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さいたま地裁判決をふまえ、「部落探訪」全面削除の闘いをすすめよう

「解放新聞」(2026.1.25-3163)

 全国各地の被差別部落に潜入して写真や動画を撮影し、そこが被差別部落であることをさらしつづけているM(鳥取ループ、示現舎)の「部落探訪」にたいして、大阪、埼玉、新潟で削除訴訟にとりくむなか、昨年12月17日、さいたま地裁第2民事部(関根規夫・裁判長)は、県内全28記事(14市町27の地域)の削除を命じる判決を出した。原告として求めていた結果を得たという意味では、ほぼ全面勝利といってよい内容だ。被告の行為は「被差別部落及び被差別部落に関連する人々に対する差別意識を増幅又は助長」するものであり、被告は「差別意識を煽(あお)る目的をもってした行為」と、さいたま地裁は厳しく弾劾した。

 これから大阪と新潟でも判決が出される。勝利するため、また、判決をふまえて全国すべての「部落探訪」を削除するため、裁判闘争を支援するとともに、鳥取ループにたいする糾弾闘争を全国各地ですすめよう。

 さいたま地裁では、「部落探訪」が差別を助長するかどうか、差別性、違法性が争われた。

 埼玉県連は、「被差別部落をさらすこと自体が差別を助長する」と主張したが、Mは「部落探訪はたんなる風景や街並みを写したもので、差別を助長するものではない」とひらき直った。

 さいたま地裁は、被告は「東京法務局長の書面による説示を受けてもなお継続して本件各記事を公開している」と指摘し、「本件各記事の公表が被差別部落及び被差別部落に関連する人々に対する差別意識を増幅又は助長し得ることを認識して記事を公表している」と厳しく批判した。また、Mの行為は「差別意識を煽る目的をもってした行為であると認められる」と差別性、悪質性を認定した。

 また、さいたま訴訟では、「部落探訪」を削除する範囲が大きな争点になった。県連は、動画自体が差別を助長するものだから「全部の動画を削除しろ」と訴えたが、裁判所が全部の削除を認めるかどうかだ。先立っての「全国部落調査」復刻版出版事件裁判では、東京高裁は、41都府県の地名リストのうち、原告が出ていない10県の差し止めを認めていなかった。

 さいたま地裁は、熊谷市の個人原告を基点にして、訴えていた県内すべての地域の動画の削除を命じた。インターネットの特性から、「部落探訪」のどれかを検索すれば、ほぼすべての動画が「芋づる式」に出てくるので、見る人がつぎつぎとほかの動画を見る恐れが強く、個人原告の権利を守るためには、県内すべての動画を削除する必要があると判断した。

 もう一つの争点は、団体としての県連が、差し止めの主体になり得るかどうかだ。県連は、県内の被差別部落の住民から削除の裁判を依頼されている「任意的訴訟担当者」の立場にあると主張した。「任意的訴訟担当者」とは、当事者から委任を受けて裁判を起こすことが認められている者という意味だ。

 県連は、動画にさらされた県内全域の被差別部落住民から委任を受けており、委任を受けた代表者(任意的訴訟担当者)だと主張した。しかし、裁判所は、支部員から自分たちの代わりに裁判をしてくれという委任があったと認められるだけの事実関係がないと判断し、県連を代表者とは認定しなかった。

 また、県連は、Mが原告のプライベートな情報をネットに公表していることを恐れて原告になることをためらう人が多いため、県連はそれらの住民の代わりに代表として裁判をする必要性があると主張した。この点について裁判所は、Mがしていることや、そのために個人での訴訟提起が難しいことは認めながらも、「申立人の住所、氏名等の秘匿の申立制度(当事者識別情報秘匿制度。民事訴訟法133条以下)が整備・施行された」を理由に、代表の資格を認めなかった。

 さいたま地裁判決には、大きな意義が二つある。

 一つ、一番大きな成果は、全部の削除を命じたことだ。復刻版出版事件裁判では、東京地裁も東京高裁も原告がいない県の差し止めを認めなかった。しかし、さいたま地裁は全部の削除を命じた。さいたま地裁判決によって今後はほかの都府県でも、都府県連のほかにさらされている地域で原告を一人立てれば全部の地域の「部落探訪」を消せるという展望が切り拓(ひら)かれた。

 もう一つの意義は、「部落探訪」が差別を助長・拡大するものであること、また、Mが差別を助長する目的をもってしていることをはっきりさせた。さいたま地裁は、「被告の行為は、差別意識を増幅させ、差別行為を助長させる」と厳しく批判し、東京法務局長の説示を無視するMの行為は「差別意識を煽る目的をもってした行為」と弾劾した。これも大きな成果だ。

 しかし、判決には問題点もある。一番大きな問題は、県連が被害者の代表として原告になることを認めなかったことだ。裁判所は、被害者が県連に訴訟をしてくれという依頼を直接していないと言うが、県連には、県内の被差別部落住民を代表して削除を求める裁判を起こす資格と責任がある。このような事件で県連が同盟員を代表して訴訟の主体となれないのなら、いったい何のために活動しているのだということになる。

 二つ目は、損害賠償の額だ。さいたま地裁は、違法なMの行為により個人原告に「精神的苦痛に応じた損害が生じている」としたが、損害賠償額は、たった11万円だ。この少額では、Mに「もう二度とこのような行為はしないほうがよい」と反省させることはできない。「不可逆的な損害を生じさせる」「侵害の程度は深刻」と言うなら、もっと賠償させるべきだ。

 さいたま地裁の判決をふまえて、当面つぎのとりくみをおこなおう。

 一つ目には、現在進行中の大阪訴訟、新潟訴訟の完全勝利のために、いっそうの支援を訴えたい。

 二つ目には、さいたま地裁判決をふまえ、Mを糾弾する「部落探訪」削除訴訟を全国各地で起こそう。

 三つ目は、差別を禁止する法律の制定だ。裁判には勝ったが、差別行為を厳しく処罰する法律の制定が必要だ。法律制定については、包括的な差別禁止法が提唱されているが、差別禁止法はかなりハードルが高い。そこで、包括的な差別禁止法の制定運動と並行して、部落差別禁止法の整備を提唱したい。この場合、もっとも現実的な選択肢は「部落差別解消推進法」の改正だ。「部落差別解消推進法」を改正し、差別行為の禁止と、厳しい罰則を科すことを当面の目標としたい。

 なお、法律改正と並行して、各地の「条例」制定を急ぐことも大きな運動課題だ。鳥取県では、罰則つきの「県条例」ができた。各地で制定をすすめよう。

 ところでMは、2016年に被差別部落の全国地名リスト「全国部落調査」の復刻版を出版しようともくろみ、中央本部は、東京地裁に出版の差し止めとインターネットからの削除を求めて裁判を起こした。21年9月27日、東京地裁が「地名の公表は違法」という立場から出版の差し止めとインターネットからの削除を言い渡し、23年6月28日には、東京高裁も、出版の差し止めとインターネットからの削除を命令する判決を言い渡した。とくに東京高裁は、「差別されない権利」を実質的に認め、被差別部落の地名公表は「不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益」を侵害するものだという画期的な判決を出した。

 今回、さいたま地裁は「差別されない権利」そのものは認めていないが、東京高裁が判決で認めた「不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益」があることは認めた。さいたま地裁の判断については今後検討しなければならないが、Mの行為の差別性、違法性は、各裁判で着実に認められている。成果を積みあげ、差別を禁止する法制度確立につなげることがもっとも重要な課題だ。そのことを確認し、「部落探訪」完全削除に向けて全国各地で糾弾闘争をすすめよう。

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