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<月刊「狭山差別裁判」399号/2007年3月>

東京高裁・門野裁判長は事実調べをおこない
自白の信用性を徹底的に再検討すべきである。

 狭山弁護団は2007年3月30日に東京高裁に新証拠と補充書を提出した。提出された新証拠は事件当日、犯行現場のすぐ隣の畑で農作業をおこなっていたOさんの供述調書と音響工学の専門家である安岡正人・東大名誉教授による鑑定書、法医学者による鑑定書などである。これらの新証拠は犯行現場・犯行態様に関わる石川さんの自白がまったくの虚偽、作られたウソの自白であることを明らかにするものである。
  0さんが狭山事件の犯行当日とされる1963年5月1日の午後、殺害現場とされる雑木林に隣接する桑畑で除草剤をまく作業をおこなっていたことは1981年に検察官が証拠開示した捜査報告書によって判明した。0さんは悲鳴を聞いておらず人影も見なかったと当時も警察に話しており、一連の0さんの証言内容は明らかに自白とそれを根拠にした確定判決の認定と矛盾する。自白においては雑木林の杉の木の根元付近で押し倒したらくりかえし大声で「キャー」「助けて」と叫んだとなっている。杉の木と0さんが農作業をおこなっていた地点は約20メートル~55メートルという至近距離である。常識で考えて悲鳴が聞こえないということはありえない。これまでの裁判所の棄却決定は、0さんが、「犯行時間帯」に「犯行現場」に隣接する畑にいたこと自体は否定せず、「0さんが悲鳴らしいものを聞いた」として自白と矛盾しないとしている。0さんは「誰かが呼んだような声」を午後3時半から午後4時頃の間に聞いたと供述しているのであって、「悲鳴を聞いた」というのは裁判所の勝手な解釈にすぎない。0さんの供述の一部をとらえて「悲鳴を聞いた」ように決めつけることは許されない。0さんは今回の供述調書で悲鳴を聞いていないとあらためて証言しており、少なくとも裁判所は0さんに証人尋問で直接確かめるべきであろう。
  棄却決定は、風や地形の影響、農作業に集中していたために、悲鳴が「誰かが呼んだような声」程度に聞こえたという言い方もしているが、きわめて抽象的・一般的な言い方である。今回、弁護団が提出した安岡第2鑑定書は、音の減衰も具体的に検討して、悲鳴が杉の木の地点で発せられれば0さんのいた場所に十分な音量として聞こえることを科学的に明らかにしている。
  そもそも、見知らぬ女子高校生を誘拐しようとして声をかけることも、自分の家に近い雑木林に連れ込むことや目の前に車を止めて農作業をしている人がいるところで強姦殺害におよぶことも考えられない。自白じたいがきわめて不自然であり、東京高裁はこれら自白の信用性を総合的に再評価すべきである。
  多くの人がこの犯行現場とされる場所と0さんの桑畑の位置を現地調査で確認している。事件から44年が経過して様変わりしたとはいえ、現場に立てば自白のウソが実感されることを多くの市民が体験している。第3次再審請求を審理する東京高裁の門野博裁判長は、現場検証と0さんや安岡鑑定人らの証人尋問を必ずおこなうべきである。事実調べを求める100万筆の署名、100万人の市民の声を真撃に受け止めるべきである。
  この間のえん罪事件では、犯行を認めた自白が虚偽であったことが明らかになっている。安易に自白をうのみにした結果、検察が誤って起訴し、富山事件では裁判所も誤って有罪判決を出すという重大な人権侵害がひきおこされていた。狭山事件においても確定判決や棄却決定は自白に依拠して有罪の認定をおこなっており、自白は重大な争点である。門野裁判長は、この間のえん罪を教訓にし、狭山弁護団提出の新証拠の事実調べをおこない、自白の信用性を徹底して検討しなければならない。
  門野裁判長に事実調べを求めて署名運動をさらにすすめるとともに、世論を大きくしよう!


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