<月刊「狭山差別裁判」346号/2002年10月>
えん罪防止・誤判救済、証拠開示の公正・公平なルール化を
政府の司法制度改革推進本部に強く求めよう!
前号でふれたカナダのマーシャル事件は、ネイティブ・カナディアンの青年、ドナルド・マーシャルさんが殺人犯にされ再審で無罪となった、えん罪事件であるが、事件のおきたノヴァ・スコシア州の政府は、無実の罪で十一年間投獄されたマーシャルさんのえん罪の原因を究明するための 「ドナルド・マーシャル・ジュニア訴追に関する王立委員会」を設置し、七百万ドルをかけて二年間にわたる調査をおこない報告書を作成している。一五〇〇ページにおよぶその報告書は、えん罪・誤判の事実経過にとどまらず、警察のありかたの問題、ネイティブ・カナディアンや黒人にたいする差別(この事件は殺された被害者が黒人だったのでズサンな捜査がおこなわれたことが判明した)と刑事司法とのかかわり、検察、法務省と刑事司法制度の問題にまでふれた検討と提言をおこなっているのだ。
報告書は冒頭で 「われわれは、ドナルド・マーシャル・ジュニアに起こったような誤判が今後決して生じない保証はないことを知っている。けれども(刑事司法に)責任と権限ある人々は、そうした可能性を少しでも減少させることができるよう、あらゆることを人間として実行する責務があるとわれわれは信じている。そのような信念に基づいて、われわれは本報告書をここに提示する次第である」と述べているという。マーシャル事件と検察官の証拠開示を義務化したカナダの司法改革を紹介した指宿信・立命館大学教授は、この報告書の言葉を引用し、「わが国では死刑再審無罪事件を四件も数えるのに、こうした卓越した信念が公文書として示されたことも誤判原因が公的に調査されたこともない」と鋭く指摘し、日本における証拠開示確立が急務であることを提言している。
現在、政府の司法制度改革推進本部は、昨年出された司法制度改革審議会の最終意見をもとに、十の検討会を設けて立法化などの作業をすすめ、二年後の二〇〇四年の通常国会に法案を提出する予定である。この検討会のうち「裁判員制度・刑事検討会」が、「裁判員制度」(市民が裁判員として裁判に参加する制度)や刑事手続きの改革の具体的検討をすすめており、その論点のなかに「検察官による証拠開示の拡充」もふくまれているが、どれだけ日本におけるえん罪事件や誤判事件の教訓を生かした議論がされているのか疑問である。政府の司法改革推進本部には、さきのマーシャル事件報告書に示されたような姿勢をもって司法改革にとりくんでもらいたい。
わたしたちは、この検討会の議論に注目し、四十年も無実を叫び膨大な未開示証拠がありながらまったく開示されない狭山事件の不当な実態や、えん罪・誤判が長期にわたる重大な人権侵害であること、いまも市民の人権をおびやかしているえん罪が跡を絶っていないこと、警察の取り調べの可視化や証拠開示の保障などによってこうしたえん罪を防止し、誤判を救済しなければならないこと、国連の刑事手続き改善の勧告や諸外国の制度をふまえる必要があることなどを指摘しながら、えん罪をなくし、誤判を迅速に救済するためにこそ証拠開示の公正・公平なルール化が不可欠であることを訴えていく必要がある。
司法改革はわれわれ市民の問題であり、狭山事件の再審-無罪勝利をめざすわれわれにとって重要な課題である。弁護側が検察官手持ち証拠の開示を受けられる証拠開示のルールの確立、とくに、検察官が手持ち証拠のリストを弁護側に開示する義務を少なくともルール化するよう強く求めていこう。
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