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主張

 

就職差別撤廃の闘いを強化しよう

「解放新聞」(2025.05.25-3139)

 厚生労働省が発表した2024年平均の有効求人倍率は1・25倍で、前年に比べて0・06ポイント低下した。

 同年の月平均では、有効求人数は241万3695人で前年度から3・3%減、有効求職者数は192万9824人で1・1%増となった。
 今年3月の有効求人倍率(季節調整値)は1・26倍で、前月比0・02ポイント増加しているが、正社員の有効求人倍率(季節調整値)は1・05倍で前月比0・02ポイント増加しているものの、安定した生活への基盤といえる雇用情勢は厳しい状況が続いている。

 新規求人数は前年同月比で3・0%減となり、産業別でみると、情報通信業(8・2%増)、宿泊業・飲食サービス業(3・3%増)で増加となり、卸売業・小売業(7・7%減)、生活関連サービス業・娯楽業(6・9%減)、教育・学習支援業(6・2%減)などで減少となった。インターネットを活用した流通や娯楽、学習支援の拡大、訪日外国人の増加による需要拡大のためとみられる。

 こうした厳しい雇用情勢のなか、厚労省のとりまとめでは、求職者の個人情報の取り扱いを定める「職業安定法」5条の5(求職者等の個人情報の取り扱い)に違反となる面接時の不適切な質問や不適切な項目を含む社用紙等の提出を求めるなどの「差別につながる恐れのある事象」は23年度には全国で745件の事業所が報告されている。

 一方、新規大卒求人倍率は求職者の売り手市場が続いている。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、24年卒が1・71倍、25年卒で1・75倍、26年卒で1・66倍と高水準を維持している。

 こうした売り手市場のなか、企業は人材確保のためにも公正な採用選考実現のとりくみを構築することが重要だ。とくに「公正採用選考人権啓発推進員」の真の役割として、「職業安定法」5条の5に違反しないよう社内研修を実施したり実態を把握し解決するためにハラスメント相談窓口の設置をしたりするなど、あらためて法令遵守のためのとりくみをすすめることが求められている。また、採用選考のさいに、SNS・裏アカウント調査をおこなう事業所が増加している。SNS・裏アカウント調査では、公正な採用選考をおこなうための、収集してはいけない個人情報も意図せずに収集してしまうため、周知啓発の強化を求めるとともに、ガイドライン等の制定を求めていかなければならない。さらに採用選考の実態を把握するために、厚労省が「就職活動をしている大学生・短期大学生・専門学校生」を対象にインターネットで実施している「公正な採用選考に係るアンケート調査」の周知と結果にたいするとりくみを求めていく必要がある。

 「全国高等学校統一用紙」(「統一応募用紙」)や「履歴書・エントリーシート」等の応募用紙についてのとりくみも重要だ。このとりくみは、部落解放同盟の就職差別反対の闘いからおこった。それに共鳴する教師などの奮闘もあり、1970年に近畿や広島で実現し、73年に全国化したものだ。以降、新規高卒者の就職応募書類は「統一応募用紙」、新規中卒者は「職業相談票(乙)」を使うように、厚生労働省・文部科学省を中心に指導されるようになった。またその後、大卒者についても応募用紙の「参考例」が示され、「統一応募用紙」と同様の趣旨の徹底がはかられている。これらのとりくみは、部落差別はもとより、家庭環境・資産や家族関係による差別、親の職業などによる差別、思想信条による差別など、さまざまな差別に結びつく個人情報の収集を許さないとりくみとして前進してきた。

 そして99年の「職安法」改正では「求職者の個人情報の取り扱い」が明記され、労働大臣指針が定められ、その法的裏づけができた。しかし課題は山積している。2020年7月、セクシャルマイノリティ当事者を支援する団体から、厚生労働省や日本規格協会(JIS)等にたいして性別欄の削除など、履歴書様式の検討を求める要請がおこなわれ、日本規格協会が示していたJIS規格の履歴書の様式例が削除された。これを受け、厚生労働省は公正採用選考をすすめるうえで参考となる履歴書様式を定めて公表し、使用を推奨している。しかし、削除されるべき性別欄は選択式から記載式に変更されたにすぎず、カミングアウトの強要など、問題が残っている。そして今年度から高校卒業者が就職活動に使用する「統一応募用紙」の改訂がおこなわれた。生徒が記入する履歴書の性別欄、教員が記入する調査書の身体状況欄が削除されたことは評価できるが、履歴書の写真貼付欄、調査書の性別欄が残ってしまったことは残念でならない。日本も加盟しているILO(国際労働機関)の111号条約「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」の批准を目標に、応募用紙の改訂を求めていく必要がある。

 就職差別をなくすために労働組合の役割も大きい。企業や事業所の内部からチェックするとりくみも大切だ。また、労働者の権利を守り、差別や人権侵害のない職場をつくるためにも、採用という雇用関係の入り口で、差別を許さないことが重要だ。

 部落解放中央共闘会議と全国共闘は、毎年6月を就職差別撤廃月間と位置づけ、リーフレットを作成し啓発活動にとりくみ、職場での点検活動をよびかけている。また、各府県共闘会議では、労働局や府県行政・教育委員会などにとりくみ強化の申し入れをおこなっている。

 連合が23年に実施した、近年入社試験を受けた人を対象としたアンケート調査では、応募書類やエントリーシートで「本籍地や出生地」の記入を求められたとの回答が43・6%にもおよぶなど、課題山積を再認識させられる実態を明らかにした調査結果を公表している。こうしたとりくみをとおして、各地で共闘会議や連合との連携を深め、就職差別撤廃のとりくみを強化していこう。

 就職差別撤廃とともに、安定した雇用を促進していくとりくみも重要だ。地域での生活相談とあわせて職業相談活動を充実させる必要がある。

 「生活困窮者自立支援法」にもとづく「自立相談支援事業」を活用し、就職困難者の自立を支援していくことや、「ハローワークの求人情報のオンライン提供」を活用し、隣保館などでの職業相談活動を充実させていくことも大切だ。また、ハローワークなどとの情報共有を強化し、困窮者に有用な情報や施策を積極的に使えるよう求めるとともに、「部落差別解消推進法」の具体化として、隣保館がない地域でもハローワークや自治体などと連携を密にし、隣保館活動の実施と充実を求めていくとりくみが重要だ。

 この間、政府与党が推しすすめた労働法制は不安定雇用を増長させ、格差拡大と貧困化をすすめた。

 厚生労働省は「国民生活基礎調査」をもとに相対的貧困率を公表した。OECD(経済協力開発機構)が公表している各国の貧困率と比較すると、G7(主要7か国)のなかで、日本はもっとも貧困率が高い結果となった。今日、6・5人に1人が貧困にあえぎ、ひとり親世帯では半数近くが貧困に苦しんでいる。不安定かつ低賃金の労働者が増え続ける現状も方向転換させなければならない。

 そのためにも、差別と戦争に反対し、労働者と環境を守る社会を実現するために、連携してとりくみをすすめよう。

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