pagetop

NEWS & 主張

主張

 

中央福祉学校に参加し、人権と福祉を軸にした
地域福祉運動を前進させよう

「解放新聞」(2025.11.15-3156)

 厚生労働省社会保障審議会障害者部会(以下部会)が6月26日におこなわれ、知的障害児・者の療育手帳について、統一化に向けた議論の場を設けることが確認された。

 療育手帳には根拠法がなく、1973年9月27日に出された厚生労働省事務次官通知「療育手帳制度について」(厚生省発児第156号)にもとづき、各自治体で運用されている。そのため、自治体によって判定方法や認定基準等にばらつきがあり、他の自治体への転居等で判定が変更になり、これまでのサービスが受けられなくなるなどの問題が起こっている。療育手帳の統一化をめざして調査研究をすすめるよう、これまでの部会においても言及されてきた。2022~24年度におこなわれた調査研究では、療育手帳の判定ガイドラインを策定し、療育手帳の交付を判定するための知的機能、適応行動の評価の基準となる検査ツール「ABIT―CV」を開発した。今年度から3年間の調査研究のなかで、モデル自治体での試行を実施予定としている。

 療育手帳制度を全国統一的な制度にすることは重要である。しかし、さまざまな課題があり、しっかりとした検討や議論が必要であるとして、今後のスケジュールも明確に示されておらず時間がかかりすぎている。いままで受けることができていたサービスや助成制度が使えなくなる、判定が実態に沿わないなど、本人や家族の不利益となることがあってはならないが、現行の制度で不利益を被っている人もいる。課題の検討と同時に、明確なスケジュールの提示の周知と早急な制度確立が必要だ。

 厚生労働省は3月5日に、2024年の生活保護被保護者調査の結果を発表した。申請件数が5年連続で増加し、受給世帯の半数以上が高齢者世帯でそのうち単身世帯が9割以上を占めていたことがわかった。しかし、受給者の捕捉率は2割から3割と低く、支援が必要な人の多くが制度を利用できていない実態がある。緩和されたにもかかわらず、いまだに申請の条件であるかのように伝えられていることもある扶養照会。一定の条件下で認められるにもかかわらず、保有禁止だけを周知している面のある車の保有。近年でも違法な運用が発覚している窓口での申請を受け付けない水際作戦などが背景にあるとされている。さらに、12年頃から過熱している生活保護バッシングや、今年の参議院議員選挙における外国人の生活保護受給に関するデマ、ヘイトスピーチなどにみられるように、生活保護に関する偏見や差別が生活に困窮する人々を制度から遠ざけている。

 また、生活保護基準引き下げ訴訟では、国がおこなった2013~15年の生活保護基準の大幅な引き下げは違法であるという最高裁判決が6月27日に出された。原告は、謝罪と減額分の補償を求めているが、この数か月間、専門委員会をひらき検討をしながらも、国の対応は遅々としてすすんでいない。生活保護制度が、憲法第25条で保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営むための最後のセーフティネットとして機能していないといわざるを得ない。この制度は戦後の混乱期に新「生活保護法」が制定され、一部改正されながらも現在まで続いている。当時と現代とでは社会情勢や環境、人々の価値観なども大きく違う。近年は、物価高騰や災害級の暑さによって、いのちと生活が守れない生活保護受給者も少なくない。さまざまな省庁で熱中症対策が打ち出されるなか、生活保護世帯ではエアコンがない、壊れているが修理できない、エアコンがあっても電気代を支払えないから使用していない、といった健康を脅かしている状況がある。

 現在、新規申請での保護開始時や一定の条件を満たす場合は、エアコン購入費が支給されるが、受給中の場合は支給されない。自治体で独自に対応しているところもあるが、ごくわずかな自治体のみである。いまやエアコンは生活必需品といっても過言ではないにもかかわらず、ギリギリの生活のなか、保護費のやりくりで費用を捻出することは事実上不可能である。また、社会福祉協議会の貸付で購入しても返済できないといった状況もあり、憲法第25条の「健康で文化的な」の部分が置き去りにされているとともに、「最低限度の生活」すら営むことが困難な状況である。エアコン購入・設置費の柔軟な支給と夏季加算の創設を早急に求めていかなければならない。

 今年12月、民生委員・児童委員の改選がおこなわれる。各自治体で候補者の推薦等のとりくみがすすめられるなか、履歴書・推薦書などに本籍地や家族欄の記入が求められる様式が確認された。かつての社用紙とまではいわないが、何十年も改正されないまま現在も使用している自治体も少なくない。地域共生社会の実現に向けて、民生委員・児童委員の果たす役割は大きく、「公正・公平」「基本的人権の尊重」を重視している民生委員・児童委員の推薦にあたって真に必要な項目であるのか総点検し、必要な改正をおこなう必要がある。

 虐待や孤独・孤立、貧困、生活困窮、障害者支援など、地域福祉の課題は拡大し複雑化・多様化している。部落内外を問わず、すべての人が排除されることなく、互いを尊重し、いのちと生活を守る地域福祉運動として全国各地ですすめてきた「人権のまちづくり」運動は、国の掲げる「地域共生社会」の実現そのものであり、「重層的支援体制整備事業」は、各支部や隣保館でとりくんできた活動そのものである。削減されつづける社会保障費ではあるが、誰もが社会から排除されることなく、その人がその人らしく生きることのできる社会保障制度を求め、運動のなかで培ってきたノウハウや成果を生かし地域福祉運動を展開していこう。

 12月20~21日の2日間、第31回中央福祉学校を愛知県名古屋市の「全労済金山会館ワークライフプラザれあろ」でひらく。各地の実践や課題を持ち寄るとともに、人権と福祉の課題を学び、連携を強化し、すべての人が排除されることなく、いのちと生活を守る地域福祉運動を大きく前進させよう。

「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)