<月刊「狭山差別裁判」335号/2001年11月>
証拠不開示は市民常識にも国際常識にも反する
東京高裁は証拠開示を命令し十分な証拠調べをおこなえ
福岡地検の検事による裁判官への捜査情報漏洩事件で、検察官にも、それと裏で癒着した裁判官にも国民が強い不信を持ったのは当然であろう。法務省、最高検は、「検察官が市民感覚からずれて独善に陥っているという批判を真しに受け止め、検察官の意識改革を図るべく」「市民感覚を学ぶことができる」ようにすると発表している。(三月九日の法務大臣発言等)
検察官が手持ち証拠を開示せず隠匿しているという狭山事件の実態もまた、市民感覚からずれた独善的で、不公平、アンフェアな姿勢のあらわれである。法務省や検察、裁判官が国民の批判を本当に真摯に受けとめるというなら、まず、狭山事件における証拠隠しの姿勢をただちにあらためるべきであろう。
東京高裁・高橋裁判長も、公平で公正な裁判を実現するべき裁判所の責任として、検察官の証拠隠しの姿勢をきびしく正し、検察官に証拠リストなどの開示を命じるべきである。
そもそも、情報公開が言われる時代に、検察官が膨大な証拠を隠し持っているという実態は市民常識に反する。検察官が証拠を隠した裁判などだれが考えても公平・公正でない。とくに、狭山事件の場合、事件後三十八年も経過した再審請求事件であり、東京高検の担当検事は、具体的に、二〜三メートルの証拠資料が整理されて手元にあることを認めているのである。そして、再審請求し新証拠の準備を必要としている弁護団がくりかえし開示を求めているのだ。しかも、証拠のリストやプライバシーに関わらない証拠をまず開示するようにとの絞った開示請求もおこなっているのである。にもかかわらず、東京高検の検事がいまだにまったく開示せず膨大な証拠が眠っていることはだれが考えても正義に反するし、許されないことであろう。
検察官が不開示の理由としてあげるのは「プライバシーの考慮」だけである。しかし、プライバシーに考慮した開示の方法はあるはずだ。現に諸外国の証拠開示手続きをみても、原則は全面開示としたうえで、例外的に不開示の理由を具体的に明らかにし、裁判所など第三者がその当否を判断して不開示の裁量を認めるというのが普通だ。とくに、証拠リストをまず弁護側に提示することは義務となっている。検察官が膨大な証拠を一切開示しないということは国際常識にも反しているのである。
日本政府は一九九七年に国際人権自由権規約の実施状況についての第四回報告書を国連に提出し、翌年十月に国際人権規約委員会で審査がおこなわれたが、その中で、ヤルデン委員は具体的に狭山事件をとりあげて、証拠開示が保障されていないとの懸念を質問した。そして、委員会は十一月五日に出した最終見解で、弁護側がすべての証拠資料にアクセスできるように法律および実務において、改善するよう勧告したのである。ところが、その後も狭山事件の証拠開示はまったくおこなわれていないのだ。日本政府は国際人権自由権規約にもとづく第五回報告書を来年十月末までにふたたび国連事務総長に提出することにしている。前回の勧告以降まったく証拠開示がおこなわれていない狭山事件の実態を真剣に反省し、ただちに改善し、それを報告すべきであろう。そうしなければ、国連勧告はまったく無視されたままということになる。
わたしたちは、今後、証拠開示を国民世論に訴えるとともに、国際的にも訴えていかなければならない。
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