「解放新聞」(2025.07.15-3144)
昨年の衆議院選挙では与党議席が過半数割れとなり、自民一強時代に終止符が打たれ、いわゆるどの政党も過半数をとれないハング・パーラメント(宙づり議会)の状態に陥った。国会運営は一変し、「熟議の国会」へとの期待が高まったものの、現実にはその期待が裏切られる結果となった。
石破政権下での物価高騰は家計を直撃し、とりわけ米価や生活必需品の値上がりが止まらず、政権の対応は2万円の一律給付を打ち出すにとどまり、有効な手立てが打てていない現状にある。少数与党である石破政権は、国民民主党や日本維新の会との協力により2025年度予算を成立させたが、政策ごとの協調と対立の使い分けが野党間に亀裂を生んだ。野党第一党・立憲民主党も連携の軸となりきれず、部分連合にとどまり、結果的に与党に「宙づり議会」を乗り切られる格好となった。重要政策がつぎつぎと先送りされるなか、「熟議」の成果は十分に得られない結果となった。
部落解放同盟は今国会の開会にあたり、①「再審法」改正②選択的夫婦別姓法の成立③情報流通「プラットフォーム対処法」の即時具体化④国内人権機関の成立に向けた与野党協議機関の設置を要望してきた。
与党・自民党が衆院選で敗北したのは、自民党派閥の裏金問題が原因であり、政治改革をやりとげることが政権の責務であったはずである。3月までに結論を得るとの与野党合意はほごにされ、石破首相が自民党議員に商品券を配布していたことも発覚、政治不信が払拭されず企業団体献金の禁止も先送りされた。
また、1997年いらい28年ぶりに衆院法務委員会で審議入りした野党案の選択的夫婦別姓法案も、保守派に配慮した自民などが採決に難色を示したため継続審議となった。「再審法」改正にいたっては、338人という国会議員の半数以上が加盟する超党派議員連盟が発足し野党が改正法案を提出するも、法制審での議論・結論をふまえるとの自民の後ろ向きな姿勢により、これも継続審議となった。私たちの長年の悲願である人権侵害救済法や差別禁止法の制定に向けた議論も先送りとなり、第217回通常国会は閉会した。
一方、石破政権のもとでも政治・政治家の劣化ともいえる到底看過できない事態・発言が発生している。自民党・石破茂首相はあろうことか、参議院選挙比例代表候補者として、たびたび差別的言動をくり返してきた杉田水脈・元衆議院議員を擁立した。LGBTQ+のカップルは子どもをつくらないため「生産性がない」などと寄稿、国連女性差別撤廃委員会に参加したアイヌ民族や在日コリアンのマイノリティ女性たちを「民族衣装のコスプレおばさん」「小汚い」「日本国の恥さらし」などと誹謗・中傷し、札幌と大阪の各法務局が23年、人権侵犯に該当すると認定、政務官を辞任することにつながるも、人権侵犯の認定を受けたこと自体を否定し、公然と開き直る発言を続けている人物である。石破首相は一連の差別発言にたいして「強烈な違和感を持っている」と語りながら、候補者としての公認は「最終的に私が判断した」と3月の参議院予算委員会で回答している。保守層の票欲しさに人権侵犯認定された人物を公認するという、石破総理自身の人権意識そのものが問われている。
また、今年5月3日、西田昌司・参議院議員が那覇市でひらかれた「憲法シンポジウム」で、ひめゆりの塔の展示について、「説明を見ていると、要するに日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆり隊が死ぬことになった。そしてアメリカが入ってきて沖縄は解放された。そういう文脈で書いている。歴史を書き換えられるとこういうことになっちゃうわけだ」さらに「沖縄は地上戦の解釈を含めて、かなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている」とも発言。これにたいしてひめゆり資料館館長は「一方的に日米のどちらが正しい、悪いという展示はない。ないことをあるようにいっている」と批判。西田議員への抗議決議は沖縄県議会や県内の市町村議会であいついで可決され、西田議員の地元の京都市議会も同様の決議を可決した。西田議員は発言を一部撤回し謝罪したが、のちに月刊誌への寄稿で発言内容について「事実を語った」と主張。展示は「日本軍は悪、米軍は善という東京裁判史観が最も深く沈殿している」とした。ひめゆり学徒隊は看護要員として軍に動員された女子生徒や教師だ。死亡した136人の8割超は軍の解散命令を受けたあと、戦場に放り出される形で犠牲となった。西田議員の発言は沖縄の実相を反映しておらず到底、受け入れられるものではない。このような歴史的事実をゆがめようとする動きが過去からくり返されてきたが、政治家の発言として許されるべきでないことは明白である。
近年、SNSの選挙での影響力が増し、選挙の当落がSNSによって決められるといっても過言ではない時代に突入している。昨年7月の東京都知事選挙で石丸伸二・前広島県安芸高田市長がショート動画を駆使してSNS上で支持を拡大した「石丸現象」が話題となり、立憲民主党の蓮舫候補を上回る165万票を獲得、2位に躍進し、現職との票差を縮めるという驚きの結果となった。さらに圧倒的な衝撃を与えたのが24年11月の兵庫県知事選挙で、パワハラ疑惑で各会派から非難を受け、全会一致の不信任案が可決し失脚した斎藤元彦・知事が111万票を得て圧勝、再選を果たしたことだ。斎藤知事を支援する当選をめざさない候補者=NHK党の立花孝志・候補まで登場し、「斎藤知事のパワハラはマスコミのねつ造であり今回の失脚劇は斎藤知事がすすめた改革にたいする既得権益層が起こしたクーデター」との陰謀論的情報をSNSで拡散、情報量で旧来メディアを圧倒し、有権者の多くがこうした動画サイトなどの情報を信じ、投票行動に大きな影響を与えたとする調査結果も出ている。
SNS選挙が選挙の投開票に大きな影響を与える昨今、「対立構図の先鋭化」「社会の分断」を加速させる負の影響をもたらしている。「改革VS既得権益」という対立をあおり、敵をつくっては徹底的に攻撃することで過激な対立を激化させる。極端でセンセーショナルなメッセージの拡散、またフェイク情報も加味され、選挙期間中という短期間で候補者にたいする誤ったイメージ、情報が拡散、いわば「言った者勝ち」の風潮がSNS上に蔓延(まんえん)している。その後の第三者委員会の調査で多くの疑惑が認定されるも、本人は一貫して否定し続けており、もはや斎藤知事再選の正当性そのものが問われる事態となっている。7月20日投開票の参議院選挙でもSNSの影響が危惧されるなか、誹謗中傷・フェイク対策、人権侵害の防止対策も含めたSNS選挙のあり方が問われており、情報リテラシーの向上と一定の法規制も含めた対応が求められている。
参議院選挙に大きな影響を与えると注目された今年6月の東京都議会議員選挙で、政治とカネ、長引く物価高への不満等から自民党は大敗した。今回の参議院選挙は政権選択選挙に匹敵する重みがあり、改選定数は124議席(選挙区74議席、比例代表50議席)、東京選挙区・欠員1議席を加えた125議席が争われる。
参議院選挙の勝敗を左右する32の「一人区」については、その半数で主要野党が競合し政権批判票が割れかねない状況にあり、候補者調整が不十分で一丸となりきれていない。与党(自民・公明)が50議席を割るかどうかが、参議院での過半数維持の試金石となる。
7月3日公示、7月20日に投開票が予定されている参議院選挙では、部落解放同盟中央本部として、比例代表で小沢雅仁(JP労組)、岸真紀子(自治労)、水岡俊一(日教組)、森屋隆(私鉄総連)、吉川沙織(情報労連)、大椿裕子(社民党副党首)の6人を推薦している。さらに各都府県連では連携政党・政治家による候補者の推薦も決定済みである。人権と平和、民主主義、環境の確立をめざす政治勢力の結集に向け、推薦候補の必勝に全力をあげてとりくむべきときである。
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