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全力をあげ、狭山事件の鑑定人の証人尋問を求める世論を

「解放新聞」(2024.12.05-3121)

 50年前の寺尾判決は、「被告人のいうとおり、自宅勝手場出入口の鴨居の上から被害者の所持品である万年筆が発見され」たとして有罪の根拠にした。この石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものといえるかどうか、被害者のものであることに合理的疑いがあるかどうかが狭山事件の大きな争点の一つである。

 そもそも、証拠の万年筆が被害者のものであることを客観的に証明する証拠はない。有罪判決は、被害者の兄の「書き具合が似ている」というあいまいな証言などをあげているだけだ。しかし、当時の科学警察研究所の鑑定結果では、発見万年筆のペン先はあまり摩耗しておらず、「使用程度はごく少ないもの」とされ、使っている人の書きぐせが残る(=「書き具合」で特徴がわかる)ものではなかった。

 また、当時の捜査報告書によれば、証拠の万年筆は、1961年2月〜3月頃に2万本ちかく製造されたうちの1本であり、被害者の兄が万年筆を買った西武百貨店でも同種同色の万年筆が116本も販売されていた。固有の番号もなく、「色や形が似ている」というだけでは同一の万年筆とはいえない。発見万年筆から被害者の指紋も検出されておらず、発見万年筆を被害者が使っていたものとするには多くの疑問があるのだ。

 第3次再審請求では裁判所の勧告もあり証拠開示がすすみ、万年筆に関して重要な証拠が開示された。
 事件から50年をへた2013年、被害者が使っていた万年筆のインク瓶がはじめて証拠開示され、これによって、被害者が使っていたインクはパイロット社の「ジェットブルー」というインクであること、ジェットブルーインクにはクロム(Cr)という元素が含まれていることがわかった。

 16年には、事件当時、石川さんの家から発見された万年筆を用いて被害者の家族が検察官の面前で書いた「数字」(を記載した紙片)が証拠開示された。
 また、1976年の上告審段階で、被害者が事件当日に学校で書いた「ペン習字浄書」が証拠開示されていた。これらのインク資料はすべて検察庁にある。

 弁護団は、非破壊分析の専門家であるI教授に依頼し、証拠開示されたインク資料を蛍光X線分析によって元素を調べたところ、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字のインクや被害者が使っていたインク瓶のインクからはクロム元素が検出されたが、発見万年筆で書いた「数字」のインクからはクロム元素が検出されなかった。弁護団は、発見万年筆のインクは被害者の使っていたインクと違う(元素が異なる)というI鑑定を18年8月に提出した。

 発見万年筆は被害者のものといえないことが科学的に明らかになったのだ。弁護団は、発見万年筆を被害者のものとした有罪判決に合理的疑いが生じたとして再審開始を求めたのである。

 弁護団は2022年8月に、新証拠を作成した鑑定人の証人尋問とあわせて、裁判所が主体となって、第三者によるインク資料の鑑定をおこなうよう求めた。これにたいして、検察官は、すべての証人尋問を必要ないとする意見書を提出するとともに、インク資料の鑑定の実施も必要ないと主張した。

 今年8月の三者協議に先立って、弁護団は、裁判所による鑑定の請求にかえて、「数字」のインクと「ペン習字浄書」「被害者のインク瓶のインク」などについて、弁護団鑑定として蛍光X線分析装置を使って検査し、専門家の鑑定書として提出することを申し入れた。裁判所は、資料が検察庁にすべてあるので、弁護団に協力してほしいと検察官に要請した。

 この確認を受けて、弁護団は、鑑定人候補として推薦していた蛍光X線分析の専門家に依頼し、蛍光X線分析装置を用いて検察庁にあるインク資料の検査(インクの元素を調べる計測)をおこなった。現在、鑑定書の作成をすすめており、年内に新証拠として裁判所に提出するとともに、今回の分析鑑定をおこなった専門家の証人尋問を求めることにしている。

 第62回三者協議が、11月12日にひらかれた。
 検察官は、筆跡、スコップ、万年筆インクについて、弁護団が5月、6月に提出した新証拠、補充書にたいする反論の意見書を11月11日付けで提出した。弁護団は、検察官がクロム元素が検出されない可能性があるなどと反論していることにたいし3点について釈明を求めていたが、検察官は、回答しないと返答した。

 弁護団は、検察庁にあるインク資料について、専門家による鑑定のための検査を実施したこと、鑑定書を年内に提出することを裁判所に伝えた。次回の三者協議は来年1月中旬におこなわれる。弁護団は、専門家によるインク資料の蛍光X線分析鑑定を提出し、鑑定人の証人尋問を裁判所に請求する。

 今後は、このインク鑑定も含めて、弁護団が求める鑑定人の証人尋問を裁判所が実施するかが焦点だ。東京高裁第4刑事部(家令和典・裁判長)に事実調べ(鑑定人の証人尋問)の実施を求める世論を最大限に大きくしていく必要がある。狭山事件の再審を求める市民の会事務局長の鎌田慧さんらは、東京高裁に署名を提出し、要請行動をおこなうことにしている。

 袴田事件の再審無罪判決、福井事件の再審開始決定と続いており、えん罪や再審にたいする報道、市民の関心も高くなっている。61年以上も無実を叫び続ける石川一雄さんの無実、狭山事件の再審開始を訴え、世論を大きくするチャンスだ。事実調べを求める署名をさらに拡大し、東京高裁第4刑事部に届けよう。

 袴田事件や福井事件を通じて、再審手続きの不備をいまこそ変えるべきだという声が大きくなっている。3月には、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が超党派で結成され、衆議院解散前には全国会議員の半数近い350人が参加するまでに増えた。また、地方自治体からの賛同も、14道府県議会を含む404地方議会が、「再審法」改正を国会に求める意見書を採択している。

 石川さんの再審無罪を一日も早く実現するためにも、再審における証拠開示の義務化や再審開始決定にたいする不服申し立ての禁止などの「再審法」改正は急務だ。各地で、地元の国会議員に議員連盟への参加の働きかけや、地方議会での意見書採択など、「再審法」改正実現に向けたとりくみをすすめよう。

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