「解放新聞」(2024.11.25-3120)
昨今、コロナ禍の影響やロシアのウクライナ侵略によるエネルギーや原材料の価格高騰などによって世界的な物価高がすすんでいる。日本においても、記録的な円安により輸入コストは上昇し物価高騰が続いている。しかし、実質賃金は上がらず、貧困・格差の拡大が深刻化している。こうした状況のなか、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことが困難な人が増加しており、人々のくらしを支える社会保障制度の重要性が高まっている。
厚生労働省によると、2021年の日本の相対的貧困率は15・4%で、1900万人もの人々が貧困と考えられるが、「最後のセーフティネット」である生活保護制度を利用している人は約204万人にとどまっている。生活保護制度は、憲法25条の「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とした生存権を保障し、この権利を具体的に実現するための制度であるが、貧困状態とされる人の1割程度しか利用できていない。
その要因の一つとして「扶養照会」の問題があげられる。近年、申請に関わって、行政による不適切な対応が全国で報告され、なかには生命の危機を感じたケースまで報告されている。その多くが扶養照会に関するものだ。扶養照会については緩和され、厚生労働省からも、扶養照会を実施するのは扶養義務の履行が期待できると判断される者に限ることを明確にした通知が自治体に通知されているが、申請者の意向を尊重するかについては、自治体や窓口によって対応が異なる。生活保護制度を利用するにあたって、扶養照会がおこなわれることは強要されるべきことではない。今後も各自治体の対応の改善を求めるとともに、扶養照会の撤廃を実現し、必要な人が申請をためらうことなく利用できる制度にしていかなければならない。
また、制度を利用している人も生存権が保障されているとは言いがたい状況が散見される。
2013年から15年にかけて、物価の下落などを背景に生活保護の支給額を段階的に最大で10%引き下げられ、最低限度に満たない生活を強いられているとして、支給額引き下げの違法性を問う裁判が全国各地で起き、10月末時点で33の判決が出された。そのうち半数以上の19の判決が国の違法性を指摘している。
このようななか、25年度の生活保護基準額が引き下げになる可能性があるともいわれている。急激な物価の上昇や光熱費等の値上げにより、食費を削ったり、節電に努めるなど生活保護世帯の生活はきわめて厳しくなっている。とくに、地球温暖化が加速し、猛暑日・真夏日が長期間続くなか、暑さ対策ができず、熱中症のリスクが高まり、いのちを脅かされる状況が起こっている。冬場に支給される「冬季加算」に加え、夏季の光熱費を賄うための「夏季加算」の創設や生活扶助費の増額を求めていかなくてはならない。
さらに、現代のこうした酷暑において生活必需品ともいえるエアコンの購入が困難な世帯もある。エアコン購入費の支給に関しては、条件が定められており、以前から生活保護を利用している世帯やエアコンの故障等で買い換えが必要になった世帯にたいする支給は認められておらず、エアコンの購入費を柔軟に支給できる改正も必要だ。
今年4月、「生活保護法」「生活困窮者自立支援法」「社会福祉法」の改正が成立した。生活保護世帯の子どもが、高校卒業後に就職して独立する場合の一時金や、親と同居したまま就職し、生活保護を受給しなくなる場合の一時金の支給などが盛り込まれた。しかし当事者を含め、これまで多くの要望があがっている大学進学に関する改正はおこなわれなかった。
高卒と大卒とでは生涯賃金の差は大きく開きがある。生活保護世帯の大学・短大・専門学校等への進学率は、一般世帯の進学率のおよそ半分にとどまっている。その理由の一つとして、進学するさいの条件である「世帯分離」があげられる。生活保護制度の目的は、「最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」としているが、自立につなげるためにも、教育を受ける権利は平等でなければならない。世帯分離することなく進学できる改正や、給付型奨学金の拡充などを実現させなければならない。
これまで、生活保護制度の見直しによって改善された点もあるが、度重なる生活保護基準の引き下げなど現行の制度では、すべての人の生きる権利を保障する最後のセーフティネットの機能を十分に果たせていない。かつて、生活保護受給額の男女格差の撤廃を実現したように、現代に即した制度となるようとりくみを強化しよう。
増加する介護事業所の倒産、介護従事者の処遇改善や担い手の育成、ヤングケアラー支援、障害のある人への施策をはじめ、貧困や生活困窮、孤独・孤立、虐待など福祉の課題は多岐にわたり、いくつもの課題が絡み合い複雑化・多様化している。そういった課題解決には、国も縦割りでなく、他分野・制度と連携した横のつながりや一体的なとりくみが必要だとしている。こうした「地域共生社会」を実現するには、すべての人の生きがいや社会参画を実現し、安心安全に暮らしていけるよう、運動のなかで培ってきた人と人、人と制度をつなぐノウハウを活かした「人権のまちづくり」運動を展開していくことが必要だ。
第30回中央福祉学校を12月14、15日、鹿児島市の県労働者福祉会館でひらく。各地の実践や課題を持ち寄り、ともに学び、連携を強化し、誰も排除されることのない、いのちと生活を守る地域福祉運動を大きく前進させよう。
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