57回全研のラインナップである。それぞれの報告・講演がより豊かな内容となるよう、問題意識をもって参加し、持ち帰って日頃のとりくみをさらに充実させよう。

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