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NEWS & 主張

「全国部落調査」復刻版出版事件高裁判決確定で声明

「解放新聞」(2025.1.15-3125)

1 事件の概要と最高裁決定の内容

 2024年12月4日、最高裁判所(第3小法廷 平木正洋裁判長)は、いわゆる「全国部落調査」復刻版出版事件について、一審原告と一審被告の双方による上告を棄却し、上告受理申立てを不受理とし、当該事件についての東京高裁判決(2023年6月28日判決。土田昭彦裁判長)が確定することとなった。

 この事件は、出版社を名乗る「示現舎」(代表:宮部龍彦)が、「復刻版 全国部落調査」と称して全国の被差別部落の「部落名」や「現在地」などを一覧表にした書籍を出版しようとし、同書籍の電子データや「部落解放同盟関係人物一覧」などと称して個人の住所や電話番号・SNSのアドレスなどのプライバシー情報を承諾なくインターネット上に開示しダウンロード可能な状態においていたことに対し、原告ら合計249名が、①「復刻版 全国部落調査」の出版の禁止や上記データ類をインターネット上から削除することを求め、②「部落解放同盟関係人物一覧」のインターネット上からのデータ削除を求め、③原告1名あたり110万円の損害賠償を求めていた事件である(訴訟の経過とともに死亡した原告が生じたため最高裁の決定時には一審原告の数は235名となった)。

2 原告団・弁護団の最高裁決定に対する受け止め

(1)差別されない権利を最高裁判所が承認した点は歓迎する

 本件の東京地裁判決(2021年9月27日判決。成田晋司裁判長)は原告の権利侵害の内容について「差別されない権利」の侵害を認めず、主としてプライバシー権侵害が存在するものと判断した。

 これに対し東京高裁判決は、正面から「差別されない権利」が侵害されることを認め、しかも「差別されない権利」は憲法13条及び14条に由来することを宣言した。

 差別されない権利を人格権の内容として承認した判例は本件が初であり、最高裁が憲法に由来する一般的な権利内容として「差別されない権利」を承認したことは、すべての差別と闘う人士にとって画期的な成果であると言える。原告団・弁護団はこの点について歓迎する。

(2)東京高裁判決の緻密な分析と論理構成を最高裁が是認した点は評価する

 本件の東京高裁判決は、①部落差別の実態を詳細に分析し、②制度上の身分差別はなくなったにもかかわらずなお差別・偏見が残存していることは部落差別の根深さを示すものであると評価し、③部落差別はその後の人生に甚大な被害を与えることを認め、④インターネットの部落差別の特質(ネットは便宜さもある反面で誤った興味本位の情報もあり、インターネット上の情報に接することで新たな差別意識が生じかねない点)を踏まえ、⑤差別されない権利の侵害を認めるという、緻密かつ詳細な論理性をもって作成されている。

 この東京高裁判決を最高裁としても是認したことは、インターネットの発達に伴い、新しい形で部落差別が激化している現状を踏まえた適切な判断であると評価する。

(3)出版などの差止範囲を限定した点については厳しく批判する

 本件の東京地裁判決は出版差止の都府県の範囲を25都府県にとどめ、東京高裁判決はこれを31都府県に拡大したが、最高裁は更なる拡大を行うことを回避した。被差別部落の地名を晒すことはどの都府県であっても違法であるが、権利侵害を認める原告がいない都府県については差止の対象範囲外であるとする東京高裁判決の判断が維持されたことになる。

 しかしながら、差止対象から漏れた10の都府県において部落差別が生じないことはあり得ないし、都府県をまたいだ住所の移転も日常茶飯事であるから、最高裁の判断は硬直的で是認できない。インターネットは県境どころか国境すら軽々と超えて情報伝達をするのであるから、全国一律の出版差止を認めるべきであった。

 ただし、最高裁としても東京高裁判決が差止対象外とした10の都府県について被差別部落の地名を晒すことは違法と判断していることは広く認識されるべきである。

3 原告団・弁護団は今後も部落差別の解消に向けて奮闘する

 本件は最高裁決定により終了することとなるが、一審被告は東京高裁判決が出て以降も執拗に、手を替え品を替え、被差別部落の地名を晒すことに執着している。

 部落差別解消に立ち上がる人々は既に全国3つの地方裁判所(新潟、埼玉、大阪)で「部落探訪削除訴訟」を提起し、なお部落差別を煽り続ける一審被告らを追い詰める闘いを続けている。これらの闘いは一審被告をはじめ、部落差別を煽るすべての差別者に対して続けられるであろう。

 その一方で、本件判決は原告のいない都府県における差止を認めないことなど、個人の権利侵害が前提となる民事訴訟の限界を示した。なお部落差別をやめようとしない人が存在する以上、一般的な「差別禁止法」の制定が必要不可欠である。

 原告団・弁護団は、この世の中からすべての差別をなくすために本判決を活用し、今後も奮闘することを誓って声明とする。

 2024年12月10日

「全国部落調査」復刻版出版事件原告団・弁護団一同

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