「解放新聞」(2024.12.25-3123)
2024年は世界的に「選挙イヤー」であった。多くの国で政権や与党が敗北、苦戦、与党の過半数割れ、政権交代があいついだ。アメリカ合衆国ではトランプ大統領が返り咲き、「自国第一」の風潮が国際社会に広がるなか、国際協調の機運は弱まるばかりである。
ロシアによるウクライナ侵略はプーチン大統領が核兵器使用の威嚇をくり返し、イスラエルとパレスチナ戦争はレバノンやイランにも戦闘が拡大、核保有国であるイスラエルと核開発を続けるイランとの対立が激化し、両戦争ともいまだ停戦への道筋が見えない。多くの子どもや女性をはじめ、違法かつ非人道的な攻撃の犠牲者が日々増加していることに、国際社会は結束して対処できずにいる。
来年は戦後80年、広島・長崎に原爆が投下されて80年を迎える。今年10月、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞した。この受賞は核兵器使用や第3次世界大戦も起こりかねない現状への危機感、それを防ごうとする国際社会からのメッセージである。いまこそ被爆国である日本は戦争終結に向けリーダーシップを発揮し、「核兵器禁止条約」への参加とすべての被爆体験者への補償の実現にとりくんでいくべきである。
10月の衆院選で自・公両党の与党は215議席で過半数を大きく割り込み、2012年から続いてきた「自民一強」の構図が一変し、与野党伯仲の緊張感のある国会運営に様変わりする。自民党の惨敗は裏金問題への対応が批判されたのみならず、自民党政治と政治家の劣化に審判がくだされた結果といえる。
1994年に成立した自社さ連立政権では、「与党・人権と差別問題に関するプロジェクトチーム」が発足、日本の人権政策を大きく転換させた。「人種差別撤廃条約」加入、「人権教育・啓発推進法」制定、いまだに制定されていないが「人権擁護法案」「人権委員会設置法案」の提案などの動きにつながった。
この歴史に学び、与野党伯仲の政治状況をふまえ、与野党各党の人権議連へのロビー活動を強化し、人権の法制度確立に向けたうねりをつくっていくため、共闘団体との連携をはじめ、さまざまな英知を結集して行動していくことが求められている。
また、来年は「部落解放基本法案」が1985年に提案されて40年となる。2016年以降、「部落差別解消推進法」や「ヘイトスピーチ解消法」「障害者差別解消法」「アイヌ民族支援法」「LGBT理解増進法」などの個別人権法が成立してきたが、いずれも理念法にとどまっており、人権侵害にたいする規制や救済措置といった踏み込みはきわめて弱い。
その背景には、自民党旧安倍派に代表される保守系議員や旧統一教会などの団体が掲げている国家観や家族観がある。家父長制へ回帰し、女性の人権を抑え込み、個人より「家」を尊重する社会をめざす考え方で、選択的夫婦別姓や同性婚、性教育を認めず、性の多様性はもってのほかという考え方である。このような考え方のもとに人権の法制度を理念法に押しとどめ、国際機関からの再三の勧告にもかかわらず、関係省庁も政権に忖度(そんたく)し人権政策を推進してこなかった。10月29日には国連・女性差別撤廃委員会から選択的夫婦別姓の実現や人権救済機関の設置があらためて勧告された。与野党伯仲のいまこそ、安倍政治が掲げてきた国家観や家族観を国会の場で正面から問うべきであり、個人の人権の尊重、選択的夫婦別姓をはじめ包括的な人権の法制度の確立をいまこそ実現させていくチャンスと捉えるべきである。
来年は「部落地名総鑑」差別事件が発覚してから50年にあたる。1975年、この差別図書の存在が明らかにされ、国会でも取りあげられ、労働大臣声明、12省庁の事務次官名で経済6団体に要請書が出されるなど大きな社会問題となった。部落解放同盟は購入した企業にたいして糾弾会をおこない、当時の企業の差別体質を問い、「統一応募用紙」採用運動をおこない、身元調査・就職差別撤廃のとりくみを展開してきた。その「部落地名総鑑」のもととなった資料が1935年に内務省の外郭団体がおこなった「全国部落調査」であり、この報告書の復刻出版を画策したのが鳥取ループ・示現舎である。鳥取ループ・示現舎はインターネット上に部落の地名や動画、人名をさらす行為をいまだに続けており、個人でも簡単に身元調査がおこなえる状態が野放しになっている。「全国部落調査」復刻版出版事件裁判では、東京高裁で画期的な「差別されない権利」が認められ、確定した。しかし、原告がいないとの理由で差し止めが認められなかった都府県が存在するなどの課題がある。5月に成立した「情報流通プラットフォーム対処法」の施行・本格実施を促し課題を明らかにするなかで、包括的な人権委員会設置にまで高めていかなければならない。また埼玉、新潟、大阪でスタートさせている「部落探訪」削除裁判闘争についても、鳥取ループ・示現舎の姑息な裁判引き延ばしを目的とした移送申し立てに屈することなく、裁判闘争の完全勝利に向け、まい進する決意である。
9月26日、袴田事件では再審無罪判決が出され、検察も控訴を断念、袴田巖さんの無罪が確定した。袴田事件ではえん罪を訴えて58年もの時間が経過、「再審法」の不備により、いたずらに裁判が長期化した。再審請求での検察官の証拠開示の義務化、検察官の抗告禁止、裁判所による事実調べの規定を盛り込んだ「再審法」改正の実現は司法の民主化には欠かせない。超党派の議員連盟での議論をすすめ、地方自治体での意見書の採択を促していく必要がある。狭山再審、事実調べを求める署名は昨年10月で52万筆が東京高裁に提出され、弁護団は石川一雄さんの有罪の決め手とされた万年筆について、検察庁にあるインク資料をもとに新たな鑑定を実施し、年内にも裁判所に提出することとしている。袴田事件に続き、石川無実の世論を大きく広げ、事実調べを実現し、再審開始―再審無罪判決をかちとっていこう。
来年は1965年に「同対審答申」が出されてから60年、1985年に部落解放全国委員会から現在の部落解放同盟に改称して70年となる。改称の目的は、「名実共に部落大衆を動員し、組織し得る大衆団体としての性格を明らかにし、そして真に全部落民団結の統一体として、解放闘争を飛躍的に拡大発展」させることであった。その後、「同対審答申」、「特別措置法」制定につながる国策樹立運動を本格的に始動し、労働運動、平和運動などと共闘の輪を広げ、大衆運動組織として発展してきた。2022年、中央本部は全国水平社創立100周年記念集会で発表した「部落解放同盟―新たなる決意」で、部落解放同盟を開かれた「未来志向の組織」に改革するとした。いま、全国の部落は少子化と高齢化の波が押し寄せ、貧困などの社会的困難を抱えた人々が集住している。部落を出ていく若者や家族が増加するなか、部落出身者のアイデンティティも激しく揺れ動いている。同盟員が減少するなか、属地属人の組織形態を基本としながらも、それだけでない、新たなネットワーク型の受け皿づくりの模索・とりくみの推進は喫緊の課題である。
1月に発生した能登半島地震、9月の豪雨・水害ではおびただしい被害や震災関連死が発生し、いまだに多くの人々が避難生活を余儀なくされている。来年はボランティア元年ともいわれた阪神・淡路大震災から30年を迎える。南海トラフ地震の発生も予測されるなか、私たちが住む地域を災害が襲ったときに問われるのは日常の地域活動・地域力である。部落に、さまざまな社会的困難を抱えた人々が多数暮らすいま、地域共生社会づくりをいかにすすめていくか、部落解放運動の真価が問われている。2025年を部落解放に向けた新たな展望を切り拓(ひら)く飛躍の年にするために、各地で全力をあげてとりくみをすすめていこう。
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