
![]()
「解放新聞」(2026.3.5-3168)
部落解放同盟第83回全国大会を3月18、19日、東京都港区のニッショーホールでひらく。今年12月に「部落差別の解消の推進に関する法律」(以下「部落差別解消推進法」)が制定・公布されて10年になる。包括的な人権の法制度と人権が確立された社会の実現へ向けた具体的な運動づくりへ、全国から参集する全代議員の活発な討議で大会を成功させよう。
昨秋、高市政権が誕生し、今年2月の総選挙での自民党の圧勝。私たちと政策協定を結んだ推薦候補のほとんどが惨敗という結果となった。「高市フィーバー」と、それと表裏一体のように発生したSNS上の激しい対立や攻撃的な言説が吹き荒れた。特定の政治的傾向が人権課題、とりわけ部落差別の解消にどう影響するか―といった懸念を抱かざるを得ないのが正直なところであろう。現代の政治は、デジタル空間によって「加速」と「分断」が同時に起きる、きわめて難しい局面を迎えているといっても過言ではない。
私たちは、これをたんなる「タカ派・ハト派」等の議論のみに終始させてはいけない。人権は、すべての人の普遍的な課題であるからだ。あらためて部落差別の今日的な現実を直視して、その解決に向けた人権政策課題へと押しあげていくことが大事である。高市政権の掲げる「強い日本」や「経済成長」にたいし人権課題を提起して、実効性のある政策提案をおこなっていく必要がある。
第1に、包括的な人権法制度の確立である。安倍政権以降「個別の人権法で対応する」のであれば、「部落差別解消推進法」の強化・改正をめざし、部落差別の根絶に向けた法的枠組みについて整備を求めていかねばならない。一つ目は、部落差別を固定化・再生産する行為にたいして裁判闘争を継続し、差別禁止法の制定をめざす。二つ目は「情報流通プラットフォーム対処法」にもとづいた削除要請運動である。なかでもインターネット上で氾濫している「被差別部落の所在地情報(識別情報)の摘示」について削除を求める運動を地道に積みあげながら、ネット上の差別情報への対応強化と実効性ある禁止措置を求めていきたい。
一方、地方自治体レベルでも、差別禁止規定を設けるために「人権尊重に関する条例」(以下「人権条例」)等を改正したり、「インターネット上の誹謗中傷や人権侵害を防止する条例」(以下「ネット上の差別防止条例」)等を制定したりする動きがすすんでいる(都道府県では人権条例22都府県、部落差別解消に関する条例8府県。市町村では人権条例383、部落差別解消に関する条例144、ネット上の差別防止条例15。一般財団法人地方自治研究機構調べ。2025年12月25日現在)。こうした地方レベルでの「人権条例」や「ネット上の差別防止条例」等の制定・改正に向けた運動を部落差別を含む、あらゆる差別を禁止する包括的な差別禁止法の制定へと結びつけてとりくもう。
第2に、狭山事件の再審実現に向けた運動である。
25年3月に石川一雄さんが86歳で死去し、遺志を継いでつれあいの早智子さんが第4次再審請求を申し立てた。第4次請求では第3次請求で積みあげた278点の新証拠(筆跡鑑定やインク鑑定など)をすべて継承しており、東京高裁にたいし鑑定人尋問や事実調べの実施を迫る世論を高めていくことが求められる。現在の再審手続きは、裁判官の裁量に委ねられた状況が続いている。「再審法」改正を求める運動とつながって、司法の民主化のうねりを広げていこう。
しかし、法務省側の案では、証拠開示の範囲が現状の実務(裁判官の訴訟指揮による開示)よりも狭くなる、いわゆる「改悪」への懸念が噴出している。「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」には、自民党議員も参画しているが、25年の法案提出時には共同提出に加わらなかった。今回の総選挙で、さらに政治状況が厳しさを増しているが、地方議会の意見書(20府県議会・830自治体議会)、250の自治体首長の賛同という民意を国政に示し、超党派での議論を再燃させていく。議員連盟と連携をとって超党派のロビー活動などのエネルギーにしていくことも重要だ。「疑わしきは罰せず」の理念が再審にも適用されるよう、超党派議連を通じた「議員立法」の成立をめざす不断のとりくみを推進しよう。こうした運動の積みあげが、石川一雄さんの無念を晴らし、新たなえん罪を防ぐ唯一の道である。
第3に、部落差別の解消と部落問題の解決を地域共生社会の実現のなかに位置づけていく運動である。厚生労働省は、隣保館がとりくんでいる、人権問題解決に向けたとりくみも地域生活課題の解決に向けたとりくみの一つであるとの見解を示している。
今国会では、「身寄りのない高齢者等の支援」などに関わって、「社会福祉法」等の改正が見込まれている。市町村の「地域福祉計画」策定は、「社会福祉法」上では努力義務であるが、策定・改定にあたり、隣保館など各部落にある公的施設を位置づけることを求めよう。「貧困や社会的排除」「孤独・孤立」をなくしていくために生活困窮者自立支援事業との連携等を推進して「差別のない地域共生社会」の創造へ、地域に根を張った運動をねばり強く、くり広げていこう。
第4に、組織改革と持続可能な運動の構築という課題である。
各部落では人口減少(流出)と高齢化により、従来の住んでいる場所(属地)や血縁(属人)に縛られた組織形態では、現代にあわなくなっている。固定的な支部活動への参加を求めるだけでなく、地域外に居住している出身者や、自身のルーツ、アイデンティティに不安や悩みを抱えている仲間も含めた「新たなつながり」として、ネットワーク型の受け皿づくりを構想したい。さらに「性別役割分業意識」が根強く残っていて、セクハラ・パワハラといった問題も明らかになっている。こうした同盟組織の弱体化という問題について、組織内部の意識改革、そして最重要課題の一つである持続可能な財政の確立もあわせてとりくんでいくことが重要である。
今大会の方針草案では「ネットワーク型の新たな組織形態」「ジェンダー平等とハラスメント対策」「人材育成と財政改革」という三つの柱を提案している。今年は部落解放全国委員会の結成から80年という節目でもあり、組織・財政改革と持続可能な運動構築を「待ったなしの課題」として議論を加速させたい。全代議員の活発な討議をお願いするものである。
第5に、国際連帯の強化である。世界的に「自国第一主義」や差別排外主義が強まり、国内外で政治的・社会的な混乱や不安定さが増しているからこそ、平和や人権の確立に向けたとりくみを強めていく必要がある。「人種差別撤廃条約」を日本政府が批准して30年という節目の年。反差別国際運動(IMADR)との協働で、国内外の被差別マイノリティとの具体的なパートナーシップ活動の推進を通じて、日本国内の法整備を国際基準にまで引きあげていく運動を強化していきたい。
10年前に制定された「部落差別解消推進法」は理念法にとどまっており、ネット上の部落差別情報(被差別部落の所在地をさらす行為など)を禁止する実効性が不足している。しかし、高度情報化社会特有の差別事案の氾濫が「包括的な人権の法制度」制定への強力な根拠となってきている。「差別されない権利(人格的利益の尊重)」を認めた「全国部落調査」復刻版出版事件の東京高裁判決(確定判決)、「部落探訪」削除埼玉訴訟で、インターネット上の差別情報の「芋づる式」な拡散の危険性を指摘した、さいたま地裁判決の積極面を、今後の法制度議論での「武器」として生かしていこう。各部落で根を張った運動を地道に、そしてねばり強くとりくんでいくことをとおして、各部落の課題を人権政策課題として押しあげていく運動を展開していこう。あらためて参集する全代議員による活発で熱心な熟議を通じて、大会を成功させよう。

「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)