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「解放新聞」(2025.12.25-3160)
現在、世界の民主主義は著しい後退の局面にある。権威主義国家の数が民主主義国を上回り、世界人口の約72%が権威主義体制下にあるとされるなか、選挙の公平性の低下、司法やメディアの独立性の侵食、そして市民社会への締めつけは厳しさを増している。トランプ大統領の「自国第一主義」政策による関税問題をはじめ、移民排斥や右翼政党の台頭は、世界的な分断と対立をますます激化させている。経済格差も極限に達し、国際NGOオックスファムの指摘によれば、世界人口の約半数にあたる37億人超が貧困に苦しむ一方で、最富裕層1%が2015年以降の10年間に約4895兆円もの富を得ているという。この不条理な現実にたいし、富裕層への増税を含む是正措置は不可欠だ。
世界は戦火に覆われている。ロシアによるウクライナ侵略戦争は4年を迎えようとしている。停戦に向けた働きかけはあるが、戦闘は長期化し、女性や子どもを含む死傷者は推計140万人を超え、終結の道筋は見えていない。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への軍事行動については、一時的な停戦合意が10月に発表されたが、イスラエルは攻撃をつづけており、課題は山積している。さらにスーダン内戦やイラン・イスラエルの衝突など、各地で紛争が勃発している。第2次世界大戦前夜の様相と酷似し、第3次世界大戦勃発の危惧さえ現実味を帯びている。
第2次世界大戦の反省のうえに創設された国連が80年を迎えた本年、人類は戦争を止めることができないジレンマに陥っている。いまこそ「世界人権宣言」の精神に立ち返り、人権や平和に根差した国際秩序を確立するために、日本が積極的な役割を果たすべきだ。
国内の政治情勢は、流動的で混沌(こんとん)としている。24年10月の衆院選、本年7月の参院選で石破政権は過半数を維持できず退陣し、10月に高市政権が発足した。26年間連立を組んだ公明党が離脱し、日本維新の会と新たに閣外協力を結ぶなど、政局は予断を許さない。
こうしたなか、外国人排斥などを叫ぶ差別排外主義勢力が台頭し、物価高騰に賃上げが追いつかない市民生活の困窮にたいし、政治は有効な手立てを打てずにいる。さらに憂慮すべきは、「非核三原則」(核を持たず、作らず、持ち込ませず)の見直し検討の表明や、防衛費2%目標の前倒し、「台湾有事」を存立危機事態として集団的自衛権の発動可能性を示唆するなど、政権が中国との緊張を高め、「戦争ができる国」へと突きすすむ危険な動きだ。
高市政権は、安倍政権の方針を継承し、人権の法制度については、「個別法・理念法」での対応に固執しており、包括的な人権救済制度や差別禁止法の制定に否定的な姿勢を明確にしている。
来(きた)る26年は、1996年の「地域改善対策協議会・意見具申」から30年の節目となる。同「意見具申」は、部落差別が現存する限り、同和問題の早期解決をめざす行政を積極的に推進しなければならないことを指摘し、人権教育・啓発の推進、人権侵害の被害者救済、一般対策への移行を打ち出した。また、26年は、「部落差別解消推進法」の制定から10年を迎える年である。同法は、部落差別の存在を明確に認め、情報化・ネット上の差別への対応を指摘した点で画期的だが、理念法にとどまり、インターネット上に部落の所在地をさらす行為を禁止する効力を持ち得ていない。
一方、本年、「情報流通プラットフォーム対処法」が本格施行され、ガイドライン策定や専門員選任、削除要請への迅速な対応などが大手9事業者に義務づけられた。しかし、削除要請は本人申請が原則となっており、事業者ごとの対応のばらつきや不備が早くも露呈している。①申請方法がきわめて難解②被害者が対象事業者のアカウントを取得しなければ申請できない③申請が同法にもとづいて処理されているか確認できない④第三者による削除要請が受け付けられるか不明確⑤行政など公的機関による専門窓口が未整備など課題が山積している。われわれは、同法附帯決議にある第三者委員会設置に向け、法の不備やプラットフォーム事業者の不十分な対応などの「立法事実」を積みあげなければならない。与野党の議連への働きかけやロビー活動、国会質疑を強化し、「部落差別解消推進法」の抜本的な強化・改正につなげなければならない。
「全国部落調査」復刻版出版事件裁判については、「差別されない権利」を認めた東京高裁の勝訴判決が、昨年12月の最高裁決定で確定した。提訴から8年を要し、31都府県での出版禁止と計550万円の賠償は認められたが、原告不在県について削除が認められなかったことは課題だ。さらに被告らは、15年に開始した「部落探訪」動画について、ユーチューブ(YouTube)による削除措置(約200本)を受けるや、有料動画サイトを立ちあげて公開を継続している。部落の所在地や個人情報をインターネット上にさらし、誰もが容易に身元調査をおこなえる状態を野放しにすることは断じて許されない。12月9日現在、大阪、埼玉、新潟で「部落探訪」削除訴訟を闘っている。かならず勝利し、包括的な差別禁止法の制定につなげていかなければならない。
狭山事件では、60年以上えん罪・再審無罪を叫びつづけた石川一雄さんが、無念にも3月11日、86歳で亡くなった。遺志を継ぎ、パートナーの石川早智子さんが第4次再審請求を申し立てている。鑑定人の証人尋問と再審開始を求める「新100万人署名運動」は、すでに21万5303筆を東京高裁に提出した。さらにとりくみをすすめ、なんとしても再審無罪判決をかちとり、石川一雄さんの無念を晴らさなければならない。
国会では、袴田事件再審開始決定を受け、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が昨年結成され、野党6党が6月に法案を提出した。法制審議会での議論については、証拠開示の範囲をめぐり、政府内では限定的な案が有力視されるなど、予断を許さない状況だ。地方議会の「再審法改正を求める意見書」採択は778議会、知事・市区町村長の賛同も246人(10月1日現在)と世論は着実に広がっている。えん罪被害者を二度と生み出さないためにも、議連法案での「再審法」改正を実現しなければならない。
来る26年は、戦後の焼け野原から全国水平社の歴史と伝統を継承して「部落解放全国委員会」が1946年に京都で結成されて80年の節目にあたる。全国委員会は、「オール・ロマンス差別事件」を契機とした行政闘争を展開し、戦後の大衆的な部落解放運動の基礎を築き、「同対審答申」や「特別措置法」の制定へとつながる国策樹立運動をけん引した。
また、70年前の1956年には、第1回の部落解放全国女性集会(当時は「全国婦人集会」)が京都でひらかれ、全国から約1000人の女性たちが結集した。当時は「涙を怒りに変えて」「女性が変われば部落が変わる」を合言葉に、差別と貧困からの解放をめざし、女性が部落解放運動の大きな原動力となっていった。
これらの部落解放運動の歴史をふまえつつ、22年の全国水平社創立100周年記念集会で示した「未来志向の組織」への改革は、待ったなしの課題だ。今日、部落には少子高齢化の波が押し寄せ、貧困や複雑な社会的課題を抱えた人々の集住という困難に直面しており、同盟員の減少にも歯止めがかからない。従来の「属地属人」の組織形態を基本としつつも、地区外に居住する出身者や、部落にアイデンティティを持つ人々の不安や悩みに寄り添い、多様なニーズに応える「新たなネットワーク型の受け皿づくり」に向け、同盟組織のあり方も含めた抜本的改革を推進する必要がある。
来る26年を、部落解放同盟の組織のあり方について本格的な議論をスタートさせ、部落解放に向けた新たな展望を切り拓く飛躍の年とするために、各地で全力をあげ、部落解放運動を力強く推進していこう。

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