<月刊「狭山差別裁判」321号/2000年9月> 証拠を隠しつづける東京高検の姿勢は許されない さる8月2日、狭山弁護団は、東京高裁第五刑事部の高橋省吾・裁判長と面会し、9月に足跡に関する新鑑定と補充書を提出することを伝えた。また、証拠開示についての経過を説明し、裁判所の理解を求めた。 足跡の問題にかかわって、弁護団はこれまでくりかえし現場足跡の写真の証拠開示を求めてきた。警察官の作成した実況見分調書には「足跡を写真撮影した」と書かれており、石川さん自身も見せられていることから足跡写真が存在するはずだからである。検察官は足跡写真はないとして開示におうじていないが、一方的な回答であり、納得できるものではない。雑木林でのルミノール検査報告書の問題もふくめて、一方的に「ない」というのではなく、まず証拠リストを開示し、何があるのか明らかにしなければならないはずである。 ところが、検察官の手元に2メートルもの未開示の証拠と証拠リストがあることがはっきりしていながら、担当の検察官が昨年4月から5回も交代し、弁護団との折衝がすすんでいない。そして、それら大量の未開示証拠がまったく開示されないまま昨年には再審請求が棄却され、異議審も1年以上が経過しているのである。足跡写真にしても「殺害現場」の血痕検査結果にしても確定判決や棄却決定の認定の当否、自白の信用性にかかわる重要な証拠である。再審請求の異議申立を審理する東京高裁第五刑事部も証拠不開示が続いている事態を無視、放置することはできないはずである。証拠の不開示が誤判の大きな原因の一つと言われて久しい。新証拠発見を開始の要件とする現行の再審制度の趣旨、無辜の救済という理念からしても、検察官手持ち証拠の開示は再審請求において、とくに保障されなければならないはずなのである。 一昨年11月には、国連の自由権規約委員会が日本政府に、弁護側が証拠開示を受ける機会を保障するよう勧告している。しかも、委員会の委員からは、具体的に狭山事件をあげて、証拠開示がどうなっているのか質問がされた。しかし、この2年間、この勧告はまったく無視されたままである。証拠を持ちながらまったく開示におうじない検察官の姿勢は、国連の勧告を無視しているというだけでなく、それによって石川さんは公平な裁判を受ける権利を奪われているのであり、国際人権B規約と憲法に違反するといわねばならない。 弁護団は、この9月に東京高検の江幡検事と再度の折衝をおこない、強く証拠開示を求める予定であるが、これ以上、東京高検の不当な証拠隠しを許さないために、証拠開示の闘いも重大なヤマ場といわねばならない。新証拠の提出、証拠開示の折衝を受けて、この10月以降、異議審の闘いは大きな正念場をむかえることになり、わたしたちの闘いの強化が問われている。 きたる10月31日の中央集会をヤマ場として、各地においても取り組みの強化をはかろう。この間も全国で住民の会を結成しようという動きが活発である。また各地で住民の会が地道な学習会の取り組みやビラ配布活動をおこなっている。異議審において事実調べをかちとり、検察官の不当な証拠隠しの姿勢を打ち破るためには大きな国民世論が必要である。10・31にむけて積極的に住民の会結成をすすめ、100団体突破をめざし、市民ぐるみの大きなうねりを作り出そう。そうした狭山の闘いが、司法反動に歯止めをかけ、人権擁護の視点にたった司法の民主的な改革の動きにつながっていくはずである。
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